講演録

【中小企業憲章学習交流会】
同友会運動の深化と高揚をめざして
〜勇気、夢、詩の湧く憲章運動を

 11月20〜21日、「中小企業憲章学習運動推進研修交流会」(中同協主催)が東京で開かれ、21同友会から68名が参加しました。

 冒頭、大橋中同協政策委員長は、憲章の学習は経営者としての自らの歩み、自社のあり方を検証する良い機会となることを強調。

 憲章運動を進める4つの柱である、(1)憲章の学習運動推進、(2)中小企業振興基本条例の制定促進、(3)各同友会の中期ビジョン実現、(4)会員企業の経営と憲章の関連をつかむ、を各同友会の運動戦略として取り組むには、役員と事務局の結束が不可欠である、と述べました。

 本号では、3つの報告の要旨を紹介し、各地での憲章学習運動推進に役立てようとするものです。(編集部)

 

報告(1) 同友会運動の展望と憲章制定の意義 中同協会長 赤石義博氏
報告(2) 中小企業基本法の性格と憲章の位置付け 神奈川大学経済学部教授 大林弘道氏
報告(3) 活力ある地域づくりは仕事づくり・人づくり 北海道同友会 武内 一男氏(横関建設工業(株)会長)

報告(1) 同友会運動の展望と憲章制定の意義
エネルギーは日本の現状への怒り、改革への熱い思い

中同協会長 赤石義博氏

 大企業の海外シフトが進み、日本列島はいたるところに赤ハゲ(空洞化)現象が広がっています。しかも、2010年には世界の工業製品輸出国人口(売り手)と非輸出国人口(買い手)との比率は9対1となり、今後の日本も輸出中心の産業経済構造では安定的な経済発展は望めません。

 日本経済再生は、国内における大きな買い手である中小企業の活性化で、地域経済を草の根から元気にする以外に道はありません。

 赤ハゲ(空洞化)の克服とは、仕事と雇用を増やし、安定した暮らしを増やすことであり、この大事業は中小企業の社会的、歴史的使命となってきました。

 中小企業憲章はそうした日本の現状をきびしく見つめ、赤ハゲ部分を緑に変える事業を支えることを国家的戦略として政府が明確に打ち出すことです。

 憲章の学習運動は、「緑化事業」の意義を確認し、そのために自社の体力づくりを総点検することが入口となります。同友会がめざすモデル企業(21世紀型企業)になっているかどうか、そうなるために必要な企業内、外の条件整備を明らかにすること。さらに「緑化事業」に取り組む使命感のある仲間をたくさん増やす、会員増強への取り組みです。

 憲章制定のエネルギーは日本の現状への怒り、改革への熱い思いです。国民のだれもが抱える3つの不安、「雇用、収入、老後」、そこから生まれる閉そく感を打ち破ることです。同友会理念である「自主・民主・連帯」の深い意味を考えると中小企業憲章は、「人類生存憲章」ともいえる内容であろうと思います。

 同友会が憲章制定に取り組む意義は、次の3点にまとめられるのではないでしょうか。

 第1に、日本の現状打破と民生重視の新しい経済社会づくりのモデルを世界に示し得ること。第2に、「地球環境保全」「有限資源節約経済の確立」という人類永遠の存続と繁栄の道づくりに貢献するという栄誉を担うこと。第3に、同友会理念の普遍性を人類究極の課題に取り組む領域にまで実践的に高める先進性を確認できることです。

 大切なことは、憲章は「なぜ必要なのか」「なぜ取り組まねばならないのか」を常に確認しながら運動を進めることでしょう。

 

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報告(2) 中小企業基本法の性格と憲章の位置付け
国の経済産業政策の中軸に中小企業を位置づけるもの

神奈川大学経済学部教授 大林弘道氏

 旧中小企業基本法が成立した1963年は、高度経済成長の渦中にあり、大企業の国際競争力を強化する政策が通産政策の中心でした。中小企業は大企業の発展を支えるために、設備・経営のやり方すべてに「近代化」が必要とされ、基本法もその枠組みの中に位置付けられました。

 しかし同友会は、この基本法成立に際しても、それ以降も、押し付けの「近代化」ではなく「自主的近代化」を掲げたことは、先進性を示すものです(「同友会3つの目的」に明記)。

 激変消滅の1990年代に入り、設備・雇用・債務の「3つの過剰」に苦しむ大企業の「選択と集中」路線を支援するため、産業再生法が生まれます。大企業の再生方針が決まる中で、99年秋、現在の中小企業基本法がアッという間に国会を通りました。

 改正基本法の問題点としては、第1に中小企業の現状認識から政策が組み立てられておらず、政府・大企業から要請される役割から出発していること、第2に、必要とされる政策は多様であり、網羅的であるにもかかわらず、限られた範囲の施策にとどまっていることが指摘できます。

 中小企業憲章は、国の経済産業政策の中軸に中小企業を位置づけるものであり、基本法を包含し、導く存在になります。さらに経済産業省の一部局に過ぎない中小企業庁の位置付けをもっと高める必要があります(中同協は、中小企業庁を内閣府の外局に移し担当大臣を置くことを提起)。

 同友会が中小企業憲章を提唱したことに、「新しい中小企業運動」の前進を感じます。それは、金融アセスメント法制定運動の成果や地域経済振興活動での先駆性の発揮にみられるように、従来の中小企業運動の「批判、抵抗」から「創造・発展」へと進化していることです。

 今後、憲章制定運動は、(1)自社の経営(存立の諸条件)に分析の目を向けること、(2)地域経済振興条例の制定とともに進めることが大切です。「勇気を持ち、夢を抱き、詩が湧(わ)く取り組み」を期待します。

 

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報告(3) 活力ある地域づくりは仕事づくり・人づくり

北海道同友会しりべし・小樽前支部長 武内 一男氏(横関建設工業(株)会長)

 私が同友会に入会したのは1978年、「中小企業は地域の中で重い責任を負っている、地域を元気にするためには人材の育成が第一」との同友会理念は、私の考え方にぴったりでした。

 当社が所在する羊蹄山(ようていさん)のふもと倶知安(くっちゃん)町は、人口1万6000人、周辺町村併せても4万2000人、そこに大型店が7つも進出、大型店相互の競争にもまれて商店街はさびれ、若者の流失も進み、ある町内会はお葬式もできなくなっています。また、建設業も公共事業の削減で苦境に立たされています。当社は、社員60名、年商50億円ですが、雇用を守るために住宅リフォーム、学校給食弁当配達、公園整備、廃棄物管理等、業界仲間と協力しながら働く場を作ってきました。

 さらに、魅力ある地域づくりのために、「ニセコ・羊蹄の明日を築く会」等を立ち上げ、住民の人たちと対話を重ね、団地づくり、公園の植樹、まちなみ整備、美術館建設、ニセコスキー場への道路整備や架橋を提言、この10数年で百数十億円の公共事業として実現しました。この事業はすべて地元業者が受注しています。

 私たちの子や孫が幸せに暮らせる豊かな地域づくり、それは人づくりをおいて、ほかにはありません。

 しりべし・小樽支部(会員数320名)の山麓地区会では、今年から小樽商科大学の協力を得て「羊蹄山麓大学」を開講しました。経済、地域の歴史、教育等11講座で、先日第1期を終了しました。私は今年80歳となりましたが、同友会のお陰で人生が変わったと思います。中小企業憲章は、地域と中小企業の未来が拓(ひら)かれる運動として、息長く取り組んでいきたいと決意しています。

「地域づくり10の原則」

  1. 自分の「まち」に愛情を持っているか
  2. 一歩前へ出る気概があるか
  3. 評論家で終わるなら最初からやるな
  4. 一人ひとりがテーマを持て
  5. いいことは仲間をつくって行動せよ
  6. 「三人寄れば文殊の知恵」を大切にせよ
  7. 最初から行政に頼ることは考えるな
  8. 失敗は成功の母だ
  9. 異業種との交流は大切だ
  10. トップは何でも一人で抱え込むな

(これは、武内氏が自らの体験に基づいてまとめたもので、生きた地域づくりの行動指針です)

 

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