経営理念を軸にした採用と育成で若者に生きがい・働きがいを !【全研第9分科会報告より】

若者が定着し、安心して長く働ける社風づくり

沖縄コンピュータ販売(株) 代表取締役社長(沖縄)小渡 玠氏

 福島県で行われた第42回中小企業問題全国研究集会(全研)の内容を収めた『中同協』第88号が発刊されました。今回は、第9分科会で「経営理念を軸にした採用と育成で若者に生きがい・働きがいを~若者が定着し、安心して長く働ける社風づくり~」をテーマに行われた沖縄コンピュータ販売(株)・小渡玠代表取締役社長の報告概要を紹介します。

営業部での経験が大きな礎(いしずえ)に

 私は学生時代は非常に恥ずかしがり屋で、人前で話すことが大の苦手でした。大学卒業後、日本オリベッティ(株)(以下オリベッティ)というIT関連企業に就職、たまたま配属された部署が営業部でした。

 営業の仕事が務まるか不安でいっぱいでした。しかし、いざ働いてみると、入社から3年間で表彰をいただくほどに成長しました。オリベッティでの経験は、現在の私や当社にとって、大きな礎となっています。

 私の入社から3年後、オリベッティが沖縄県から撤退。もともと独立したいという思いを持っていたため、同僚6名と一緒に沖縄コンピュータ販売(株)を設立しました。そして設立から5年後、三代目社長として私が就任しました。

社長就任後すぐに同友会入会

 同友会に入会したのは、私が社長に就任してすぐの頃でした。最初は同友会独特の雰囲気が苦手で、たまたま高校時代の先輩が会員にいたので、少しずつ活動に参加するようになり、経営指針作成塾に参加して、自社の経営理念をつくりました。このとき成文化したのが次の理念です。

 ビジョンは「沖縄発、本土行き、海外行き」、社是は「おもしろいことへのチャレンジ」、社訓は「目標意識を持とう 絶対できるという気持ちを持とう 楽な仕事などない、楽しい仕事はいくらでもある」。

 私自身の目標でもある自社のオリジナルの商品を持ちたいという思いと社員が新しいことに積極的にチャレンジし、仕事を楽しむ姿勢を持ってほしいという思いを成文化しました。

過去最高の新卒採用と幹部社員の造反退職

 創業から20年目までは順調で、新卒採用も定期的に行っていました。会社の転機となった2000年は特に優秀な学生が多く、一気に過去最多の14名に内定を出すことにしました。しかし、ここからが試練のはじまりでした。採用を担当した幹部社員4名が、いきなり一斉退職してしまったのです。事前の相談もなく、4月には入社から5年未満の新人ばかりの会社になってしまいました。

 会社は一気に5000万円の赤字を抱え、倒産寸前にまで追い込まれました。当然ですが、債務超過の会社に金融機関はお金を貸してくれません。それまでの丁寧な態度が一変したことを覚えています。

 社員の給料だけは何としても払わないといけない。ありとあらゆる方法でお金の工面をしました。個人資産は全て担保として提供しました。

 当時から非常にお世話になっているある企業には、ソフトの買い取りを依頼し、さらにお金を貸してもらうようお願いをしました。しかし先方からの回答は「NO」。ただし、「お金を貸すことはできませんが、社長が個人保証をしてもよいと言っている」と続けられていました。

 周りの人たちの助けがあり、当社は存続しています。そのような人たちとの約束を、会社を守らないといけないという思いをエネルギーに変えて、愚直に進んでいけたのがよかったと思います。

経営理念を軸にした社風づくりで会社再建へ

 当時は試験の成績のみを重視して採用を行っていました。また、経営理念も成文化したまま私の机の奥で眠ったままでした。

 この状況を打開するため、自社の理念や採用方針を見つめ直しました。理念は表に出し、社内へ浸透を図るようにしました。社員の採用は成績よりも社長の思いや会社の理念に共感する人を採用しました。

 そうした時期から社員が定着するようになっています。儲かるようになったからではありません。当社は10年間ボーナスを払えていないのが実情です。そんな状況でも社員が辞めません。

 理由のひとつには、社員が主体的に会社経営にかかわって、経営計画や年間目標などを、社員が主導で作り上げていることがあります。周りや会社のせいにせず、自分たちで決めた目標に向かって突き進んでくれています。

 もうひとつは、社員間の絆づくりです。30年間継続している「新入社員歓迎歩け歩け大会」というものがあります。競争ではなく、全員で65キロメートルの完歩を目指す。5キロメートル単位で休憩を取り、全員が揃ったところで出発する。この65キロメートルの間で、毎年、さまざまなドラマが生まれ、社員同士の絆が育まれます。さまざまな社内行事で、社員間の絆を強めている絆づくりの成果なのか、社内結婚が非常に多いのが当社の特徴のひとつとなっています。

 今年は、一気に9名の退職者が出ることになったのですが、2000年とは状況が全く違います。現在は中堅・幹部社員が育ち、退職者もしっかりと引き継ぎを行っています。退職の理由も自らの夢に向かってということなので、笑顔で送り出そうと考えています。

若者が定着し夫婦一緒に働ける職場環境づくり

 今後のビジョンは、若者が定着し、安心して長く働ける社風を築きあげることです。また、当社は社内結婚が非常に多い環境ですので、女性が働きやすい職場環境づくりも同様に進めていきたいです。結婚して子どもができても、また戻ってきて夫婦一緒に働ける。そんな職場は素晴らしいと思います。

 最近では自らのキャリアを高めるために職を変えることが良いという風潮もありますが、私は社員が能力を最大限に発揮するためには、安心して働ける土壌がないといけないと考えています。将来的に終身雇用を実現させるためには、今以上に社員が成長し、業績も伸ばしていく必要があります。私自身も常に社員の模範となるような社長でいたいと思います。

経営理念

私たちはチャンスは「考働」する者にのみ平等であることを理解し日々、自己研鑚に励み準備を怠らない。
私たちは信用を重んじ、社会に役立つことを大きな喜びとする。

会社概要

設立 1980年
資本金 5,000万円

社員数 70名
事業内容 ソフトウエア製品の開発、教育、サポート、コンサルティング
所在地 沖縄県宜野湾市大山
URL http://www.okicom.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2012年 6月 15日号より