【新春座談会】「人を生かす経営で」企業と地域の未来を拓く

 2013年がスタートしました。昨年11月に開催された第3回人を生かす経営全国交流会では、「時代認識を持ち、強みを発信し連携して同友会がめざす企業へ」と題したアピールが採択されました。このアピールをどう広げ、実践していくか、新春座談会を行いました。

中同協幹事長 広浜泰久氏 (株)ヒロハマ 代表取締役会長(千葉/金属缶用部品製造・販売)
中同協副会長・人を生かす経営推進協議会代表 宮崎由至氏 (株)宮崎本店 代表取締役(三重/清酒製造・販売)
中同協経営労働委員長 大野栄一氏  (株)大栄電機工業 代表取締役(愛媛/ITコーディネート業)
司会 中同協事務局長 平田美穂氏

Ⅰ 時代認識~新たな年はどのような年になるか

司会 新年あけましておめでとうございます。今年は、新たな時代に向けてさらなる飛躍が期待される年です。本日は皆さんから新年の展望、同友会運動や企業経営のあり方などについてお話をお伺いしたいと思います。まずは今の時代認識や、新たな年はどのような年になるのかについて、ご発言をお願いします。

中小企業の時代がきた

宮崎 ここ数年、産業界を取り巻く変化は大変早くなっています。私は「中小企業の時代がきた」と、本当にそう思っています。かつては大企業の時代でしたが、今はデジタル家電が討ち死にし、三重県からも撤退しています。県の財政も厳しくなっていますし、雇用もかなり失われてきています。中小企業が本当に地域に根ざした経営をして、雇用を守らないと大変なことになります。
 昨年の第3回人を生かす経営全国交流会の第1分科会で、報告者の菊地逸夫社長((株)キクチ、福島同友会)が、震災で地域の人が少なくなっているという報告をしていました。消費者が少なくなるというだけではなく、勤めていただける方が少なくなる。今、たまたま福島がそういう形になっていますが、私の地域も人口減や都市への集中などで、過疎化が急速に進んでいます。地域が成り立たなくなる時代がきているのです。時代が急速に変化しているということを認識しておかないと大変なことになります。
 行政も、大企業を誘致しても雇用はほとんど生まれないし、すぐ撤退してしまうという経験をしてきました。行政も含めた地域全体で、中小企業をどう繁栄させるかを考えるのは、地域にとっても大事なことになっています。
 私は「中小企業の時代がきた」という時代認識がこれから非常に大事だと思います。マスコミは簡単な言葉にすぐ飛びつきますが、危険です。それは時代認識でも何でもありません。奥底に秘めたものをわれわれはきちんと分析する必要があります。
 私たちは、人々の言葉に流されて、本質を見失ってしまう傾向が強いと思います。常に時代をしっかり見ていかないと、戦略を立てる際も誤ってしまいます。

大変大きい同友会への期待

広浜 私も「中小企業の時代がきた」と感じています。顧客の思いや動機が細分化されて、みな同じではなくなってきています。それには中小企業の方が対応しやすいし、しなければなりません。
 また、今年は3月末で中小企業金融円滑化法が終了します。ある金融機関の担当者が、決算の報告に来社したのですが、赤字なのです。「どうしたの」と聞くと、金融円滑化法終了をにらんで、たくさん引当金を積んでいるのです。金融機関がこれだけの準備をしているのですから、われわれも相当考えておかなければならないと思います。
 持てる人は資金を多めに準備しておく。資金を持てない人は少なくとも理念を明確にしていく。なおかつ、売上または粗利を増やすか、コストダウンに取り組む。このどれかでも明確に計画をつくって銀行に説明をすることが必要です。同友会としてもそのような発信をしていく必要があります。
 私が同友会に入会して22年になりますが、「3つの目的」の総合実践が相当進んできていると感じています。
 企業づくりの運動では、「中小企業における労使関係の見解」(以下「労使見解」、『人を生かす経営』所収)をふまえた経営指針づくりとそれに基づく経営が進んできています。
 経営環境改善の運動でも中小企業憲章ができ、多くの地域で同友会が関わって中小企業振興基本条例が制定されてきています。
 同友会への期待、責任も大変大きいものがあり、同友会が果たさなければならない役割は相当大きくなってきていると感じています。

景気の先行きへの不安

大野 企業変革支援プログラムステップ1、同ステップ2(以下、ステップ1、ステップ2)の普及が進んできています。皆さん、今の経営環境の厳しさから、何とか会社を変革していかなければという思いが強いのだろうと思います。
 2012年7~9月期の同友会景況調査報告(DOR)でも「景気の先行きは悪くなる」という見通しが出ています。多くの経営者は、先行きに不安を持っているのではないでしょうか。
 しかし、不安をもっているだけではいけません。ステップ1、ステップ2も活用して変革のチャンスとして今の経営環境をとらえるということが必要です。厳しい環境ですが、経営者と社員が一丸となって取り組むことができる時期なのではないかと思います。
 しかし、多くの中小企業の財務体質は十分とは言えず、労働環境の整備も十分なものは提供できていないと思います。それではどうすればいいのでしょうか。やはり「労使見解」にもあるように、経営者と社員のコミュニケーションをどれだけとっているか。情報公開を行い、会社の現状を十分理解してもらい、会社のかじ取りをしていくことが、今非常に大事なのではないでしょうか。
 人と人との関係の整備を今年はしっかりやっていかないと、中小企業の多くは、そこで問題がおこりがちです。風通しのいい、コミュニケーションのいい企業づくりが非常に重要です。

Ⅱ「人を生かす経営全国交流会」アピールの実践を

司会 昨年の第3回人を生かす経営全国交流会で採択されたアピールは、これからの時代に求められる企業づくりについての総合的な問題提起だったと思います。アピールで提起された内容をどう運動化していくのかについて、お話をお願いします。

企業変革支援プログラムで実践のチェックを

大野 多くの同友会で、経営指針を成文化したはいいが、なかなか実践につながらないという課題があります。各同友会の経営指針成文化セミナーや経営指針を創る会などでは、経営指針の実践をサポートする活動を強化していただきたいと思います。
 同友会としてしっかりフォローしていくことが、経営指針の実践運動を進める鍵だと思います。
 企業変革支援プログラムは、実践の進み具合をモニターできるものです。セミナーや創る会でも活用していただきたい。ステップ2の中身は、非常に具体的に各社での取り組み事項がわかるようになっています。じっくりと取り組んでいただければと思います。

具体的な事例の交流が大切

宮崎 経営指針が社員と共有できないとか、実践できていないということと、ステップ2が書けないということは、表裏一体の問題だと思います。書けないのは文章力がないからではなく、仕組みがないからです。
 経営理念に「社会に貢献できる企業をめざす」と掲げても、会社にとって、経営者にとって、社員にとってどういうことなのか、話し合わないと具現化しません。もっと言うと、実践できないということは、社員との話し合いが欠落している現れではないかと思います。
 社長が社員と「理念を戦術にどう具体化するか」の話ができていないのです。企業変革支援プログラムをやってみるとよくわかります。
 同友会でも具体的な事例の交流が行われることが、まさに「同友会は辞書の1ページ」ということです。例えば顧客を自社ではどうセグメントしているか。顧客をこだわりを持った人に絞ると、当然マーケティングが変わりますし、伝達の方法が変わります。
 同友会の例会などでは、そのような具体的な事例、戦術的なことも出し合えるようにすることが大切だと思います。

科学性・社会性・人間性―同時にレベルアップを

広浜 最近は、科学性・社会性・人間性のどれが欠けてもいけないし、全部同時にレベルを上げていかないと何も解決できないと確信しています。
 例えば障害者雇用に取り組むことは、社会的に望まれていることですし、人間的にも必要なことです。では、どう科学的にとらえて障害者の方を雇用するのか。今ある仕事を作業分析・動作分析をして、「この仕事なら」とその人に一番ふさわしい仕事を担当してもらうということが必要だと思います。
 科学性・社会性・人間性の3つをバランスよくレベルアップさせていくのは大変ですが、それをやっていくのが経営指針。バランスよくやれているのかを見るのが企業変革支援プログラムです。
 経営指針ももっと徹底してやらなければ駄目だと感じています。1つはどこまで一人ひとりの社員が課題を具体化・細分化した形で、計画を立て、実践し、チェックしているか。PDCAをまわすことがどこまでできているかということです。
 当社では今、経営理念、経営方針、そして各部門の計画があり、各係長が週次課題までつくってやっています。そしてまだ一部ですが、社員レベルでも1年52週の計画を立てて、課題に取り組み、報告・フィードバックしています。そうなって初めて少しずつ前に進みだしました。
 もう1つ、経営指針をつくっても「怖くて社員に出せない」という人もいます。やはり後ろめたいものがあったまま経営をしていると、なかなか経営指針を公表できないと思います。私は指針を公表してから、後ろめたいものがなくなりました。顧客や社員に対してうそがない。顧客のため、社員の幸せのために、自分が一番強い思いを持っていると思えるぐらいのものが必要で、それに対しては一切後ろめたいものはない。
 経営指針を実践するには、それくらいの覚悟を決めてやらないといけないと感じています。

Ⅲ 自社の経営戦略

司会 それでは最後に、それぞれの企業の経営戦略についてご発言をお願いします。

6つの経営戦略を実践

広浜 経営戦略は、6つの項目があります。(1)品質の良いものを、(2)安く、(3)早く、安定供給する、そして(4)顧客の求めている機能を備えた製品の開発も含めた品ぞろえ、(5)技術サービス・技術支援、(6)提案営業です。
 「安く」以外は差別化できていて、絶対他社に負けないというところまできています。「安く」は、一部製品によっては負けているところもあり、大きなテーマとして今後取り組んでいく予定です。これは単なるコストダウンによるものではなく、収益構造を変えていくという大きな観点で考えています。
 1つ目は不採算製品に対する体系的な対策、2つ目は機会損失を最小化する、ということです。コストダウンについては、1つは例えば動作経済の原則に基づいた作業改善など、科学的な提案をするということ。もう1つは、生産しやすい製品設計をするということをみんなに投げかけているところです。
 海外戦略としては、中国に12~3年前に自社工場をつくり、現地生産したものを現地で販売しています。ただ中国は今、とても景気は悪い状況です。
 インドでは、日本企業が進出する時の生活サポートをしていますが、めざましい発展を見せています。例えば日本人向きの食事つきのアパート、英語を話せる運転手付きのレンタカーなどを提供していますが、現在、自前のホテルを建設中です。

バーチャルな時代だからこそアナログで

大野 IT業界ではクラウド化がひとつの流れとしてありますが、クラウド化することで顧客を囲い込むことができ、顧客も低コストでいろいろなサービスを受けられるなど、お互いにメリットがあります。ただ、提供するベンダー側は単価が下がるので、多くの顧客を抱えないと売上が確保できないという面はあります。逆に確保すればするほど安定した収入にはなります。
 私は、クラウド化でしっかり商売になるのはまだ先だと考えています。そうなった時のチャンスをつかむために、今は、顧客とのていねいな関係づくりを強化していくことが一番大事だと位置付けています。
 大手ITメーカーは、地方の支店・営業所をどんどん撤退させています。東京・大阪に集約して地方は弱くなっています。そのような中、バーチャルの時代だからこそ、われわれはいかにアナログで対応できるかがポイントだと考えています。
 今、IT関係は通信やネットワーク、情報システムが絡み、どんどん複雑になっています。そこを地元でしっかり対応してくれる企業があるかどうかが問われてきます。地元のITベンダーは、システム・通信・ネットワーク、それぞれバラバラになっているので、なおさら対応が悪くなっています。当社は総合的に対応できるスキルがあるので、それを顧客にアピールしてしっかり関係づくりをしておけば、大きな流れでクラウド化が進んでいっても対応できると考えています。

“提供の仕方込み”で高い付加価値

宮崎 当社では清酒と焼酎がツートップです。清酒は付加価値の高い商品を高い所得の人に販売していくという戦略です。
 焼酎はプレゼンテーションの世界で、「お店でこうしたらおもしろいですよ」と、提供の仕方込みで売っています。
 昨年11月末に当社の主力商品であるキンミヤ焼酎のフローズン「シャリキン」を出しました。当社の取引先のある居酒屋さんが、キンミヤでシャリシャリのシャーベットをつくり、それをつかってキンミヤの炭酸割りを顧客に提供していたのです。これだと薄くならなくていいのです。ただいちいちつくるのが面倒くさい。そこで90ミリリットルのパウチパックに入ったキンミヤを開発しました。これを箱のまま冷凍庫に入れると、シャリシャリに凍るようになっているのです。
 価格は1つ95円ですので、「安いなあ」となるのですが、実は1升に換算すると安くはありません。ただ、提供の仕方込みで売っていますので、こういうものは間違いなく付加価値があがります。
 今は「東京スタイル」のままで輸出ができます。東京の飲み屋さんで流行しているものが、海外で売れるのです。例えばキンミヤとホッピーがニューヨークのバーで飲まれているという考えられないことが起こっています。
 中小企業は全体のマーケットをめざしていないので、マニアックなことをやっていると、大手とは違うマーケティングができるのです。
 ある同友会の役員さんがLEDの看板を開発して、全国から引き合いが来たのですが、自社では対応ができない。そこで同友会の事務局長に相談したところ、全国の同友会会員52社を紹介してもらい、全国に販売しているそうです。これは同友会だからできる連携だと思います。同友会は全国に4万2000社の会員がいるのですから、もっと会員同士の「出口連携」を考えてはどうかと思います。

司会 全国4万2000社の仕事づくりの連携など、大きな展望が開けるお話を聞くことができました。同友会運動に求められている期待に応えられるよう、みなさんと共に力を合わせて取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。

「中小企業家しんぶん」 2013年 1月 5日号より