【酒蔵10】北海道の米と水で本物の地元の酒造り 田中酒造(株)(北海道・小樽)

北海道の米と水で本物の地元の酒造り
田中酒造(株)(北海道・小樽)

代表銘柄「宝川」のラベル

 小樽の清酒醸造は、明治の中期に始まりました。田中酒造(株)(田中一良社長、北海道同友会会員)は、創業が1899年(明治32年)。かつて小樽には、20軒以上の造り酒屋が営業していましたが、現在、本社を小樽に置いて営業している酒造企業(店)は、わずかに4社です。

 田中酒造の4代目、田中一良さんは1988年に社長就任。需要の減少や需要構造の激変の中、創業者田中市太郎氏の遺志を継ぎ、清酒「宝川(たからがわ)」を守り続けると同時に、自社の変革に取り組み、挑戦を続けてきました。

大学院でまとめたビジネスプランを実行

 田中社長は、社長就任後に母校、小樽商科大学の大学院に入学し、かねてから暖めていたビジネスプランを修士論文にまとめています。

 そのプランに基づいて、1996年に「亀甲蔵」をつくり、観光客や札幌圏の顧客開拓をターゲットに直販体制を強化しました。

 生産設備も小ロットの四季醸造が可能なものに変え、年間を通して、特に観光客が多い時期に「生原酒」を味わえて楽しめる体制を整えました。投資額は、5億円。小樽市の歴史的建造物に指定された、本社や自社所有の石造倉庫も生かしました。

 また、北海道産の酒造好適米「初雫(はつしずく)」や「吟風(ぎんぷう)」が誕生し、2000年から清酒原料米も全面的に北海道産のものに切り替えました。

女性と地元客が増加女性社員も活躍

 計画と実際の差異は、予想以上に女性の需要が大きかったことと、地元客が増加したことでした。売上げも、計画以上の数字で推移しています。

 また、女性社員も力を発揮し、1級技能士3名、きき酒師6名などの技術習得のほか、幹部として活躍しています。

 今年は5名の高校新卒社員を採用。田中社長は「毎日がインターンシップです」と笑いながら、社員の成長に目を細めています。

地場特産生かした「地元の酒」づくり

 北海道同友会の苫小牧(とまこまい)支部が「地元のお酒が欲しい」という要望にこたえて、「とまこまい広域農協」の酒米と苫小牧市の水道水で造ったお酒が「美苫(びせん)」です。

 造り始めてから5年が経過し、製造量も、当初の年間3000本(500ミリリットル瓶(びん))から7000本に増えるほどのヒット商品になっています。これは、田中酒造が持つ小ロット生産が可能な設備によって実現したものです。

 また、積丹(しゃこたん)町では、湧(わ)き水を生かした地酒づくりを企画し、田中酒造で純米生原酒「丹水」を製造。これもヒット商品になっています。

 このほか、岩内町の海洋深層水の清酒や、黒松内町のもち米の飲用みりん、仁木町のプルーンの果実酒、余市町のまたたびの果実酒など、全道各地から地場特産品を生かした「酒」づくりの相談が、数多く寄せられるようになっています。

【会社概要】
創業 1899年
設立 1956年
資本金 1000万円
年商 9億5000万円
製造石数 600石
社員数 31名(酒造1級技能士5名(男2、女3)、きき酒師12名(男6、女6)
業種 酒類の製造販売
所在地 本社:小樽市色内(いろない) 亀甲蔵:小樽市信香(のぶか)町
TEL 0134-21-2390
URL http://www.tanakashuzo.com/

「中小企業家しんぶん」 2005年 10月 15日号より