倒産の危機から、地域の笑顔提供カンパニーをめざして~(株)小坂田建設 代表取締役 小坂田 英明氏(岡山)

同友会活動を通じて明確になった自社の存在意義と実践の大切さ

 2013年度中四国ブロック代表者・支部長交流会(6月20~21日、愛媛)で(株)小坂田建設代表取締役の小坂田英明氏(岡山)が「倒産の危機から、地域の笑顔提供カンパニーをめざして」のテーマで報告を行いました。その要旨を紹介します。

倒産の危機に直面して

 当社は岡山市北区建部町にある建設会社です。建部町は岡山市の北部にあり、合併により岡山市になりました。過疎化・高齢化が進んでおり、限界集落に近い地域もあります。祖父が1955年(昭和30年)に創業し、私が三代目です。社員が10名、役員が私も含めて3名、計13名です。

 1998年に台風災害があり、その復旧工事などもあったため、ピーク時には年商が4億4000万円になりました。その後、復旧需要や公共工事が減少し、競争も激化する中で売上がどんどん下がり、実質9期連続赤字という状況になりました。

 私は大学卒業後、東京で働いていましたが、父から請われ、2001年に当社に入社しました。ちょうど売上がピークを過ぎる頃でした。

 2008年末に会社は倒産の危機に陥ります。当時は父が社長でしたが、資金繰り表はなく決算書も読めない。会社の数字は1年間経営が終わってみないとわからない状況でした。当時は父も私も社員を信用しておらず、「あの社員は駄目だ」というようなことばかり言っていました。そのため権限委譲も行わずに、社員は全て社長や私に指示を仰いで動いていました。全て経験と勘で経営をしていました。

再建への決意

 2009年の初めに専門家も交えて改めて調べると、売上が約1億円で借金が1億2000万円あり、債務超過となっていました。弁護士に相談したところ、「倒産して自己破産するしかない」とのことでした。

 私と父は専門家と相談して倒産する日を決めましたが、社員の再就職先やお客様のことなどを考えると夜も眠れません。3月5日に家族と経営指導をしていただいていた商工会職員の方が集まり、話し合いを行いました。小さな町ですが、当社は地域では一番社員数の多い建設会社です。地域のこと、社員の生活のこと、そしてわれわれの生活のことも考えると、事業を継続するしかないと決意し、この日から事業を継続する取り組みを始めました。

同友会での学び

 私は2007年に同友会に入会しました。当初はあまり参加していませんでしたが、しばらくして経営指針成文化研修会に参加しました。成文化研修会の期間は、ちょうど当社の倒産の危機と重なっていましたので、厳しい言葉もいただきましたが、同期の仲間との交流から、みんな同じような悩みを持っているということに気づきました。

 また自社の歴史を見直す中で、祖父や父の思いなどを考えることができました。一番良かったのは、社員が駄目なのではなく、経営者が駄目なのではないかと気づいたことでした。

 それから経営指針の成文化も含めて、会社の再建に取り組みました。まず自社の強み・弱みを知ろうと、SWOT分析を社員とともに行いました。強みとしてわかったのは、創業55年(当時)の歴史があること、公共工事を通じて地域に密着していること、地域の個人のお客様とのつながりがあること、地域では社員4~5名の会社が多い中、当社は10名の社員がいて、車や建設機械も多く、機動性があることなどです。そして一番の強みは、社員同士が和気藹々(あいあい)としていて、笑顔で仕事に取り組んでいることだと気づきました。

 商圏の問題では、岡山市の人口は70万人ですので、町外にエリアを広げれば仕事があるのではという意見もありました。分析してみると、仕事をしているエリアの戸数は430戸で、町全体(2360戸)の6分の1しかないことがわかりました。もっと地元に目を向けて、町内全域をエリアに仕事をしようということになりました。

会社再建の取り組み

 まず当社を知っていただこうと月1回、2500戸にチラシを新聞折込で配布しています。チラシにはその時々の話題や当社の仕事に関すること、お客様から寄せられた困りごとなどを掲載しています。

 会社の敷地を使ってのイベントも年1回開催しています。世代を超えた地域の交流の場になっているとともに、準備や当日の運営を通して社員一人ひとりの能力の高さに気づかされる場になっています。

見えてきたニーズ

 当社のある地域は、中山間地域で何もないところだと思っていましたが、いろいろなニーズがあることにも気づきました。

 高齢化によるニーズとして「玄関やトイレに手すりをつけてほしい」「草刈りや木の伐採をしてほしい」「墓そうじに行ってほしい」などがありました。

 過疎化によるニーズとしては「住まなくなった家を解体してほしい」「田の管理をしてほしい」など。少子化によるニーズとしては「田を耕してほしい」「不要なものを捨ててほしい」など。業者の空洞化によるニーズとしては「雨漏りや鍵を直してほしい」「ペンキを塗ってほしい」など。中山間地域のニーズとして「裏山を崩れないようにしてほしい」「山道をつけてほしい」などです。

 昔は土木中心の建設会社ということにとらわれて、そういうニーズがあってもお断りしていました。今はいろいろなニーズに対応していこうということで、当社がワンストップでニーズをお聞きして、異業種のネットワークで対応をしています。そういう中で新しいニーズをいただくと、チラシに書いてお客様に情報として提供する。そしてまた新しいニーズをいただく。この循環で会社を回しています。

 こうすることで地域の方々が暮らしやすい環境を提供するのがわれわれの使命です。それを企業間連携で進めると地域に笑顔ができるし、地域の企業も元気になる。小さな企業だけれども、この地域から日本を元気にしていければという思いでやっています。

みんなを笑顔に

 社内の実践としては、銀行借入のリスケを行い、経営改善計画を作成。今では資金繰りもだいぶ余裕が出てきました。毎月銀行に行き、試算表や資金繰り表、受注工事明細、売上予測、営業情報、経営方針を説明しています。

 社員にも会社の数字を公表し、また権限委譲も進めるなど、社員がやりがいを持てる環境づくりにも取り組みました。お客様に社員の顔を覚えてもらおうと、社員の似顔絵をつくり、当社のお仕事メニューに載せてお客様のところに持っていっています。

 当社の名刺やチラシには「笑顔提供カンパニー」と書いています。これはお客様のニーズに応えるサービスを提供して、お客様に笑顔になっていただくこと。財務・売上の改善をして末永く地域に貢献できる堅固な企業にし、地域の方に笑顔になっていただくこと。そして雇用条件の改善や情報公開により、社員と経営者みんなが笑顔になっていくことを意味しています。

建設サービス業として

 経営再建に向けた実践の中で、われわれはお客様に何かを提供してその対価をいただく「建設サービス業」であるということに気づきました。また以前は地域イベントに参加することが地域貢献だと思っていましたが、事業を継続することが一番の地域貢献と思うようになりました。

 今後は、リフォーム分野への進出を考えています。また昨年から農業生産法人を立ち上げて、農家の「田植えをしてほしい」などのニーズに応えています。これにより耕作放棄地を少なくしていくとともに、社員の定年後の働く場を確保したいと考えています。

 お墓や家の周りのそうじなどの事業は、地域の元気な高齢者が手伝ってくれています。地域の方々の働く場を確保することになるとともに、コミュニケーションの場にもなり、喜んで仕事をしてもらっています。このようなことを通して元気な地域をつくっていきたいと考えています。

会社概要

創業 1955年
資本金 2500万円
事業内容 各種土木・建築・舗装・造園・宅内下水道など
従業員数 10名
所在地岡山市北区建部町川口
URL http://www.osakada.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2013年 7月 25日号より