社員とともに「働きがい」のある会社に  (株)渡辺工業 社長 水野 透氏(滋賀)

 建築塗装業を手がける(株)渡辺工業(水野透社長、滋賀同友会会員)は、自社での労使交渉や「経営指針を創(つく)る会」への参加を通じて、人間尊重経営の重要性を認識します。3月に宮城で開催された第38回中小企業問題全国研究集会第9分科会で水野社長が行った報告の一部を紹介します。詳細は、『中同協』第80号をご覧ください。

1社依存の中での経営不振

 私が当社に入社したのは1981年。当時専務をしていた父親の口癖は、儲(もう)からん、儲からん」でした。
 1987年当時はほぼ100%1社依存の会社でした。まだバブルのころで、世間はみな景気が良い時期でしたが、取引先工場の1工場が内製化を行うことにより半分近くの仕事がなくなる事態に陥りました。さらに追い打ちをかけるように、当時営業担当をしていた常務が、事務所の社員全員を引き連れて辞めました。

労使交渉を通じて分かった本音での話し合い

そんな状況の中、労働組合ができました。組合は「給料が安い→儲かっていない→受注価格が安い」、と思っていました。当時営業課長だった私は、「見積もりは上司ではなく組合に承諾を得てから出しなさい」と、会社から言われたほどです。
 その後バブル経済が崩壊し、取引先企業も非常に景気が悪くなりました。行き詰まり、明日潰(つぶ)れてもおかしくない状況でした。
 団体交渉で実質指導権を握っていたのは、出向で来た常務でした。落としたい数字と少し違う数字を提示して、だんだん煮詰めて当初の数字に持っていく手法に、私は同じ社内で働いている人間同士での駆け引きが本当に意味のあることかと正直思っていました。
 社員にとって、会社の中にいる時間が幸せであってほしいという思いから、私はだんだん我慢ができなくなり、当時の社長に無断で団体交渉後に組合事務所に行き、「本当はこういう状況だ」と話をしました。これは良いことではないのですが、本音で話さないと結論はでません。お互いに駆け引きをやって決めることではないと思っていました。

経営理念をつくり直して

 その後、友人の会員の紹介で同友会に入会し、そこで学んだ経営理念の成文化と目標の共有化の大事さから、「第24期経営指針を創る会」を受講しました。
 そして前社長にお願いし、現在の経営理念につくり直しました。判断で迷ったことがあったらこの理念に照らし合わせて、進む方向を判断してもらうために、各部門の方針も付けて20ページぐらいの冊子にまとめ、全社員に配布しています。また、社員の半分が外国人であるため、経営理念をポルトガル語や中国語にもしています。経営理念は毎日の朝礼で唱和しています。
 また昨年、3人の幹部が同友会の幹部社員研修を受講しました。技術や技能だけでなく、その人自身の人間性を高めることの重要性を改めて感じました。

外国人にとって働きがいのある会社づくり

 現在、当社としては外国人たちと一緒にやっていかないと、滋賀県の湖北の地ではなかなか仕事をしていくことが難しいという状況があります。
 外国人期間工たちの働きがいをどう見つけだすのかが大きな課題です。
 そして2年ほど前から来ている研修生についても、彼らの帰国後が課題です。私どものお取引先はたまたまベトナムや中国にも工場が進出していますので、せっかく当社で学んだ日本語や塗装・溶接の技術を生かしてもらえるように、優先的に取引先企業に就職できないかと、今、話を進めている最中です。
 彼らと一緒になって、生き生きとした働きがいのある会社を創りたいと思っていま取り組んでいます。

共育し、みんながいきいき働ける会社に

 社員1人ひとりが人間力・仕事力を身につけていかなければ、生き残っていくことは困難だと思います。その責任を負うのが経営者である私の仕事です。共育ちの関係を築き、すべてをオープンにし、共有した時が本当のスタートだと感じています。
 「何のために働いているのか」「何のために生きているのか」「何のためにわが社はあるのか」、もっと社員と一緒に深めあい、みんなが生き生きとし、お客様に信頼されて、必要とされる(株)渡辺工業を一緒に創っていきたいと思っています。

【会社概要】

設立 1930年
資本金 6000万円
年商 28億5000万円
社員数 215名     (内パート・アルバイト102名)
業種 焼付け・カチオン電着塗装・板金加工
所在地 滋賀県長浜市新栄町
TEL 0749-62-7121
http://www.watanabe-kougyou.co.jp/