社員から社員へ、学びの連鎖を会社の風土に~(株)世起 代表取締役 今村 暢秀氏(愛媛)

【若者が輝く企業づくり】第5回

 若者が生き生きと働き,輝いている中小企業にはどんな特徴があるのかを考えるシリーズの今回は,愛媛県松前町にある(株)世起(今村暢秀社長、愛媛同友会会員)を訪ねます。

 愛媛県松前町(まさきちょう)は松山市に隣接した人口3万人の町です。「平成の大合併」で合併せず、「自立した町づくり」に取り組んでいる町です。松前町にある(株)世起(今村暢秀社長、愛媛同友会会員)は、今村氏の父親が1973年に創業、観光地の土産用菓子の製造卸を営み発展しました。

 今村氏は1991年に入社。しかしその直後にバブルが崩壊。売上は減少の一途(いっと)をたどりました。「自分が入ったから業績が悪化したのか…」。当時25歳の今村氏の脳裏にそんな想(おも)いがよぎりました。

倒産の危機と父親の背中

 2000年頃、取引先や社員への支払いの遅延がおこり、「そろそろ危ないのでは…」という噂(うわさ)が周囲に立ち始めていました。窮地を切り抜けるために前面に立ったのは、創業者であり、当時の社長である今村氏の父親でした。

 父親の懸命の資金繰りと、2002年に自社で開発した「黒ごまきな粉げんこつ飴」の大ヒットが会社を危機から救いました。「繰り返してはいけない、これを機につぶれない会社をつくろう」と、父親はルート営業を一切やめ、製造業に特化する決断を下しました。内部留保を増やし、取引先や金融機関からの信頼を大きく改善することができました。

「社員が辞めたらまた採ればいい」

 当時、専務として事態を目の当たりにした今村氏は、「父親の姿から経営者の責任や決断力の大切さを学んだ」と振り返ります。しかし、社員の採用と教育については父親と意見の食い違いがありました。父親に言わせると「社員が辞めたらまた採ればいい」、「社員は時給分だけ働いてくれればいい」ので、特別な社員教育は必要ないとの考えでした。「それでいいのだろうか」。今村氏はいつしか違和感を覚えていました。

 そんな中、2005年に愛媛同友会に出合いました。自社での実践を生き生きと報告する先輩経営者たちに衝撃を受けました。「自分もあんな風になりたい」と憧れが膨らみました。綿が水を吸うように先輩経営者のアドバイスや同友会の行事で学び、次々と自社で実践していきました。

社員から社員へ、学びの連鎖

 同友会で学んで実践すれば会社がよくなる。そんな手ごたえをつかんでいた矢先、2007年に新卒で採用した3人の社員が立て続けに退職しました。「悔しい。もっとできることがあったはずだ」。新卒社員が定着し、成長できる会社にしようと今村氏は心に誓いました。そんな今村氏に「社員と共に学ぶことが大切」と先輩経営者からアドバイスがありました。「なるほど、そうだ」と、すぐに今村氏は実践しました。まず、1人の社員と一緒に同友会大学を受講しました。

 当初は参加をしぶった社員が、回を重ねるにつれて、他社からの参加者に刺激を受け、交流も深まり、積極的になっていきました。次の年には、その社員が「自分のためになるから」と別の社員に参加を呼びかけ、一緒に参加するようになりました。もちろん今村氏も一緒です。同友会大学だけでなく、同友会のさまざまな社員教育研修や例会でも社員と共に学ぶようになりました。「昔はぜんぜんそんな雰囲気の会社ではなかったんです。勉強する気風が生まれてうれしい」と今村氏は目を細めます。

「新卒社員をみんなで丁寧に育てよう」

 さらに、新卒社員を丁寧に迎えようと入社式を2011年から始めました。「たった1人の新卒社員でも、新鮮な気持ちで、緊張してやってくる気持ちに丁寧に応えよう」と呼びかけて、事前に入社式の練習もしました。当日は、みんなで心を合わせるために歌をうたおうと、社歌の代わりに「世界に1つだけの花」をうたったそうです。また、以前は工場の同じ部門でずっと働くしかなかった体制を改め、新卒社員は最初の1年間をかけて工場の全ての部門を経験してから、商品開発の部門に異動することにしました。工場ではパート社員が多いので、新卒社員の教育のためにはパート社員の協力が欠かせません。「新卒社員をみんなで丁寧に育てよう」と呼びかけました。パート社員は積極的に応えてくれました。

今村氏も同友会の研修に出て新卒社員と共に学びました。それらの取り組みが功を奏し、新卒社員は生き生きと働いています。2012年度の新卒社員を迎えるために入社式の準備を担当するなど、活躍しています。

「若い社員と共に学んで成長できることがうれしい」と語る今村氏。今後は若いパワーも活(い)かしながらさらに営業に力を入れていきたいと意気込んでいます。

会社概要

創業 1970年
資本金 1,000万円
年商 5億円
社員数 32名(パート社員含む)
事業内容 「黒ごまきな粉げんこつ飴」など和洋菓子製造・販売
所在地 愛媛県伊予郡松前町北川原

「中小企業家しんぶん」 2012年 7月 15日号より