“売上8割ダウン”の危機からの脱却 (株)コージン 代表取締役社長 小柴 雅信氏(富山同友会)

社員や協力会社、そして顧客との信頼を大事にして

小柴社長

まるで下りのジェットコースター

 当社は祖父が創業し、私は4代目です。事業内容はプラスチックと金属部品のインサート成形及びプレス加工、金型製作など。主な納入先は日系電機メーカー、自動車メーカー、電装品メーカーなどです。

 2008年6月には史上最高売上と収益を達成しますが、9月のリーマンショック後、12月は前年比で15%減となりました。

 2009年1月に入ると、毎日のようにファックスやメール、電話で仕事のキャンセルが相次ぎました。4月にはいよいよ仕事がなくなり、瞬間風速で前年比80%減の売上になりました。まさに下りのジェットコースターに飛び乗ったようで、「どうしよう。何かしなきゃ」というのが正直なところでした。

 2008年12月には、ある新聞の1面に私の弱気のコメントが掲載されてしまいました。私は社員の士気、モチベーション低下を恐れ、緊急朝礼、昼礼を実施。「私たちの製品は、環境関連・省エネ関連に役立っている。どんな状況になろうとも絶対に負けない。あきらめない」と全社員の前で宣言しました。「社員と一緒でないとこの危機は乗り切れない」と強く感じたからです。

 2009年1月からは主な協力工場を全て回り、現状報告と先行きを直接伝えました。そして、どのくらいの仕事があれば社員の雇用を守れるか、協力工場のデッドラインをお聞きし、その分の仕事は確保することを約束しました。中には、「今はこれだけの資金があるので、ここまでは頑張れる。だから最悪これだけの仕事はほしい」ということを言ってくれた方も何人かいました。

前に進むためのお金は切り詰めず

コージンの工場内

 保証協会の緊急保証や中小企業緊急雇用安定助成金(雇用調整助成金)も活用しました。派遣会社や請負会社に対しては、仕事復帰の際にすぐに戻れるように、休業補償をお願いし、休業手当は立て替えました。

 しかし、営業経費、社員研修費など前に進むためのお金は切り詰めないことにし、展示会や顧客の訪問回数を増やしました。顧客も暇なので、いくらでも会ってくれます。今がチャンスだと考えて取り組みました。この時期に新規開発案件を営業がとってきてくれたことが、今につながっていると思います。

 2月からは正社員、派遣社員、実習、研修生のワークシェアリングを実施。現場は平均週休5日、間接部門は3~4日としました。

 厳しい中でしたが、3月~4月には、次年度の採用計画で採用を決定しました。会社説明会を行い、同友会の合同企業説明会にも参加。お陰様で8名の採用ができました。

 しかし5月には、いよいよどうしようもなくなり、一部の派遣社員の契約満期にともなう契約延長をやむなく中止しました。また、インドネシアのジャワ島にあるインドネシアコージンを3月から休業しました。ただ正社員の解雇や、期間社員の途中打ち切りは行いませんでした。

 5月半ばから、ほんの少し注文が入ってきました。6月には、どんなに苦しくても賞与は出そうと、少額ですが支給。毎年行っていた仕入れ先(協力会社)への発表会も行い、会社方針や売上、不良率、生産効率などを全部説明しました。良くても悪くても情報共有すべきと思ったからです。

 6月に東大阪のある会社を見学したことをきっかけに5S活動をスタート。仕事がないことが幸いして、皆で進めることができました。当社にいろいろなところから見学に来ていただけるようになり、従来の顧客だけでなく、新規顧客へのPRにもなりました。

「このメンバーでやれてよかった」

 受注が少しずつ増えていく中で、派遣社員の方たちも戻ってきてくれるようになりました。8月以降には新入社員懇親会、東大阪への5S活動見学会(総勢60名参加)などに取り組みました。社員と自分のベクトルを合わせる必要性を感じ、富山同友会の「経営指針を創(つく)る会」にも参加しました。社内研修、同友会を中心にした研修会への参加、就職内定式、内定者の保護者同伴会社見学会なども行いました。後悔はしたくなかったので、やれることは全てやりました。

 2010年2月現在、2007年のピーク時の受注量に追いついてきました。予断は許しませんが、なぜ今があるかというと、先輩たちの信頼が、ここにきて効いてきているのだと思います。10年前にがんばっていたから、この苦しい時期にお客様は仕事を集めて当社に出して下さった。ですから、未来の自分や、後輩のために、今自分たちが信頼を勝ち得なければなりません。QCDはもちろんのこと、5Sを始め、全社一丸となった活動や、明るい会社づくりも欠かしてはいけないと確信しています。

 2009年の年末に、日本のコージン、インドネシアコージンの社員の前で挨拶をしました。会社がつぶれそうになっても、誰も逃げていきませんでした。やむなく契約延長を断念した派遣社員の人たちも、大勢戻ってきてくれました。そのことが本当にうれしかったので、「このメンバーでやれてよかった。ありがとう」と伝えました。

 今後は、今以上に社員を信じて幸せな会社創りをしていきたいと思います。そのためにワークライフバランスを追求し、思いを社員と共有するために経営指針づくりにも取り組んでいきたいと考えています。

(富山同友会新川支部3月例会報告より)

会社概要

創業 1974年
資本金 8,350万円
年商 43億円(2008年度)
社員数 139名(男70女69)
業種 プラスチック立体インサート成形(産業機器・自動車機器・民生・アルミ建材用など)
所在地 富山県中新川郡上市町森尻5
http://www.kojin.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2010年 4月 15日号より