【酒蔵12】古い技法と地元にこだわる酒造り (資)吉田屋(長崎)

古い技法と地元にこだわる酒造り
(資)吉田屋(長崎)

 長崎県島原半島南部の有家(ありえ)町は、有明海と雲仙普賢岳に囲まれたキリシタン遺跡と手延べ素麺(そうめん)の町で風光明媚(めいび)な土地です。

 この地で大正6年(1917年)から創業している(資)吉田屋(吉田嘉明社長・4代目、長崎同友会会員)は、今年で88年目を迎えます。

 雲仙普賢岳の伏流水が湧(わ)き出る自家井戸の水を仕込み水に使い、昔ながらの製法に新しい酵母の研究を加え、古い蔵で酒造りを行っています。

昔ながらの製法にこだわり「撥ね木搾り」を復活

 主力商品の清酒「萬勝(ばんしょう)」は、3年貯蔵・純米吟醸で、2001年全国日本酒コンテスト純米酒部門で13位に輝きました。「萬勝」は、伝統的な「撥(は)ね木搾り」の手法で製造され、ナデシコの花から抽出した新しい酵母「なでしこ酵母ND―4」を使用しているのも特徴です。酵母が香りの主成分となり、「撥ね木搾り」を取り入れることで、上品な香りとまろやかな味わいになります。

 この「撥ね木搾り」の手法を取り入れているのは、九州では福岡の1軒と吉田屋の2軒のみとのこと。吉田屋では、30数年前に、機械化に伴い、この手法を1度廃止しましたが、吉田社長が蔵に放置されていた道具を整備し、4年前に復活させました。通常の機械製造に比べ、手間やコストもかかりますが、すっきりした優しい味わいになります。毎年1月から3月にかけて仕込み、ろ過などの作業を終え、5月ごろに製品化されます。

 吉田屋の蔵には、今ではめずらしい木桶もあります。「撥ね木搾り」と「木桶」を使い、酒を製造している蔵はまだ全国どこにもありません。「撥ね木搾り」と「木桶」を使った昔ながらの手法で酒造りをするのが、吉田社長の夢です。

昔の「良さ」を伝える喫茶店

 今年の5月からは、店舗横に隣接する24畳の広い座敷と日本庭園を利用した「八千代喫茶店」をオープン。「八千代」の名称は、吉田屋が酒造業を始める前に煙草(たばこ)製造業をしていた時の煙草の銘柄を使っています。当時、煙草の銘柄として「平和・PEACE」と「八千代」の銘柄があり、一説には、大正天皇御即位の時に八千代の銘柄を購入したとの話もあるとのこと。

 「八千代喫茶店」は、戦後からしばらく営業していましたが、こちらも吉田社長が再オープン。店内には、吉田屋に残っている古き良き時代の掛け軸や陶器などが展示されています。メニューもありきたりではなく、幕末の味を再現したコーヒーや、吉田屋で製造している甘酒を使ったデザート、お酒のお試しセットも楽しめます。週末3日間の営業ですが、県外から訪れるお客様もいます。

 ほかにも、地域おこしイベントとして、県との共催で「一店逸品」運動や、酒蔵を利用して毎年クラシックコンサートなども開催しています。

 吉田社長は、「酒類全体の消費量が減少してきているので、『吉田屋』で日本酒のおいしさと『昔』の良さをもっともっと多くの方に知って頂き、少しでも地域の活性化に貢献したい」と思いを語ります。

 今後も古い技法を使いながら地元にこだわり、新しい特色のある酒を提供していきたいとのことです。今後の夢は、吉田屋に現存する骨董品や酒造りの道具などを展示できるような資料館を建てることです。

【会社概要】
創業 1917年
資本金 1000万円
社員数 5名
業種 清酒製造業
所在地 長崎県南高来郡有家町山川785
TEL 0957-82-2032
URL http://www.bansho.info/

「中小企業家しんぶん」 2005年 12月 15日号より