学習資料(中小企業振興条例)

中小企業振興基本条例の制定で地域と中小企業の発展を

中小企業家同友会全国協議会政策局長 瓜田 靖

「中小企業振興基本条例」は今なぜ必要なのか

 第一に衰退の危機にある地域経済を中小企業振興・内発型産業振興で活性化させるためです。従来の工場誘致は困難さを増しています。地域経済を底支えしてきた公共投資も財政悪化でこれまでの水準は維持できず、地方中核都市を成長させてきた支店経済は大企業の支店機能低下で低迷し、中山間地域振興の切り札と目された『リゾート』ブームも多くは無残な状況にあります。今ようやく注目され始めているのが地域内発型中小企業であり、内発型の新事業創出・振興です。このような地域経済の現状を踏まえた「新しい条例」づくりが今求められています。

 第二に自治体が財政破綻を回避し、十年、二十年先を見据えた産業振興が必要となっているためです。基礎自治体では、今後の急激な少子化・高齢化の進行に伴い、財政収入の激減期を迎えます。加えて、地域産業の「空洞化」懸念が高まる中にあって、市区町村の「財政破綻」の危険性は急速に現実味を増しつつあります。

 今、自治体が十年先を見据えて「基本条例」を制定し、中小企業を軸に産業振興を進めることが求められています。

 第三に自治体行政に「中小企業を第一に考える」という意識変革を条例づくりで進めていくためです。ヨーロッパ小企業憲章を制定したEUでは、「Think small first」「小企業を第一に考えることこそ、EUの企業政策のエッセンスである」という姿勢を確立しています。

なぜ同友会が中小企業振興基本条例に取り組むのか

 地域の実態に各同友会・地域支部が目を向け、地域の中小企業を守り発展させ、荒廃する地域社会の再生にもつながる中小企業振興基本条例を制定させることは同友会本来の使命です。「条例」制定に取り組むことは、同友会理念の「国民や地域と共に歩む中小企業」の実践であり、地域での同友会の存在感を示すことにつながります。

 金融アセスメント法制定運動で地域金融機関との相互理解が進む中で、地域の再生・振興にとっては、金融環境の改善、資金循環が良くなるだけでは十分でなく、地域経済そのものの体力をつけることが必要であるとの共通認識に至りつつあります。金融アセス運動の発展の一つとして、地域での「条例」づくり運動が求められているのです。

 また中小企業憲章の地域版であり実践版である中小企業振興基本条例づくりに取り組むことで、憲章の具体的イメージをつかむとともに、各同友会が条例づくりで築いた地域の諸団体等との連絡協力関係を憲章運動でも活かしていけます。

先進事例に見る中小企業振興基本条例の果たしている役割・効果

  1. 地域の中小企業に最も身近な行政である市町村などの基礎自治体が、その地域の実情に適した産業振興・中小企業施策を実施する根拠となります。
  2. 産業振興・中小企業振興に対する地方自治体の主体的な姿勢・責任が明確になります。
  3. 継続的で系統的に成果を上げる施策の実施や、そのために必要な予算の確保の担保になります。
  4. 「条例」は、住民の理解と協力を得て、地域ぐるみで中小企業を重視し、支援するという公の「宣言」として地域の中小企業を励まします。
  5. 「条例」の内容と活用次第では、大企業の進出や撤退など地域経済で焦点となっている問題をクローズアップさせ、機敏な問題解決の対応に結びつくことが可能になります。
  6. 「産業振興会議」の設置など市民参加型の推進体制を築くことにより、現場のニーズにそった施策が可能になると共に、若手産業人の育成など地域の次代を担う人材の育成の場ともなります。
  7. 「条例」は、行政の職員の意識改革につながります。「役所の外」に出て現場で考え行動できる職員を輩出するきっかけを作ります。

条例に何を盛り込むか

 条例づくりに取り組む視点としては、(1)県民、産業従事者を元気にする迫力はあるか、(2)絵空事でなく、実行性・実効性を確保できるか、(3)条例だけでなく、「産業振興会議」の設置など具体的ニーズに対応する仕組みがあるか、(4)若手の経済人や行政マンなど地域の将来を担う人材育成の視点と次世代へのメッセージを込めた条例をめざすことなどが大切な点です。

 「条例」の内容づくりの留意点としては、(1)前文や第一条等で中小企業の役割と中小企業政策の重要性を位置づける(目的・理念を明確に)、(2)行政トップの責任、予算の確保を明示する、(3)県民・市民の理解と協力を求める姿勢も重要、(4)大企業者の努力義務もこれからは必要、(5)産業・商業振興とまちづくりの結合、(6)4年に一度の条例見直し規定を入れる等「育てる条例」の観点を入れること、などが重要と思われます。

「中小企業憲章」学習運動にどのように取り組むか

 中同協では「憲章」制定運動を進める上で、(1)「中小企業憲章」の大学習運動を、(2)各同友会における「中小企業振興基本条例」制定運動への着手、(3)同友会運動の質と量の両面での前進と連動化をはかる、(4)個々の会員企業と「憲章」運動との関係を重視、という四つの柱を掲げています。

 制定運動を進めるための当面のポイントとしては、次のような点が考えられます。(1)県同友会や支部の総会方針に「憲章」学習運動に取り組む旨を盛り込む。(2)県同友会や支部の役員研修会や例会の企画に「憲章」を位置づけ、「語り部」をつくる。(3)県同友会や支部で、地域経済と同友会の発展が一体のものとなった中長期ビジョンをつくる。(4)委員会・部会活動において「憲章」を議論していく。(5)県内の各自治体の「中小企業振興基本条例」等の有無や地域経済振興施策、中小企業政策などの状況、中小企業や同友会に対する認識を把握する。(6)当面可能性のある二〜三市町で「条例」の新たな制定または既存条例の改正などに取り組む。(7)「産業振興会議」等を県に設置させ、他の中小企業団体とともに同友会も参加し、地域経済・中小企業に目が向いた政策立案を進める。

 今、地域経済は「産業空洞化」の進行など崩壊の危機に瀕しています。大型店の急増・郊外展開による地域の衰退も商店街問題にとどまらず、治安や青少年問題、文化・伝統・田園景観の喪失など構造的な社会問題となっています。

 私たち同友会は、地域づくり・仕事づくりに果敢に挑戦し、地域の抱える問題の解決に寄与することを期待されています。また、公共投資の質を変え、比較的少ない費用でも地域経済を奥深いところから元気にする循環型の投資に政策転換するなど地域経済の組み立てを大きく変える発想が求められています。いまこそ、地域経済の崩壊をくい止め、抜本的に地域経済を再構築する課題に正面から取り組むときです。その取り組みの確かな足がかりとして、中小企業振興基本条例制定・見直し運動を進めようではありませんか。

(千葉同友会「同友ちば」2005年4月1日号掲載に一部加筆訂正―筆者)

 


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