畳屋で年商30億円、儲かる仕組み作り (株)キツタカ 社長 橘高 勝人氏(東京)

縮小する畳市場の中で

橘高勝人社長

 1990年代後半までは、戸建ての普通住宅には畳の部屋が2~3部屋はあったものです。全国平均では1世帯当たり16枚くらいあった畳の数は、現在では6枚くらいに減っています。10年ほど前には7億枚くらいだった畳の数は、2005年あたりで2億8000枚くらいに減っています。

 市場が縮小している斜陽産業の中、32年前年商1800万円だったキツタカは、現在30億円の売上に成長してきました。

医者になりたかったが

リフォームのために畳を運び出す

 子どものころ、父親がやっている畳屋の作業場を通らなければ、学校にも行けませんでした。作業場から引き戸を開ければ、そこは家の台所でした。

 身体の弱かった私は医者になりたくて、医学部をめざし猛勉強していました。高校3年の夏、父親が脳梗塞で倒れました。父親と職人2人でやっていた畳屋は、翌日から母親が運転手代わりで、職人と一緒に現場を回り始めました。私も見るに見かねて、受験勉強をやめて運転免許を取り、畳屋を手伝うようになりました。しかし職人さんは親切には教えてくれず、父親の縫った畳を見て、縫い方を勉強したものです。

4トン車で畳を運べる会社めざして

 軽トラックで畳を運んでいるころ、近くのマンション新築工事現場の前を通ると、4トン車に新畳を満載し、畳を納品していました。私は「いつか自分も4トン車で畳を運んでみたい」と思いました。

 その夢に向かって、マンション建設予定地と書かれたプレハブの現場事務所に行き、「仕事を下さい」と飛び込みました。すると現場監督さんが出てきて「法人でなければ取引できない」といわれました。当時は法人とは何かも知りませんでしたが、悔しさをバネに資本金の1000万円を借りて1984年(株)キツタカを設立。月商200万円に満たないころでした。

資金繰り地獄

工場に持ち帰って、畳の表替え作業

 マンションが建ちそうなところに行っては、ゼネコンの現場事務所を回りました。やがて大手ゼネコンからも仕事が来るようになり、念願の4トン車を買うこともできました。職人も2人、3人と増えていったのですが、そのころから経理を一手に引き受けていた母親とケンカが絶えなくなりました。

 「もう1台4トン車が欲しい」というと、母親は「どこにそんなお金があるの!」。「これだけ順調に仕事が入っているのだから、車はいる。なぜ反対するんだ」と思ったものです。ところが仕事は忙しくなっていても、利益が出ていなかったのです。マンションは仕事をたくさん出してくれますが、値段はたたかれます。当時の原価率は65%を超えていました。さらに納品から現金になるまで大変時間がかかります。資金繰りは火の車だったのです。

 決定的な出来事が起こりました。正月の三が日に河口湖に釣りに出かけた時のことです。第一投の竿を出したところで銀行から電話があり、「残高不足で明日までに200万円ないと引き落としができない」と。

 子どもの預金まではたいて何とかお金は揃えましたが、安い仕事に慣れっこになって利益や資金繰りを考えていなかったことを悔やみ、何のために仕事をやっているのかと虚しくなりました。取引銀行の支店長からは、「交際費の支出がゼロで一見健全のようですが、銀行では交際費も使えないような会社とみるのですよ」ともいわれました。

儲かる仕組みづくり

 資金繰りが良くなるためにはどうしたらよいのか、全国の畳屋さんを訪ねるなかで、「うちは儲かるシステムができている」という福岡の畳屋さんに出会いました。そこの番頭さんは、キツタカとそこの決算書を見比べつつ、「この違いが分かるか。決算書を読めない社長は失格だ」といいながら、「材料費、労務費ともに30%を超えてはならない。帰ったらそれをやりなさい」とアドバイスしました。しかし、新畳制作で相手がゼネコンでは、それは無理です。すると「新畳はやめなさい」といわれました。

 そこから方向転換を図りました。ターゲットをリフォーム屋さんに絞り、それまで売上の1割くらいだった畳の表替えの比率を高めていきました。今から10年ほど前です。もちろん、一気にゼネコンを切るわけにも行かないので、徐々に比率を変えてきました。

リフォーム中心に方向転換

 関東地域にリフォーム屋さんは8万社あります。そこに、2月20~23日と8月20~25日の年2回、ダイレクトメールを送ることをこの10年やり続けています。

 賃貸アパートなどは3~4月と9月が入れ替わり、リフォーム屋さんは忙しくなります。その忙しくなる直前にDMを打つのです。当時、畳の表替えは5000円くらいが相場でした。キツタカはDMで3200円とうたいました。コスト計算をきっちりすると可能な料金なのです。営業は、リフォーム屋さんが現場から帰ってくる夜7時以降に回るようにしています。私たちは「夜襲」と呼んでいます。

エコ畳やゼロエミッションにも挑戦

 昨今、和室が減り続けています。和室を増やすことはできませんが、形を変え、洋間に置ける置き畳を販売しています。

 また、畳表の8割は中国産ですが、薬物混入問題などで中国製品に対する不信感が募っています。そんな中、残留農薬ゼロの「エコ畳表」を熊本の生産農家と共同で企画開発し、安全と安心も提供しています。

 現在、畳の生産は1日2000枚を超えており、畳を替えれば畳のゴミが出ます。今までは、産業廃棄物業者に年間7500万円を払って処分していました。この畳のゴミをリサイクルできないかと考え、昨年4月、福島県いわき市にリサイクル工場を設立しました。

 ここで、ゴミは地球環境に優しい固形燃料(RPF)として生まれかわります。畳、襖だけでなく、事務所から出た紙やお弁当のプラスチックゴミもここで処理し、キツタカからゴミは出さないというゼロエミッションを提唱しています。

会社概要

設立 1984年
資本金 9000万円
社員数 90名(他に専属請負社員200名)
業種 畳表替え、新畳制作、ふすま制作・張り替え、住宅資材販売
所在地 東京都大田区南蒲田
TEL 03-5710-8008
http://www.kitsutaka.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2009年 1月 25日号より