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もう一歩踏み込んだ分析と時代認識を

『2010年版中小企業白書』を読んで

 今回の中小企業白書(以下、白書)の副題(タイトル)は、「ピンチを乗り越えて」。タイトルをみた瞬間、「中小企業はいつの時代もピンチ。それを乗り越えたからこそ今がある。いまさら」と思ってしまいました。「ピンチ」という言葉には一過性のイメージが強く、白書の危機に対する認識は浅いという印象を受けます。

 昨年の本欄では、「今の経済危機の後を見通し、転換期にある時代認識を示すようなスケールの大きさ」を白書に求めましたが、改めて大局的な展望を示すことを期待したいと思います。特に、今回の白書には間に合いませんでしたが、来年以降は中小企業庁として中小企業憲章制定に現在取り組んでいる成果が反映した白書になることを望みたいと考えます。

 白書は、「第一部 最近の中小企業の動向」と「第2部 中小企業の更なる発展の方策」で構成されています(「白書の概要」参照)

 第一部は、今回の世界経済危機が中小企業に及ぼした影響を産業連関分析などで試算しており、中小企業への打撃の大きさを数量的に明らかにしている点は評価できます。

 ここで注目されるのは、12年連続で年間自殺者数が3万人を超える水準で推移している問題を初めて取り上げたこと。「小規模な企業の経営者の代替指標とも考えられる自営業・家族従業者の自殺者は、ここ数年3000~4000人規模で発生している」と述べ、「事業不振」や「負債(多重債務)」などを理由とした自殺が増えていると分析しています。

 経営破綻した経営者が「無職」の自殺者に分類されている可能性を考えれば中小企業関係者の割合はもっと増えると考えられます。

 また、政府の「いのちを守る自殺対策緊急プラン」の取り組みを紹介していますが、個人保証の有限責任化など、失敗しても再挑戦できる制度環境の整備にまで踏み込んで論及すべきではないでしょうか。

 第2部では、中小企業が直面する課題が的確に捉えられ、秀逸な分析も散見されます。例えば、密度が低下する中小製造業集積をどのように維持・発展させるかという課題では、東京都大田区と静岡県浜松市、大阪府東大阪市の3市区が比較され、取引構造の違いなど興味深い分析になっています。

 また、中小企業のエネルギー起源二酸化炭素排出量は、全体の12・6%を占めるという推計を初めて示し、省エネに向けた課題を提示しています。

 最後に白書は、中小企業がアジアを中心とする世界経済の発展をどのように取り組んでいくのかを分析しています。

 ここでは、国際化企業は、非国際化企業と比較して、国際化前の労働生産性が高く、国際化後の労働生産性の伸びも高いとしています。2008年版の白書でも同様の分析がありましたが、本欄では撤退のリスクには触れていないと指摘しました。

 今回は、「撤退時のリスクを想定し慎重に国際化を行うことも重要」とバランスのとれた分析・記述になっています。

 なお、今回の白書の事例(53社)では、北海道、岩手、東京(2社)、大阪(2社)、兵庫の会員企業(下記参照)が7社紹介されています。

・ (株)カンディハウス(北海道旭川市)
・ (株)兼平製麺所(岩手県盛岡市)
・ (株)南武(東京都大田区)
・ (株)高齢社(東京都千代田区)
・ (株)レザック(大阪府八尾市)
・ (株)中農製作所(大阪府東大阪市)
・ (株)洸陽電機(兵庫県神戸市)

(U)

「中小企業家しんぶん」 2010年 5月 15日号より

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