田舎(ふるさと)を宝に! 農業生産法人(有)コッコファーム 代表取締役 松岡義博氏(熊本)

21世紀が自然と農業を生かした、本当の「人間の世紀」となることを願って

松岡氏

 全研第18分科会(見学分科会)では、今年創業40周年を迎えた農業生産法人(有)コッコファームを見学、2日目は、同・松岡義博代表取締役が記念講演を行いました。記念講演の要旨を紹介します。

 今回の全研のサブテーマは、「地域に根ざし、自然環境と共生する企業経営を」となっています。熊本は、水もきれいで農業は基幹産業であり、第1次産業の大切さを訴えるのにぴったりのテーマです。同友会の第2の目的は「良い経営者をめざす」となっています。良い経営者とはどういう経営者なのか。私も創業40年と年輪を刻む中で、多くの失敗もあり、また感動もいただきました。本日は私の歩んだ経営者人生を中心に語らせていただきます。

私の人生訓、10の項目

記念講演する松岡氏

 まず、私の人生訓から紹介させていただきます。座右の銘は「厳しき道、されど我が道、愛の道」です。私が選んだ事業家としての道、その原点は愛なのです。家族への愛、兄弟への愛、社員への愛、地域への愛、あらゆるものを愛で包むことこそ事業のあるべき姿だと思うのです。

 さらに10項目の人生訓を紹介させていただきます。

 (1)バランスのとれた5つの健康(体、心、金、家族、奉仕)。体と心(精神)の健康、お金に苦労しすぎていないか、家族は仲良くやっているか、地域との共生を大切にしよう。
 (2)参謀を作り諮問機関での意見を大切に。身の回りにマネージャーをおき、社長の弱い所をアドバイスしてくれる環境をつくる。
 (3)誰と出会えるかによって人生観は変わる。出会いを自己発見の場と考えることにより、新しい発想が生まれる。
 (4)話せばわかる人間関係。世の中は人と人とのつながり。話し合って物事を解決しよう。
 (5)過疎こそ宝だ、クレームこそ宝だ。田舎こそ宝の山。クレームも対処の仕方で新しい発見となる。
 (6)お客様のニーズに応(こた)えるな。お客様の要求だけに応えることをすべてよしとするのではなく、自己主張できるものを確立し、喜んでいただけることを提案していこう。
 (7)出入口の表示も考え方次第。もし「入出口」と表示してあったら変に感じます。相手の得になることを伝えてあげたい。
 (8)グラスのビールは3分の1にしておこう。ビールが減っていれば注ぎたくなるのが人間の心理。心の余裕のある人の方に頼みたくなるもの。
 (9)人生100倍のホラをふけ。夢を形にするため、「あいつはいつもホラばかり」といわれないよう現実化の努力をすること。
 (10)多数決で物事を決めるな。社内の賛成が多ければ決めてよいのか、社長の責任を常に問うこと。

 以上のことをいつも自分に問いかけながら歩んできました。

20歳で400羽からスタート―コッコ3兄弟が結束

 私は熊本県菊池市の農家の長男に生まれました。家は貧乏で高校にも行けず、農家の跡を継いだものの生計をたてるのが難しいので上京し、11もの職を転々としました。大手自動車メーカーで怪我をしたのを契機に、「自分の生きる場所はやはり田舎だ」と決意し帰郷しました。20歳の時でした。

 わずか400羽の養鶏からのスタートです。小さい時、放し飼いの鶏が縁の下に卵を産むのです。1個で3杯のご飯を食べたものです。その記憶から「温かい卵をお客に渡せないか」と、直売所で採れたての卵を渡すことを思い立ちました。

 開業し、パック入り10個の卵を初めてのお客にタダであげようとしたところ、100円札をいただきました。この100円札は「生涯の宝」として、封筒に収め神棚に祀ってあります。

 今、2人の弟と兄弟3人で経営しています。「コッコ3兄弟」(笑声)というわけです。弟たちは大企業にいたので、兄弟3人で事業を始めることに親は当初猛反対でした。しかし、もし1人で事業していれば、壁にぶつかった時、辞めてしまったかもしれません。未知のことばかりでしたが、分からないことは見て、聞いて、試して学んできました。

 父は73歳で他界しましたが、心配の連続であったでしょう。毎日、神棚の「100円札」を拝むたびに父にお詫びしています。母は83歳で元気にしています。家族愛が事業を支える大事な柱となっているのです。

「産んですぐの卵の提供」を原点に

コッコファームの直売所を見学

「産んですぐ、温かい卵をお客様に提供する」ことを原点に、毎日産みたて卵3キログラム入りを直売店「ふれあい館」で販売しています。

 生産している場にお客様にきていただく、これこそ地産地消(商)ですね。鶏は450日で鶏肉にして販売、これもその日のうちに完売です。

 また、直売店では菊池市内の農家と連携し、生鮮野菜類の直売もしており、魅力を持たせています。オムライスと親子丼の専門店「健食館」も卵とチキン、自社米を使い、午前11時から午後3時の間に2回転し好調です。

 農業は収穫期が限られていることから、全体のローテーションや年中楽しんでもらうために「観光バナナ園」を開設。愛知万博にも出展、昨秋封切りとなった映画「まぼろしの邪馬台国」のロケにも使われたことから、マスコミで一挙に広まることになりました。

都市と農村の交流拠点、マルチメディアセンター構想

 当社は、35歳以下の社員によるニューリーダーの会が約40名で組織され定例会議、視察、社会奉仕活動を行っています。55歳以上の社員約40名でシルバーライフの会も自主的な活動を進めており、当社はこの2つの会が支えているといえるでしょう。全体ミーティングも年2回実施、半日かけて全員発言し、自主申告をもとに人事異動も行っています。

 農業に夢を託す青年や、農業に親しみたいという市民のために、8年前に「実農(みのう)学園」を設立、全寮制で2年間学び、菊池の地で農業を始めることを支援しています。

 当社が2010年に向けて準備していることは、農業情報の受発信をする「マルチメディアセンター」の設立です。

 8000平方メートルの敷地に生産者と消費者を結ぶ産地直送システムをつくり、都市と農村の交流拠点とする。周辺市町村の情報コーナー、インキュベーター(貸し書斎)20室も予定、農業を生活の中にしっかり位置づける拠点をつくります。21世紀を自然と農業の恵みを生かした「人間の世紀」とするために前進を続けて参ります。

会社概要

創業 1969年
設立 1981年
資本金 1000万円
年商 24億円(2007年度実績)
社員数 119名(内パート・アルバイト10名)
事業内容 養鶏及び農産物の生産販売、食品の加工販売、人材育成のための教育事業(実農学園)
所在地 熊本県菊池市下川原
TEL 0968-24-0007
http://cocco-farm.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2009年 3月 5日号より