子育てが楽しめる地域に~中小企業への期待高まる

 昨年1月15日号から開始した本シリーズは、今号で最終回となりました。本号ではこれまでの連載を振り返り、少子化への対応に中小企業が取り組む意義についてまとめるとともに、9月に開かれた中同協女性部連絡会役員研修会での糸数久美子・連絡会代表の問題提起「中小企業におけるワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和、以下WLB)推進の意義」の要旨を紹介します。

小企業ほど働く母親に柔軟な対応

 昨年末、内閣府は「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス、以下WLB)憲章」及び行動指針を発表し、国家プロジェクトとして取り組むことを決めました。

 この背景には、内閣府「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」が06年12月に発表した報告書があります。同報告では「先進国では女性労働力率(有業率)が高い国の方が出生率が高い傾向がみられる」とし、国内分析では「特に長時間労働の是正や非正規問題への対応を含めた『働き方の見直し』や地域における『社会的な子育て支援体制の構築』が大きな課題」としています。

 また同書には「2006年版中小企業白書」を引用し、大企業では諸制度が整っているものの、利用されていない割合が高く、中小企業では、従業員規模が小さい企業ほど女性正社員で乳幼児期を過ぎた子どもを育てている世代の比率が高く、1人あたりの子ども数が多いことが示されています。

地域の若年者雇用の充実が少子化対策のカギ

 下平尾勲・福島学院大学教授(故人)は、「大企業が獲物を求めて移動する動物だとすれば、中小企業はその地域に根をはり、その地域とともに成長していく植物」、「少子化問題を解決するためには、若年者の雇用が守られ、その生活が保障される環境が必要」であり、既存の中小企業が活力を持てる地域にしていく必要があると、強調しています。(07年3月15日付)

 また、後藤道夫・都留文科大学教授は、働く貧困層「ワーキングプア」急増を憂い、25~34歳までの男性の有配偶率は年収に比例し、「すべて『自己責任』で追い込まれ、将来への展望を見いだせない広範な貧困状況がある」とし、「結婚し、子育てできる賃金を支払うこと。それが企業の社会的責任(CSR)」としています。(07年5月15日付)

「顔の見える関係」生かし、WLB推進を

 鬼丸朋子・桜美林大学准教授は、「平成19年版労働経済白書」を紹介。WLBで、短期的には長時間労働の是正や仕事の効率化による労働者の勤労意欲・生産性の向上が図られること。中・長期的には、女性の労働力人口の上昇や少子化対策に貢献することを通じて、企業に必要な人材の確保が可能であること。

 中小企業は「顔の見える関係」を生かし、「それぞれの労働者が置かれた状況を理解しあい、お互いに譲り合う心を持てるような職場の実現」を目指すことの大切さを説いています。(07年12月15日付)

 厳しい時代だからこそ、「生活者の視点で」企業づくりを実践していくことが大切であることが分かります。

(おわり)

中同協女性部連絡会での問題提起から
中同協女性部連絡会代表 糸数久美子氏

 社員が幸せになるためには、当たり前に生活したり、健康維持に必要な時間を保証することが大事です。

 自分自身の体験から、社員の労働環境を変えていくためには経営理念を共有し、会社の体質、仕事のあり方を変える必要があることに気付きました。人の手を借りなければならない仕事だから、人に負うわけですが、社員の家庭も大事です。

 仕事が忙しいからと言って、定期健診の2次検査にもいけないようでは問題です。仕事の仕方、社員の健康に留意しなければなりません。

 経営環境がどんどん厳しくなる一方、大手が問題を起こし、中小企業が被害をこうむるパターンが続いています。また、派遣社員を恒常的に雇用することで、ワーキングプアを生み出してしまっています。

 女性の比率6割の当社では、短大卒で3人の子持ちが2人います。大手では産休を取ったら帰る場所がなくなる。しかし、子育てができて、帰れる職場があるのが中小企業です。それは中小企業庁の資料でも明らかです(上図)。

 「社長に話を聞いてもらえた」「柔軟な対応をしてくれた」。「それがうれしかった」と、社員も思いやりを持ってくれるようになります。

 子育て時期には、産休で休んでいる間の代替え要員の確保や少人数でもお互いがカバーすることで仕事が回ります。会社側が、「共に育とう、一緒によくなっていこうね」という思いをどれだけ実態を通じて伝えられるかが大切です。

 私も子どもが小さい時は、会社に保育園があったらどんなにいいかと思いました。直径500メートル以内に預かってもらえるところがあれば…。1社では無理でも、中小企業が共同で維持・運営する保育園は作れます。

 安全で住みやすい、子育てしやすい地域にしていくためにも、同友会で学んで地域に認められる企業になる、生活者の視点で企業づくりを進めていきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2008年 11月 15日号より