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中小企業憲章草案〜前文解説

中小企業家同友会全国協議会(中同協)
中小企業憲章制定運動推進本部
中小企業憲章草案成文化ワーキンググループ

この「前文解説」は、憲章草案を検討・学習する際に参考としていただくため、中同協・中小企業憲章制定運動推進本部の委託を受けた中小企業憲章草案成文化ワーキンググループが作成したものです。中同協が決定した文書という位置づけではありませんので、憲章草案を検討する際の参考文書としてご活用下さい。

私たち日本国民は、日本の経済・社会・文化及び国民生活における中小企業の役割を高く評価し、国民一人ひとりを大切にする豊かな国づくりのために、ここに中小企業憲章を制定する。

この憲章の主語は「私たち日本国民」です。したがって、日本の国民が、中小企業に携わっている場合も、携わっていない場合も、ともに中小企業の役割を認識し、その役割を期待するという意味になります。それゆえ、そのような認識と期待を国民の総意として確認するための最もふさわしい法的な形は何かと考えた場合、《憲章》という形が浮かび上がってきたのです。国の未来は国民が自ら築くものです。本憲章は、中小企業の立場からの日本の未来への意思表明といえます。

ここでは、「国民一人ひとりを大切にする豊かな国づくりのため」という中小企業憲章制定の目的を述べています。この憲章の目的を中小企業が達成する要件を十分備えているということを強調する意味で、「日本の経済・社会・文化及び国民生活における中小企業の役割を高く評価し」としています。なお、「豊かな国づくり」とは、全ての国民が平和で安定した暮らしができる、幸せを実感できる国づくりという意味であり、経済的な豊かさだけを意味しているわけではありません。

中小企業は、日本経済の根幹である。

根幹とは、「ねとみき。根本(ねもと)。転じて、ものごとの重要な部分」(広辞苑)の意味です。木にたとえるならば、中小企業は日本経済の根であり、幹であるということ。中小企業は、日本国民の生活と地域を支え、日本経済の発展に寄与してきた大きさは計り知れないものがあります。しかし、これまでは、その役割と地位に見合った評価は十分ではなく、「脇役」に甘んじてきたと言わざるを得ません。ここで改めて、日本経済にとっての中小企業の位置づけを「根幹」と表現し、客観的な存在の大きさと重要さを確認しています。

経済の語源である「経世済民」は、「世を治め、民を救済する」という意味で、中国の古典からきています。経済の目的が、国民の暮らしが守られて生活の質が向上することであるとすれば、量的にも質的にも多数を占める中小企業はその担い手として大地にしっかりとした根を張り、たくましい幹を形成して、「経世済民」の花を咲かせるということです。

中小企業は、暮らしに根ざす仕事を生み出し、雇用の主要な担い手として、地域、社会、文化の力強い発展に貢献する。

今日の日本経済では、雇用と就業の人口の7割以上の人々が中小企業に携わっており、そのような人々の活躍は日本経済の発展に多大な貢献をしています。中小企業の事業と経営は、人々の日々の暮らしに役立つ物やサービスを生産するばかりでなく、同時に技術革新を通じてそれらの市場を切り開きます。また、全国のどのような地域にも中小企業は事業を営み、その地域において、社会のきずなをつくり、時代を超えて文化を引き継ぎ、発展させます。さらに、中小企業は日本のものづくりの土台を支えており、大企業といえども、中小企業の存在なくしてはその事業は成り立ちません。

中小企業が存続するためには事業体として利益を上げる必要がありますが、それは個別的な利益のためばかりでなく、この文面にあるような中小企業の社会的役割の維持・発展のためにも必要なことであることを国民から理解されなければなりません。国民のそのような「目線」を広げていくためには中小企業自身の一層の努力が求められます。

一方、日本の経済社会は解決方向がなかなか見出せない深刻な問題をかかえています。産業の空洞化や地域経済の疲弊と崩壊といった問題に加え、毎年3万人を超える自殺者や病理的な犯罪の続発など社会的道徳的危機にも直面しています。 中小企業は、これまで、日本の経済社会の発展を大きく担ってきましたが、日本の経済社会が抱える問題や課題を解決するうえでは不可欠の存在であり、中小企業の社会的役割をさらに強力に発揮できる環境を整備するための国民的努力も求められています。

中小企業は、先人の知恵に学び、互いに結び励ましあい、競い高めあい、人を育て、国民や地域の期待にこたえる。

中小企業の日々の営みは、暮らしに根ざすがゆえに、科学的な知識だけでなく、先人の知恵が重要な働きをします。そのためには、中小企業同士が、結びあい、励ましあい、かつまた、競い高めあわなければなりません。さらに、中小企業は、人が育つ場であり、社員とともに地域にかかわりながら、お客様や地域から「あてにされる人」を育て、「あてにされる企業」として成長することも期待されています。国民や地域は中小企業のそのような努力を期待しています。

中小企業は、日本経済の健全な発展、人類と地球の持続可能な未来に貢献し、国民の平和で安定した暮らしを実現する。

中小企業は、国民と歩みをともにすることから、日本経済が健全に発展することを必要としています。また、今日では、地球環境の保全を図らなければ、国民のみならず、人類と地球の存続も危ういものになります。中小企業は自然と共生し、暮らしに見合った経済の営みをしており、人類と地球の持続を可能にし、未来を切り開きます。そうであるからこそ、中小企業は国民の平和で安定した暮らしの実現に貢献できます。

近年、連続して食品不正表示問題や偽装事件が起こって大きな社会問題となり、企業の社会的責任や倫理観が厳しく問われました。企業活動の正当性が問われる時代になったといえます。

中小企業も地域やお客様に対して自社はどのような役割を果たしてきたのか、本憲章に照らして、自社の存在意義を改めて問い直すことが求められています。

世界は中小企業の役割を評価し、その活躍を積極的に支援している。日本の中小企業は、その歴史と経験をふまえ、世界の中小企業との連携を強める。

今日の世界において、欧米の先進国では中小企業の役割を高く評価し、経済が順調な時も、不調な時も、政策のうえで、中小企業を積極的に支援しています。また、中国・インド等の新興経済国も同じ努力を急速に高めています。日本は、歴史的に見るなら中小企業が活躍し、世界の中小企業の母国といえます。日本の近現代の中小企業の歴史は光と影に満ちていますが、それらの経験から得られるさまざまな教訓は、日本の中小企業のみならず、世界の中小企業の発展と連携に大いに役立てることが可能です。

中小企業への影響を第一に考慮した総合的な政策を実行するとき、日本経済が再生され、新しい日本がはじまる。

中小企業が真価を発揮するための政策は、単に中小企業政策のみでは不十分です。経済政策、産業政策、社会政策、地域政策、文化政策等々を包含する総合的な政策が求められています。中小企業憲章に基づく総合的な政策が実行に移されるならば、豊かな国民生活と多様な産業の活性化、地域経済の振興による日本経済の再生が図られ、新しい経済社会の礎が築かれます。

私たちは、下記の10項目の指針を国民の誓約として宣言し、政府に実行を負託する。

以上の前文は、冒頭で述べたように国民の中小企業についての認識と期待を示したものです。そして、それらを実現することは広く国民の責務でありますが、政策の実現という立場にある政府の役割が重大になります。その意味で国民は政策上の実行を政府に負託し、政府は負託に応えることが必要です。

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