自社の技術や知恵の再評価を

【経営者のための知的財産入門】(1)

 企業に独自性が求められる時代。技術やデザイン、ブランド力を知的財産権として活用することは、中小企業の重要な戦略のひとつです。今号から特許庁の協力により知的財産の概要、中小企業の取り組み、国の支援策などについて連載します。

 最近、「知的財産(以下、知財)」という言葉を目にする機会も増えてきましたが、「知財」と経営との関係をはじめから意識している経営者の方は少ないのではないでしょうか。また、これまで「知財」を意識しなくても事業に支障がなかったため、問題が起きた時に対処すれば済むと考えていた方も多いのではないでしょうか。

 しかし、「知財」に取り組んでいる中小企業に取り組み始めたきっかけや動機について調査したところ、「知財で他社との差別化が図れることに気づいた」「知財が営業面や価格面での交渉力の1つになることがわかった」「権利侵害に対する予防の必要性に気づいた」という回答と並んで、「知財に関して痛い目に遭ったこと」という回答が多いのも事実です。

 今回は、「知財」について考えるはじめの一歩として、「知財」に関する基本的な内容をご紹介します。

形のない財産

 財産というと、形のある動産や不動産が一般的ですが、人間の知的創造活動の成果である発明やアイデアなどの形がないものの中に財産的な価値を見出されるものがあり、それらを「知財」といいます。

 知的財産のうち、法的な裏付けにより財産権として保護される権利の総称が「知的財産権」であり、特許や商標のように公的機関への手続や登録により権利が発生するものと、著作権のように創作などにより直ちに権利が発生するものがあります。

 「知的財産権」の権利者は、独占的にその権利を一定期間実施できるなどの強い権利が与えられ、その権利が侵害された場合は、製造の差し止めや損害賠償などを求めることができます。

リスク管理も

 限られた資金の中で日々の業務に取り組む中小企業にとって、自社の「知財」を把握することや「知的財産権」を取得するための費用や手続、権利化後の管理、他社との係争などは決して軽い負担ではありませんが、自社の持つ技術やノウハウ、アイデア、長年の知恵や経験、信用の蓄積を改めて評価し、適切な権利化をして事業の武器として活用することやリスク管理の側面から他人の「知的財産権」を意識することは決して無視できないテーマだといえるでしょう。

 次回は、知財に関するトラブル事例や中小企業が知財に取り組むメリット・デメリットを中心にご紹介します。

特許庁普及支援課産業財産権専門官 佐藤 ちづる

「中小企業家しんぶん」 2013年 7月 5日号より