中小企業憲章と私

人とのふれあいを取り戻す

石川同友会副代表理事 阿部 靖司(ダイヤモンド商事(株)社長)


 私が中小企業憲章の制定運動の存在を知ったのは、2003年に行われた第35回中同協定時総会の議案書でした。当時の私は、中小企業憲章をまったく理解できず、2004年2月の中小企業問題全国研究集会で第15分科会「あるべき日本経済の将来像と『中小企業憲章』」に参加し、憲章が中小企業にとって大切な指針を示していることを知りました。

 たまたま、同年6月に9日間の日程でイギリス、フランス、スイスの商業施設を見学する機会があり、市場や専門店などの小売業を見て回りました。あとになって中小企業憲章のモデルがEUの小企業憲章にあることを知り、大型店の立地規制や営業時間の制約などと、カフェやバザールのにぎわいを見て、小企業を優先する憲章があってのことと納得しました。そして、中小企業家同友会の「3つの目的」の3番目、「良い経営環境をつくろう」の運動の柱になることを確信し、理事全員に呼びかけて勉強会を開き、現在も取り組んでいます。

 私の店舗がある金沢市近江町市場には170の店舗があり、100%中小零細企業で、家内企業も少なくありません。そして、街中から消えつつある魚屋さん、八百屋さん、肉屋さん、お菓子屋さんなど、多くの専門店がまだ残っています。

 再整備事業に向けて市場内で実施したアンケート調査によると、「キレイなトイレ、清潔な売り場、休憩施設、公共施設」などへの要望がある一方、「にぎわい、雑踏が好き、多くの店員さんを含めた、人と人との温かいふれあいを求めて来ています」との答えが多数ありました。市場の再整備事業は今年10月中旬より着工される予定ですが、成功の鍵は憲章制定の取り組みを広げる中にあると思います。

 街づくり3法が施行されましたが、大規模商業施設の開発が今なお続き、中小零細企業の減少が続いています。年中無休、長時間営業のショッピングモール、24時間営業のコンビニ、さまざまな娯楽施設がもたらす文化が、真に人々に幸せをもたらしているのか考えなければなりません。「眠らない街」東京が地方に波及してよいものでしょうか。

 昼と夜のけじめのない生活習慣、他人の存在を考えない人々、個性を強調し、理性を忘れた人々。そして、地域に必ずあった祭礼がどんどん廃止され、人と人とのふれあいの機会がますます失われています。失われた人間社会を取り戻し、地方の復権と小企業の集まる商店街活性化のために、中小企業憲章の理解と制定運動に向けた努力が必要です。

「中小企業家しんぶん」 2006年 10月 15日号から

このページのトップへ ▲

同友ネットに戻る