意味的価値を考える

意味的価値を提供できる中小企業へ

 中小企業家同友会全国協議会(中同協)より『年頭 中小企業経営の展望レポート2012』が発行されました。本年より『研究センターレポート』に代わり、PDFファイル(無料)で発行しています(中同協ホームぺージ「DOYU NET」に掲載。概要を本紙4~5面で紹介)。

 本レポートは、各企業・各同友会における新年度方針の情勢部分の作成・討議、経営戦略の検討や、経営指針の見直しに活用していただくために4人の研究者の報告と討論を収録。現在の情勢を把握するうえでの興味深い分析や経営のヒントが掲載されています。

 その中で、植田浩史氏(慶應義塾大学経済学部教授)が紹介している「意味的価値」という言葉に興味をひかれました。これは、延岡健太郎『価値づくり経営の論理』(日本経済新聞社、2011年)で展開されているキーワードです。

 「意味的価値」とは、顧客の側が商品に対して主観的に意味づけすることで生まれる価値、客観的数値で量的評価ができないようなもの、あるいは顧客も気づいていないような新しい機能が提案されているもの。たとえば、アップル社のアイパッドとかアイフォンに存在する価値といいます。

 「機能的価値」を高めていけば顧客満足度が上がり、売り上げが拡大していく時代がありましたが、それを今は日本企業が追求できなくなっており、新たに「意味的価値」が大事になってきているとします。「機能的価値」を前提とした「意味的価値」を高めていくものづくりが、特に日本の大企業製造業に大事になっているという主張です。

 植田氏は「実はこうした意味的価値を提供しやすいのは中小企業だと私は思います。大企業がこういうものを供給するのは難しくて、市場規模がないとできません。しかし、中小企業は意味的価値の市場を限定して考えることができるので、むしろ中小企業の方に意味的価値を実現できる可能性があるのではないかと思います」と強調します。

 しかし、ここで疑問が湧(わ)きます。意味的価値が主観的な価値であるなら、自己満足で終わらないかと。これに関して、「実は、顧客が主観的なこだわりをもって意味づけるような価値は、多くの顧客の間で共感をうむ」「意味的価値は、顧客の気持ちの深層部分に訴えかける。気持ちの奥深い部分では、普遍的な価値が見出せる場合が少なくない」(『価値づくり経営の論理』)と説明されます。

 では、中小企業は意味的価値をどのように提供できるのか。なにやら難しそうな課題に思えてきます。そこでヒントになるのが、同友会でもおなじみの小出宗昭氏(富士市産業支援センター長)のメッセージ。「固定観念や過去の経験などにとらわれずに、まずは、『どんな人、事業、会社にもセールスポイントがある』と信じることである。すべてはそこから始まる。自分の強みは何か、商品の売りは何か。もう1度、とことん掘り下げてみてほしい。そこに成功の『鍵』が隠されているはずなのだから」(小出宗昭『次から次と成功する起業相談所』亜紀書房、2011年)。

 すでに意味的価値の提供に近づいている同友会企業は多いのではないでしょうか。顧客の目線で大いに議論を深めましょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2012年 2月 15日号より