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シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」
「中小企業家しんぶん」2002年12月15日号より

シリーズ7(最終回)

 本シリーズでは、京都北部の5信金合併、東京都内の王子を中心とする4信金と東京東信金の取材を通じて信金再編が中小企業に大きな影響を与えていることが明らかになりました。最終回では中同協企業環境研究センター委員の山口氏のインタビューとシリーズを通じた解説を掲載します。


金融再編の矛盾と金融アセス法

立教大学教授 山口義行氏にきく

オーバーバンキング論2つの矛盾
 「オーバーバンキング(金融機関の数が多すぎる)論」のもと、合併や破綻処理で金融機関の数減らしが進められてきました。そうすれば、金融機関の収益が向上し、金融が安定するのだというわけです。昨年度は50を超える金融機関が破綻処理され、最近は合併推進のための法改正まで行われました。しかし、この理論はそもそもおかしいんです。

 第1に、合併などで金融機関の規模を大きくしたからといって、必ずしも収益力が向上するわけではない。第2に「資金の過剰」と「金融機関の過剰」とが混同されている。

 地域金融機関の場合は地域密着や「小回りが効く」ことが収益の支えになっている。アメリカでも商業銀行のROA(資産に対する利益の比率)を規模別に比較してみると、日本でいう信金や第2地銀程度の規模が最も高い。政策当局が合併を進めて無理に金融機関の規模を大きくすれば、収益力はむしろ低下する危険性さえあります。

 また金融機関の低収益の基本的な原因は資金需給のアンバランスにあります。資金があってもそれをうまく運用する機会が少ない。これが原因ですが、これは金融機関の数を減らしても解決しません。1つの金融機関を閉鎖しても、その預金は他の金融機関が引き継ぐため資金過剰の解消には役立たないからです。

資金需要の掘り起こしは企業育成しかない
 金融機関は基本的には資金需要を掘り起こすことで低収益を克服するしかない。そのためには、苦しい状況にある企業を支援したり、起業を促進したりして金融機関としての付加価値を高めることが重要です。それには人手と支店が必要になります。

 ところが、今の金融行政はリストラ型の合併を推進して、金融機関に人や支店を減らさせている。また過大な引当金を積まさせて、金融機関が企業支援をやりにくいようにしている。たとえば、借り手企業の支援のために金利の減免や返済猶予をすれば、条件緩和債権ということで、金融機関は通常の3倍の引当金を積まされることになります。これでは金融機関も企業支援がしにくいし、企業も思い切った積極路線が採りにくい。結局資金需要は生まれてきません。

金融アセスメント法で「経済人」に
 同友会が制定運動を展開している「金融アセスメント法」は、地域貢献の視点で金融機関を評価していくものです。「21世紀は中小企業の時代」と言いながら、中小企業経営者が地域を語れない、業界のことでさえ語れない場合が多い。金融アセスメント法の制定運動は、中小事業者を一企業の「経営者」から地元の「経済人」へと成長させることに貢献しています。制定を推進するためには、中小企業経営者が金融機関や行政と対等の立場で地域経済を論じることが必要だからです。

 環境が変わるのを待つのではなく、自らが働きかけそれを変えていく。その過程で自分自身も成長する。多くの人々がこのことの重要性を認識した時こそ、本当の意味で「中小企業の時代」がやってくるのではないでしょうか。


【解説】

信金の弱体化招く金融再編

 「おたくの同友会は金融アセスメント法に取り組むことはないですよね」。ある同友会の役員は取引先の地域金融機関から、こう“脅し”をかけられることがあったといいます。

 護送船団方式が批判されてきた金融行政は、金融機関の「合併再編」を「印籠」として、地域経済の視点のないまま、金融機関の「経営の健全化」の名の下に、その個性や独自性、地域性を無視した愚策を繰り返しています。

失われる地域性
 地域経済の最後の砦となる協同組織金融機関、銀行から借りられない中小企業が自らの手で作り支えてきた信金や信組でさえ、金融検査マニュアルの下で不良債権処理を急ぐあまり、中小企業育成に目が向かず、翻弄されていることが本シリーズの取材の中で明らかになりました。

 京都北部や都内の信金合併で、地域経済を守るはずの地域金融機関が、その再編の過程で自らの手足である支店や職員を切り刻み、得意先である中小企業を不良債権として切り捨て、結果として将来の収益性までも低下させていく現状。再編時の混乱に、地元の名前が失われていく信金へ見切りをつけ、地銀等へ移っていく優良顧客。

 信金の再編は、それ自体が金融機関の経営基盤の弱体化を招いていることに早く気づかなければなりません。またそのことで地域経済そのものが蝕まれているのです。それも、リレーションシップの強化で大手行に比べてはるかに高いはずの回収率は強調されないまま。

 現在の日本経済を支える企業群も、過去には信金から資金を調達することで起業してきたのであり、それは信金マンの誇りでもありました。しかし、現在の金融行政下ではリスクの高いところへの通常のプロパー融資は回避、消費者金融と同様に高金利での小口融資しかできません。

金融アセスメント法で金融機関との連携を
 金融アセスメント法は本来、地域金融機関の役割を強化し、地域とともに歩む姿勢を支えるものです。ところが、先のコメントにそういった理解はみられません。すでに巨大化した信金の経営者に、「普通銀行と同じ土俵で勝負したい」との発言がみられます。そういった信金には金融アセスメント法は足かせにしかならないと考えるからです。

 DOR調査で判明した、信金で急増する金利の引き上げや追加担保・保証人の要求による「貸しはがし」は、信金の本来の役割から外れる行為です。

 中小企業の育成・発展こそが、地域金融機関の生命線であり、発展の鍵です。金融アセスメント法の取り組みの中で、地域金融機関の中には積極的に署名を集めるところも出ています。金融機関との対話を深め、地域経済の発展をともに論じあい、法制定へ向けて連携体制をとることがますます重要になってきています。

中同協事務局 平田美穂

調査 資料 対話 シリーズ「どうする政策金融Q&A」 シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」 シリーズ「どうなる金融〜信金再編の余波」 シリーズ「金融機関とともに地域を考える」 シリーズ「金融機関とともに東京同友会と東信協・保証協会」

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