「江別小麦めん」で地域経済ネットワーク~麦の里えべつ

江別小麦めん関連商品

 北海道札幌の隣町である江別市(人口約12万人、約5万2000世帯)。いまこの街を中心に地元産小麦「ハルユタカ」を使った地域ブランド「江別小麦めん」に全国から熱い視線が注がれています。登場から4年間で750万食、経済波及効果は40億円と言われるブランド創出で中心的役割を果たした江別製粉(株)の佐久間良博常務、(株)菊水の杉野邦彦常務(北海道同友会会員)に話を聞きました。

幻の小麦「ハルユタカ」の普及への挑戦

 国内で消費する小麦は約90%を輸入に依存しています。しかも、国内需要の約半分を占める300万トンは、パンやラーメンの原料としての強力粉です。そんな中、85年に待ちに待った強力粉系の小麦「ハルユタカ」が北見農業試験場で誕生しました。

 しかし、「ハルユタカ」は、栽培期間の短さや収穫期の天候不順、品質の不安定性や収穫量の不確実性などから、栽培する農家は非常に限られ「幻の小麦」といわれていました。江別製粉(株)の安孫子社長(当時常務)と佐久間氏はハルユタカの栽培技術の確立のために90年からさまざまな取り組みを行いました。そして、地域での本格的な栽培技術確立や認識を促進するには、さらなる取り組みが必要であると感じていました。

「江別麦の会」が発足し、“初冬まき”の栽培技術を確立

 98年、佐久間氏の提案で道産小麦の用途を菓子分野に広げる取り組みとして「全国焼き菓子コンペin江別(実行委員長は安孫子社長)」が開催されます。企画の1つとして道産小麦を使ったオリジナルの焼き菓子を全国の菓子職人に募集したところ186点の応募があるなど、道産小麦でもおいしいお菓子を焼けることを証明・発信する試みとして成功しました。

 さらに、農・産・学・官で構成された実行委員会は、連携して行動することで江別産小麦の具体的な活用策が見出せることを実感。この時の実行委員会のメンバーが中心となり、同年、農協、道立食品加工研究センター、道立農業試験場、農業普及センター、大学、行政、江別製粉(株)からなる「江別麦の会」が発足します。

 メンバーは江別産小麦の安定生産と加工方法の開発を目的に、ハルユタカの初冬まき技術の研究や普及、パンや麺類向けの加工方法の研究開発などを精力的に行いました。江別産小麦に関するプラットフォームとしての同会の活動で、米の転作作物に過ぎなかった江別産小麦の価値観が変わってきました。2000年を越えたころからは、初冬まき栽培を積極的に取り入れる農家が増えてきました。

 2002年9月に江別市制50周年を機に、地域経済活性化を目的とする産学官連携組織「江別経済ネットワーク」が発足。具体的なものを生み出す中で、新たな発見があると考えていた杉野氏を中心に、第1回のミーティングの席で江別産小麦を100%使ったラーメンの事業化が提案されました。そして「江別ブランドラーメン部会」が発足し、開発がスタートしました。

 会員は1年半の間に試行錯誤を重ね、連携して問題を解決していきました。人気のある「ハルユタカ」の確保には農協が一役買い、江別製粉(株)では1トン単位の小規模製粉を可能にするF‐SHIP(07年経済産業省「第2回ものづくり日本大賞地域貢献賞受賞」)を全国で初めて開発・導入。(株)菊水では、試作を繰り返し、高タンパクのハルユタカの特性を生かしたラーメンづくりのために、讃岐うどんに代表される手打ち式製麺法を生かした「手づくり麺工房」を新設しました。

 04年4月、江別産小麦100%でハルユタカのうまみを生かした「江別小麦めん」が誕生しました。

「江別小麦めん」の波及と地域間ネットワーク

 江別小麦めんはもちもちとした粘弾性と滑らかな食感を有し、かみしめるほどに小麦のほのかな甘みと味わいが感じられます。他のご当地ラーメン的なものとは異なり、江別小麦めんは麺をベースにさまざまな食に波及していることから、市内の約20店では和洋中100種類ものメニューが考案されています。

 また、江別の小学生は畑での小麦栽培から製粉、製麺に至るまでの一連の流れを総合的学習で学び、さらに学校給食で食することで「食育」の機会を得ています。子どもたちは食育学習の成果を絵画にしています。その作品は江別市食育推進協議会が選定し、江別小麦めんのパッケージデザインに採用され、市内スーパーに商品として並びます。

 さらに地産地消がもたらす効果は、環境面でも大きなものがあります。小麦のフードマイレージ(食料の輸送距離)を比較すると、市内で小麦を生産・加工すればCO2排出量は市内トラック輸送分のみとなり、従来通り小麦を北米から輸入していたことを考えると大幅に削減されることになります。

 江別小麦めんは登場から4年間で750万食を超え、これまでに小売や設備投資、雇用などを含めた経済波及効果を試算すると、原料小麦を出荷しただけの40倍の40億円に達しています。さらに、ハルユタカの栽培面積は現在600ヘクタールを超えるほど急増しました。

 江別のネットワークモデルは地域内にとどまらず、地域間連携となり滝川市や下川町に広がっています。

 地域を知り、地域を愛し、地域を育てる江別の農商工連携の取り組みはさらなる広がりをみせています。

江別小麦めんに至る歴史

1987年 ハルユタカ栽培開始
1989年 ハルユタカ関連商品販売開始
1990年 江別製粉が中心となりペーパーポット移植栽培研究開始
1994年 同上断念~新技術の模索(初冬まき試験開始)
1998年 「全国焼き菓子コンペ’98in江別」開催・「江別麦の会」発足
2002年 「江別経済ネットワーク」発足・「菓子祭り’02in江別」開催
2003年 ハルユタカの初冬まき本格化~技術講習会連続開催~ハルユタカの生産安定へ
2004年 麦の里えべつ・江別小麦めん販売開始・「第1回江別小麦サミット」開催
2007年 「立ち上がる農山漁村~新たな力」認証
2008年 「第47回ジャパンパッケージングコンペティション」で江別小麦めん受賞・「農商工連携88選」に選定

会社概要

江別製粉(株)
設立 1948年
資本金 7600万円
従業員数 53名
年商 31億円

業種 小麦粉、ふすま、飼料大麦、食品資材、小麦粉加工食品
所在地 北海道江別市緑町
電話 011‐383‐2311
http://haruyutaka.com/

(株)菊水
設立 1949年
資本金 1億8000万円
従業員数 600名
年商 77億円
業種 製麺及び関連商品の製造・販売
所在地 北海道江別市工栄町
電話 011‐383‐7905
http://www.kikusui-ltd.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2008年 12月 5日号より