同友会理念と地域ビジョンの共有でライバルからパートナーへ【愛媛・四国中央市】

日本一の「紙の町」にねざした同業者ネットワーク(上)

 日本一の「紙の町」愛媛県四国中央市。そこで原料の製造と、製品の配送を共同で行なう中小企業の同業者ネットワークがあります。参加企業は共同のメリットを追求しながら、一方で各社のオンリーワン技術・商品を生み出し、市場での存在感を高めています。同友会会員企業がこのネットワークの形成に関わってきました。この取り組みを2回の連載で紹介します。
取材・編集 中同協事務局員 中平智之

「紙製品なら、切手と紙幣以外は何でも作れる」多様・完結型の産業集積

 四国中央市は愛媛県の東端部に位置し、香川県・徳島県・高知県に接する交通の要衝です。当地は、江戸時代から手漉(てす)き和紙の産地として栄えてきました。2004年、伊予三島市(紙・パルプ製造品出荷額で全国第2位)と川之江市(第3位)と他2町村が合併して四国中央市が生まれ、静岡県富士市を抜いて日本一の「紙の町」となりました。

 海(ひうち灘)と山(法皇山脈)が近接する狭隘(きょうあい)な地形の中で、製紙メーカーが集積し、「紙製品なら、切手と紙幣以外は何でも作れる」といわれるほど、生産品目が多岐にわたっています。静岡県富士市が大量生産・大量販売型の製品に集中した、量産型産業集積の性格があるのに対し、四国中央市は多様・完結型産業集積という性格があります。

共同と独自努力の両面追求

 そうした四国中央市の集積のメリットを活(い)かす形で活動する製紙メーカーのネットワークがあります。古紙を再利用した「再生パルプ」の製造を担う「愛媛パルプ協同組合(通称:AIPA)」と、小口商品の共同配送を担う(株)アイネットです。家庭用紙は価格下落圧力が強く、原油やパルプといった原材料の価格変動も激しいのでコスト管理が重要です。そこで各社は業界の入口(原料調達)と出口(製品の配送)を共同して行うことでコストダウンをはかり、同時に各社が付加価値の高い製品開発に注力しています。実際に、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンクリーナー、業務用紙、書道用紙などの分野で各社は存在感を高めています。

愛媛パルプ協同組合(AIPA) 古紙再生パルプの共同製造

環境に優しく上質な古紙再生パルプを供給

 愛媛パルプ協同組合(以下、AIPA)は、1969年に古紙100%を利用した「再生パルプ」を製造するために中小の製紙メーカー13社で結成した協同組合です。同業者による協同組合は非常に珍しい例です。このうち5社が愛媛同友会の会員企業で、現在、同友会で活動しているメンバーの先代経営者たちが結成に尽力しました。紙パルプの製造には、製造装置に加えて、環境対策で必要となるスラッジ(廃棄物)の処理施設など巨額の設備投資が必要です。AIPAは古紙再生パルプの製造を共同で行う設備を1974年に稼働。関西など大都市圏から調達した新聞や牛乳パック、オフィス古紙などを分類してインクや不純物を除去し、再生パルプを製造しています。設備の改善と増強を重ね、上質な再生パルプを安定供給する体制を確立してきました。現在、AIPAの全体で生産する製品が月産約4000トンで、これは日本の中小企業の中では10指に入る数字です。共同のメリットが発揮されています。

「ゴミが資源に大変身」再生循環型リサイクルシステム

 AIPAの取り組みのキーワードは「地球環境に優しい」ことです。1984年、AIPAのメンバーである泉製紙(株)の宇高昭造氏が環境に優しい紙づくりのために開発した古紙再生・製造プロセス「HDK法」をAIPAが最初に導入。化学的薬品処理に頼らない漂白方法で上質な再生パルプを製造することができるこの技術は、紙工業界に大きな影響を与え、環境保護の取り組みを加速させました。

 2001年からは「ゴミが資源に大変身」をうたい、オフィスから回収した古紙を「古紙100%のトイレットペーパー」として再生させる「再生循環型リサイクルシステム」を開始、2012年には大阪にストックヤードを設けるなど、本格的に取り組んでいます。分類していないオフィス古紙や機密書類をそのまま回収してリサイクルできる技術を確立したことで、お客様からは紙ゴミの処分経費の大幅削減になると喜ばれています。従来、売り手が強い古紙市場において、古紙回収に付加価値をつけることで買い取り価格の低減にもつながっています。

愛媛パルプ協同組合-概要
理事長:伊藤俊次
設立:1969年
組合員:愛媛県下中小製紙業者7社
出資金:5億6550万円
所在地:愛媛県四国中央市川之江町415-1
事業内容:
1.古紙100%再生パルプ製造事業
2.製紙スラッジ焼却処分事業
3.EPCO製品共同販売事業

アイネット(株) 小口製品の共同配送

同友会の学びから生まれた共同構想

 1990年、AIPAの1つの事業部としてアイネット(株)は設立されました。現在、10の製紙関連企業・団体・個人が共同出資しています。現在、アイネットの中心を担っている、服部豊正氏(愛媛同友会代表理事、服部製紙(株)会長)、宇高昭造氏(愛媛同友会同友会大学学長、泉製紙(株)社長)、伊藤俊次氏・俊一郎氏(愛媛同友会理事、イトマン(株)社長)らが研究を重ねて取り組んできました。

 同友会での学びと交流がアイネットの構想に大きく関わりました。1985年に愛媛同友会が結成され、服部氏と宇高氏は毎月の理事会に一緒に通うようになりました。それまで服部氏・宇高氏は同業のライバル同士の関係でしたが、松山まで往復6時間を車中で一緒に過ごし、自身のこと、会社のこと、業界のことを深く話し合うようになりました。そして伊藤俊一郎氏も加わって同友会で学ぶなかで、自主・民主・連帯の考え方をどのように実践していくのかを語り合うパートナーの関係になっていきました。日本の製紙メーカーが激しい競争のなかで収斂(しゅうれん)されていくとき、生き残るために各社は何をしなければならないのか、共同で何ができるのか、どういう地域にすることが必要なのか、議論をつきつめて生まれたのがアイネットの構想でした。

地域ビジョンを共有したパートナーシップ

 同社は小口製品の共同配送と、トイレットペーパー紙管の製造を主軸にしています。各社の小口製品を同社の倉庫に集め、そこから全国の納入先に効率よく配送することで、各社の運送の手間と経費が大きく削減されます。同社は納入先までの経路と道路状況をデータ化しており、配送計画を立てたうえで、毎日20台が全国に向けて出発します。帰り荷には、AIPAのリサイクル用古紙を運び、四国中央市の製紙加工業の「入口」と「出口」が有機的につながっています。

 ここまで来るには平坦(へいたん)な道のりではありませんでした。共同配送をするために各社の販売情報を共有することに躊躇(ちゅうちょ)する声もありました。また、出資企業の倒産で負債を抱えた際は、議論の末、他の企業に増資を呼びかけて乗り越えることができました。同社の服部豊正社長は「各社の利益の追求だけでは生きていけない状況がある。地域全体が良くなっていくためにどうするのかが大事だ」と話します。地域ビジョンと同友会理念を共有したパートナーシップが「日本一の紙の町」に生きています。今後の地域産業の発展にとってその意義がますます高まっています。

アイネット(株)-概要
代表取締役:服部豊正
創立:1990年
資本金:5700万円
出資会社:愛媛県下中小製紙企業・団体7社、個人3名
正社員:12名
事業内容:共同配送業、倉庫業、紙加工業、紙製品の販売業、エネルギー電力販売業
所在地:愛媛県四国中央市妻鳥町1571-1

「中小企業家しんぶん」 2014年 1月 25日号より