医療広域ネットワークづくりと自立歩行支援ロボット~(株)キシヤ 代表取締役会長 末石藏八氏(福岡)

 今年2月の中同協企業連携推進連絡会で(株)キシヤ(末石藏八代表取締役会長、福岡同友会会員)の物流センターを視察しました(=写真)。当日の報告から医療の広域ネットワークと連携でのロボット開発の事例を紹介します。

「S・P・D・」事業

 「S・P・D・」とは「Supply Processing & Distribution」の略称です。物品供給、物品の加工、そして物品の分配・配送を意味します。アメリカから来た手法ですが、もともと外科系の病院の実態から始まったものです。看護師がナースステーションでの実務で忙しく、ベッドサイドになかなか居ないという状態で、病院の現場にとって不自然ではないかという問題がありました。看護師さんはできるだけベッドサイドに永く居ることが本当の医療です。実働7時間のうち、1時間50数分というのが医療の時間で、5時間強は大体雑務でした。これを解決するための事業が「S・P・D・」です。

わが社は、福岡県内の医科大学はすべて担当しています。医薬品は扱わず、医療機械と医療材料を扱っております。病院の経営も相当厳しくなっていますから「あなたの企業は、わが病院に対して経営に直結する提案がありますか」と言われるのが常です。簡単にできる事業ではありません。

 「S・P・D・」により病院は医療材料の在庫がゼロになり、看護師さんは医療に専念できる時間が多くとれるようになります。しかし、私たちは非常に大変です。それでも「どこかがやらないといけない」と私が社長の時に踏み切りました。今はほとんどの大きな病院が「S・P・D・」に取り組んでいます。

わが社のダイバーシティ多様な人材の活用

 わが社は障害者雇用をしています。きっかけとして、雇用ニーズと実態とのミスマッチがありました。身体障害者を募集していたのですが、応募が来ず、福岡市障がい者就労支援センターから助言をいただきました。知的障害の多様性について学び、社会貢献に対する理解も進み、役員のすばやい合意形成がありました。知的障害者を受け入れる土壌があったことも一気に障害者雇用が進展するきっかけとなりました。

 受入実習では、実習生がまじめに実習に取り組みました。支援センターや特別支援学校の厳しい指導ときめこまやかなフォローがあり、実習をとおして障害者が会社の力になることを確信しました。雇用した後も、障害者は企業の大切な戦力であること、多様な能力をもつ人材がいること、共に働くことの意義も見出しました。障害者雇用を増やすことへの抵抗感もなくなり、受入担当社員の新しい能力も発見することができました。

 わが社のダイバーシティの展開としては、長期的な人材戦略としてダイバーシティをとらえようとしています。将来、若者の労働力確保が困難になってくる可能性があります。高齢者、障害者、外国籍労働者を大切な労働力として考えていくことが必要だと思っています。そのために、「多様な能力」「多様な価値観」「多様な働き方」を許容できる体制の整備、制度、価値観の形成を図る必要があると思っています。

希望を与えるロボットスーツ HAL FIT

 筑波大学の山海教授が10年間かけて研究し、できあがった製品です。患者さんの「歩きたい」という意思で、筋肉を動かそうとする際に発生する「微弱な電気信号」をキャッチして機械が動きます。今まで歩けなかった方々が歩けるようになり希望を与えます。生きる気力も与えます。前向きに生きていくきっかけになります。

 わが社は九州の代理店として取り組みました。希望をなくしておられる患者さんに、少しでも前向きに生きてもらう、そういう仕事がしたいという想(おも)いでいち早く取り組みました。

「中小企業家しんぶん」 2013年 5月 25日号より