学習資料(中小企業振興条例)

中小企業振興条例制定運動で見えてきた
地域づくりと同友会運動の展望
東日本地区代表者会議(6.14〜15、札幌)での報告より

千葉同友会理事 杉山武氏/千葉同友会事務局長 川西洋史氏


 今年3月に制定された「千葉県中小企業の振興に関する条例」に深くかかわった千葉同友会の経験が、6月14〜15日に行われた東日本地区代表者会議で報告されました。今後の中小企業振興基本条例制定・見直し運動にとって示唆に富む内容ですので掲載します。当日は、千葉同友会理事・杉山武氏と千葉同友会事務局長・川西洋史氏の2人が報告しましたが、それを1つの報告の形でまとめています。(編集部)

「千葉県中小企業の振興に関する条例」の先進的な特徴

 今回の振興条例の画期的な特徴については、「中小企業家しんぶん」の「同友時評」で整理していますので、詳しくはそちらを参照して下さい(「同友時評」2007年3月15日号)。ここでは、5つの特徴を指摘したいと思います。

 第1に、中小企業の県経済において果たしている重要な位置づけ、役割を明記していること。第2に、中小企業振興と地域づくりが不離一体であることを強調し、相互の好循環をめざすとしていること。第3に、中小企業の自主的な努力を促進することをベースにおきながら、「産官学民」挙げて中小企業を育てる姿勢を明記し、特に大企業・大学をはじめとした関係団体の協力を明記していること。第4に、知事は中小企業振興施策の実施状況について中小企業者等の意見を聴取し、年に1回公表するとしていること。第5には、あらゆる施策を実施する上で、中小企業への配慮をすることを要請していること。

 特に最後の特徴については、「県経済政策課は『国内では前例がないが、小企業を第1とする考え方は欧米では標準』と胸を張る」(「千葉日報」5月21日付)と報道されたように、EU小企業憲章等にも通じる先進的な条文です。

 県の担当者によれば、法令担当者のヒントをもとに挿入したものであり、他のセクションが行政目的を遂行する上で支障が出るのでは? と県庁内での相当な激論が交わされた末に条文化ができた、というエピソードがあります。

振興条例の制定過程

 千葉同友会は、2001年度の政策要望で「中小企業振興条例の制定」を初めて盛り込みました。その後、04年7月に同友会女性部会と堂本知事との昼食会の席上、振興条例の制定を要望。11月の県経営研究集会で堂本知事が来賓あいさつの中で「昨日の県議会で『中小企業振興条例の制定を検討する』と答弁しました…」旨の発言が出るという展開になりました。さらに、05年には以前からあった「千葉県経済活性化推進会議」の構成メンバーに同友会を加えていただきました。

 06年3月には、「経済活性化推進会議」の下部組織として「千葉県中小企業振興に関する研究会」が発足。同友会会員も3名が委員となり、杉山氏が副会長を務め、ここでは、1年間かけて条例の前提となる「ちば中小企業元気戦略」を作成するということで、起草委員会にも参加。「千葉の中小企業はどうすれば元気になるのか」という戦略を議論し、課題を整理しました。

 課題が見えてくれば、戦略が見えてくる。その戦略を担保するためには振興条例が必要だという流れができました。そして、07年3月に県議会で全会派一致で振興条例が制定されました。ほぼ同時に「ちば中小企業元気戦略・事業計画」も作成され、予算付けもされました。また、振興条例と「元気戦略」のチェック・検証機関として「中小企業活性化部会」が発足し、同友会会員もメンバーに入っています。

千葉同友会の果たした役割

 このような制定過程で千葉同友会の果たした役割は次の3点が挙げられます。

 第1は、中小企業の良識ある声を代弁する団体として積極的に発言してきたことです。真摯(しんし)な経営努力をベースにしながらの要望は、説得力を持ったと自負しています。

 第2は、県行政が現場の声から学ぶ姿勢を確立する上で貢献できたことです。県は、県内の各地域に県職員が出向き中小企業経営者から直接要望を聴く「地域勉強会」という場を設け、意見集約をしました。同友会では7つの支部等で実施し、現場の意見・要望を反映させることができました。

 第3は、行政の中小企業に対する見方を変え、行政の振興条例制定の意義づけや理論武装に役立てたことです。“中小企業に補助金を出しても社長の車が国産車から外車になるだけでは?”といった疑問を抱いていた県の担当者も、同友会の「自助努力」を前提として発言する姿勢にカルチャーショックを受けたようです。同友会の考え方や現場の声に接する中で、中小企業に対する認識が変わってきました。県側が用意した「研究会」の検討資料にヨーロッパ小企業憲章がさりげなく挿入されていたことには驚きました。中同協や千葉同友会の見解や資料も真剣に研究していたようです。

条例を生かす道〜地域づくりを企業づくりに取り込むこと

振興条例制定に向けた取り組みの成果と教訓

 この取り組みを通じた成果の第1は、行政との垣根が格段に低くなったこと。県と同友会は、共に「地域づくり」を担う仲間という意識を持てるようになってきました。

 第2には、行政の出す提言を真剣に受け止めるようになったことです。また、条例・元気戦略の検討・作成を行ったことで、県行政全体に徐々にその成果が波及しつつあるという実感があります。たとえば、同友会会員もメンバーに加わっている県の「官公需問題研究会」が最近提言を出しましたが、従来の路線を転換しつつあり、地元中小企業を振興する姿勢を強めています。

 第3には、同友会が県行政から経済4団体として認知され、県知事「中小企業表彰」の推薦団体になったことです。

 第4は、同友会の県への政策要望も、より当事者意識を持ったものになってきたことです。現在は条例・元気戦略に沿って具体的な要望・提言をしています。提言しながらわれわれも協力するというスタンスを強調しています。会員からも「自分たちが参加して条例・元気戦略をつくったのだからもっと良いものにしたい」という声が出るようになってきました。

 教訓と考えていることの第1は、地道な政策努力と経営努力の積み重ねの大事さです。「政策要望」は、1999年から提出し、商工労働部と懇談を積み重ねてきました。また、何と言っても経営指針成文化運動の蓄積が県との関係でも大きな役割を果たしたと思います。国や県の政策・施策を活用できる企業は経営課題が明確ですが、経営指針を確立した企業こそがその条件を満たせるからです。千葉同友会では、1997年より経営指針セミナーを実施し、卒業生を160名輩出していますが、そういった方々の経営実践が同友会の主張に説得力を与え、行政の共感も呼び起こしていると思うのです。

 第2は、キーになる行政マンに学習会の講師を務めてもらうなど、出番づくりと接触を密にし、同友会の雰囲気と魅力を体感してもらってきたことです。

 第3は、さまざまな行政の研究会、委員会での同友会理念にもとづく発言の大切さです。中小企業の狭い利益にとらわれない広い視野で地域づくり、企業づくりを考えていることを理解していただきました。その意味では、同友会の歴史の重さを改めて感じます。

 行政は予算制約がある中で、同友会企業のような経営課題が鮮明で「自助努力」の姿勢を持った中小企業に施策を活用してもらうことで、施策の効果を上げたいと考えている。そのような行政の考えていた方向や危機感とかみ合って、振興条例の作成・制定でも同友会を大いにあてにするようになってきたのだと思います。

振興条例をどう生かすか

 あてにされる同友会であることは、裏を返せば、県の施策を活用できる企業でなければいけません。そのような企業であるためには、経営課題を明確にする必要があります。

 そこで千葉同友会としては、第1に、「中小企業元気戦略」を活用して、自社の課題を洗い直し、施策を活用しようと呼びかけています。そのために、「元気戦略活用」シートや「自社分析」シート(作成中)を用意しました。2つ目は、「元気戦略セミナー」(県の施策担当職員と経営体験報告がセットの例会)の実施。3つ目には、県商工労働部との「地域勉強会」の実施などで、会員の「条例」「元気戦略」への意識づけを進めるようにしています。

今後の「地域づくり」についての課題と展望

 今後の課題の第1は、「元気戦略」を活用する運動を通じて問題点や課題を洗い直すことで、県政全般や予算組みのあり方についても検討ができるようになることです。千葉同友会の「政策要望」も県の政策によりいっそう取り入れられるようになることをめざします。

 この「元気戦略」施策を活用した同友会企業など一部の企業は確実に良くなると思います。しかし、千葉県全体の企業と地域が良くなるとは言い切れません。

 では、どうするか。1つは、足元をもっと強くすること。つまり、県内の市町村でも振興条例の制定など中小企業振興と地域づくりを一体のものとした政策理念を明確にする取り組みを進めることです。もう1つは、中小企業を日本経済の柱とする国政への転換、中小企業憲章制定がどうしても必要になることです。

 振興条例に取り組んで、中小企業憲章の必要性を改めて感じています。

 課題の第2は、農業などの第1次産業の振興をも視野に置いて、会内でのネットワークによる仕事づくりや新市場創造に取り組むことです。たとえば、「食と農を考える研究会」(仮称)を立ち上げようとしています。県の商工労働部の守備範囲だけでなく、縦割り行政を突破する“総合性”をもった取り組みが課題として浮上しています。

 第3には、他団体・学校・金融機関との提携をさらに進めること。昨年、千葉同友会は千葉商科大学と「包括協力協定」を結び、産学連携に取り組んでいます。

 最近、地域と中小企業のかかわりを改めて考えさせられる経験をしました。

 千葉県立盲学校で保護者・先生方と懇談したときのことです。保護者・先生からは、子どもたちの就職先として企業への強い期待が語られるわけですが、中小企業側は障害者雇用の重要性はわかっていてもそう簡単にできるものではない。「地元にどんな中小企業があるかご存知ですか」と聞いてみると、あまり認識がない。そこで単に就職先を求めるということだけでなく、地域の中小企業をもっと知り、育てるという視点にたてば、障害者雇用の場が広がるのではないか、という問題提起をして議論しました。振興条例前文の「県を挙げて中小企業を育てていく体制を築いていく」という意義を再認識した次第です。

 第4には、本格的な企業づくりとその中で「地域づくり」に結び付けていく課題です。

 最後に、その典型的例として鎌ヶ谷白井支部長の徳永昌子氏(鎌ヶ谷観光バス(有)専務取締役)の事例を紹介します。

 同氏は、鎌ヶ谷市の市内循環バスの存続をめぐる公聴会が開かれたとき、画期的な提案をしました。客が乗らずガラガラの状況で走る市内循環バスについて、1日2回しか回らないから不便でだれも利用しなくなるとして、小型バスを自社で走らせ、低価格で便数も増やし、市民に使いやすくすることで採算がとれると提案。それを実行し、「市民の足」と頼りにされる循環バスになりました。しかも、体力が衰えても小型バスは運転できますから、高齢の運転手も仕事ができることになります。企業づくりと地域貢献を結び付けた見事な事例です。

 このような「地域づくり」を自社の企業実践に取り込むことが、条例を生かす道であると同時に、中小企業の今後の活路にもつながると強く思っている次第です。


千葉県の振興条例は県のホームページで見ることができます。(編集部)
http://www.pref.chiba.jp/syozoku/f_keisei/chougi/genki/genki-jobunbetukaisetu.pdf

 

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