「環境」テーマにしたオンリーワンの製品・技術開発【愛媛・四国中央市】

日本一の「紙の町」にねざした同業者ネットワーク(下)

 本紙1月25日号に掲載した、愛媛県四国中央市の同業者ネットワークを紹介する連載の2回目です。前回は再生パルプ生産の協同組合「愛媛パルプ協同組合」と、共同配送の「アイネット(株)」を紹介しました。今回は、そこに参画して付加価値の高い製品・技術開発を行い、市場での存在感を高めている4社の会員企業を紹介します。

 (取材・編集 中同協事務局員 中平智之)

服部製紙(株) キッチン清掃に特化した商品開発

 服部製紙(株)(服部豊正会長、愛媛同友会会員)は、水質汚染の原因の1つである台所廃水に着目し、この防止に役立つ商品の開発に力を入れています。合成界面活性剤不使用の重曹電解水を用いた水環境に負荷をかけないウエットクリーナーが注目されています。それまで重点だったトイレットペーパー・ティッシュペーパーの比率を下げ、キッチンまわりに特化した紙製品を投入する市場戦略で成功しています。

社員が生きいきと働く会社をつくりたい

 服部氏は1987年に愛媛同友会に入会。社員が定着せず悩んでいたとき三宅昭二氏(香川同友会常任相談役・中同協顧問)の話を聞き、「まさに自分の目指す会社がここにある」と感銘を受けました。そこから4、5年は同友会のほとんどの会合に参加、「社員が生き生きと働く会社をつくりたい」と学び、実践してきました。地元でも同友会の学びの場をつくろうと四国中央支部の結成に奔走、また、地域の同業者ネットワークである「愛媛パルプ協同組合(通称:AIPA)」と「アイネット(株)」にも関わってきました(1月25日号に詳報)。

台所廃水の防止に自社は何ができるのか

 同友会に入会した頃、社内では「これからは環境をテーマにした商品づくりをしていこう」と議論し、Amenity and Ecological Lifestyleをテーマに、アロエエキス入りのトイレットペーパー、女性用化粧品であるフェイスマスクなどを開発するなかで、商品のコンセプトと開発力を磨いてきました。そして生まれたのが水環境に負荷をかけない、合成界面活性剤不使用の重曹電解水を用いたウェットクリーナーでした。水拭きがいらず、排水を汚さず、手荒れもしないことで注目され、女性層からの支持が広がりました。

価格決定権をもてる商品づくり

 重層電解水に着目した商品は同社に独自のノウハウがあり価格決定権があります。トイレットペーパーやティッシュペーパーなどを量販店に売るこれまでのスタイルでは、常に価格下落の圧力に悩まされます。ここから脱却し新しい価値を創り出して、選ばれる売り方が重要な課題だと服部氏は考えました。社員とみんなで時間をかけて議論し、自社ブランドとして「sndek(スンデク)」シリーズを2007年に立ち上げました。「住んでく、済んでく、澄んでく、棲(す)んでく」の4つの意味を込めた造語です。この商品シリーズのインターネット販売、インテリアショップ、百貨店での販売に着手して年々、売上を伸ばし、現在、同社におけるトイレットペーパー・ティッシュペーパーの売上を上回るところまで来ました。

 「社員が生きいきと働く会社をつくりたいというのが原点。いま、家庭廃水の汚濁を防ぐという使命感が社員に根付いていると感じます」と服部氏は言います。同社は、介護・医療分野での製品開発にも乗り出しており、服部氏と社員の使命感はさらに新たなテーマに向けて膨らんでいます。

服部製紙(株) 概要
代表取締役:服部正和
設立:1950年(創業:1914年)
資本金:8350万円
社員数:120名
事業内容:化粧品/ウェットティッシュ各種/清掃用消耗品(スプレー・シート)/トイレットペーパー/ティッシュペーパー/キッチンペーパー(台所用品全般)/その他
所在地:四国中央市金生町山田井171番地1

泉製紙(株) 自社開発した古紙再生処理技術が業界のスタンダードに

 泉製紙(株)(宇高昭造社長、愛媛同友会会員)はプリント入り商品、シャワートイレ専用商品をはじめとした多様な古紙再生トイレットペーパーを製造し全国で販売しています。経営指針で「省エネルギー、省環境汚染、健康増進、高品位、低コストの実現をとおして再生紙をすてきな商品に仕上げ」ることを掲げ、用水や薬品を極力使わず、環境に負荷をかけない古紙再生商品づくりに取り組んできました。

環境に負荷をかけないような経済活動をしたい

 宇高氏は1971年、家業の製紙工場を継ぐために川之江(現、四国中央市)に戻ってきて驚きました。幼少の頃に泳いで遊んでいた近所の堀が、工場廃水でひどく汚れていたのです。当時、地域では廃水処理設備はまだ定着していませんでした。ショックをうけた宇高氏は「環境に負荷をかけないような経済活動をしたい」と考え、すぐに廃水処理設備の開発に取り組みました。

 地元機械メーカーの担当者とともに専門書を輪読、半年かけて、澄んだ排水を出す水処理プラントの開発に成功しました。業界で注目され、多くの視察が訪れるようになり、地場産業を巻き込んで環境に負荷をかけない技術開発が動き出しました。

 この時期、公害が社会的な問題となっていました。1973年、瀬戸内海環境保全特別措置法が施行、水質汚染の指標の1つであるCOD(化学的酸素要求量)の総量規制が決められ、企業側のいっそうの対策強化が課題でした。また、第1次オイルショックは原油高騰をもたらし、製品は「量よりも質」への転換が必要でした。

無漂白かつパルプ繊維を傷つけない古紙処理技術(HDK法)を完成

 宇高氏は地元企業と共に古紙再生・製造プロセス「HDK法」の開発に取り組みました。それまで、古紙を再利用するにはインクを除去し漂白することが必要で、漂白剤などの化学薬品と大量の洗浄水を用いていました。宇高氏らは研究を重ね、化学薬品処理ではなく物理的作用で古紙処理するのが合理的と結論。6年の歳月を費やして、無漂白かつパルプ繊維を傷つけない古紙処理技術を完成させました。HDK法を用いた第1号プラントは1984年にAIPAを導入。CODの排出を4分の1、用水を3分の1以下に削減したことに加え、大手メーカーのバージンパルプに匹敵する品質を備えた高価格の製品づくりが可能となり、紙工業界に大きなインパクトを与えました。

環境保護に役立つ技術特許で囲わない

 HDK法は特許を取得していません。宇高氏は「環境保護に役立つ技術を特許で囲う必要はない。どんどん広がれば良い」と言います。中小企業が発信したHDK法が製紙業界のスタンダードとして国内外に広がっています。

 愛媛同友会には服部豊正氏(服部製紙(株)会長、愛媛同友会代表理事)に誘われて入会しました。「服部さんと松山での理事会へ向かう途中、悩みをぶつけあい喧々諤々したことは、自分をつくる肥やしになりました」と振り返ります。

 「中小企業は、市場という大海を埋め尽くすことはできない。しかし、美しい島をつくることができる」という宇高氏、“環境に負荷をかけない経済活動”への思いが、胸の中でさらに熱く燃えています。

泉製紙(株) 概要
代表取締役:宇高昭造
設立:1949年
資本金:4500万円
社員数:88名
事業内容:家庭紙の製造・販売
所在地: 四国中央市川之江町1523

イトマン(株) 業務用トイレットペーパーに特化して活路ひらく

 古紙100%の業務用トイレットペーパー・ティッシュペーパーを生産しているイトマン(株)(伊藤俊一郎社長、愛媛同友会会員)では年間34万トンの古紙を使っています。この数字は紙の天然原料である木に換算すると約48万本分。貴重な森林資源の消費を抑え、地球温暖化を防止することに貢献する立場から、AIPAの再生パルプを用いて製品をつくっています。

市販用家庭紙事業から業務用家庭紙事業への転換

 伊藤氏は1996年に入社しました。大手流通企業での勤務経験を元に、あれこれと社内改革を試みてもうまくいきません。しかし周囲を見ると、生き生きと経営している中小企業があるのです。「その違いは何だろう、自分は間違っているのだろうか」と悶(もん)々(もん)としていました。服部豊正氏(前出)に誘われて愛媛同友会に入会。服部氏、宇高氏(前出)らと共に学び、同友会大学への毎年の社員の参加等々、社員教育を中心に自社での実践に取り組んできました。

 同社の製品は業務用に特化したトイレットペーパー・ティッシュペーパーです。以前は市販用家庭紙をつくっていましたが10年前に戦略を転換。大手5社が過半数のシェアを占める市販用家庭紙分野から脱却して、業務用に特化することに決めました。ナンバーワンになれる分野は何かと考え、主要顧客をホテル・列車・高速道路サービスエリア・大型ビル・学校・病院などに絞り込んだのです。

オフィス古紙をトイレットペーパーにリサイクル

 そして生産ラインを13から8にし、操業時間・人員配置を24時間体制に変え、販売ルートを業務用市場に特化することで増益企業に転換しました。家庭用と業務用とでは需要が異なります。施設管理側にとっては、すぐにトイレットペーパーがなくなり頻繁に交換が必要では困ります。そこでメンテナンスや取り替えの手間をなくしたいというニーズに応えて、家庭紙の2・5~3倍長くもつ製品にするなど需要の変化に対応しました。

また、多くの事業所ではオフィス古紙を排出する部門と、そのオフィスで使うトイレットペーパーを購入する部門は別個になっていることに着目し、「貴社のオフィス古紙をリサイクルしてトイレットペーパーとして使いませんか」と提案する、古紙買取と製品購入をつなぐ仕組みを考案しました。古紙回収は顧客が立地する地域の地元業者に委託し、販売は卸業者から行うネットワークも構築しました。こうして「業務用ならイトマン」というブランドが定着するにつれて新しい情報が入り、顧客の系列会社でも注文が入るようになりました。

新たな価値創造に活路を見出す

 販売先は近畿圏に重点があります。大阪の拠点で近畿圏の消費者の声を細かくつかみ、機敏な新製品づくりに心がけています。今後、業界では海外製品との熾烈(し れつ)なたたかいが避けられない中、「価値創造のために、社員教育と商品開発がいよいよ重要な課題」と伊藤氏は言います。第44回中小企業問題全国研究集会in広島(2014年2月13~14日)第11分科会では「低価格市場で挑む、新事業・新商品のすすめ!」と題して報告します。

イトマン(株) 概要
代表取締役:伊藤俊一郎
設立:1961年(創業:1877年)
資本金:2億4000万円
社員数:144名(役員5名含む)
事業内容:古紙パルプを主原料とする衛生用紙(家庭紙)の製造販売
所在地:四国中央市金生町下分681番地

森川(株) 集積地のメリット生かし「紙の総合商社」として展開

 江戸末期の宝暦10年(1760年)に和紙の手漉(てす)き業として創業した森川(株)(森川信彦副社長、愛媛同友会会員)は、250余年で培った紙に関わる知識・ネットワークと、製紙業・紙加工業の集積地に立地するメリットを生かし、全国に紙製品を販売しています。取り扱いアイテムは、洋紙・和紙・家庭紙・化成品など約1万種、“紙の総合商社”として存在感を発揮しています。

江戸末期・手漉き和紙業からの出発

 江戸末期に和紙の手漉き業を創業した後、和紙を加工した「油紙」を製造。蓑(みの)を軽くするため油紙でつくった合羽(かっぱ)で名を馳(は)せました。廻船業や銀行業をはじめ、伊予和紙の産業を根付かせたことで知られる住(すみ)治(じ)平(へい)氏の家にも、同社がつくった「油紙合羽」が伝わっています。大正年間に「水引」・「元結」の製造を開始。昭和に入り、他社製品の卸売を開始し、四国の和紙を全国に流通させる産地問屋の役割も果たしていました。戦前は中国・台湾・朝鮮半島にも拠点を構え、日本の紙を販売すると共に、現地に製紙工場を建設していました。

 戦後になって卸売を専業としました。北海道・東北・東京と支店等を開設していくと共に、商品を「和紙」、「紙製品」だけでなく「家庭紙」の分野にも広げました。トイレットペーパーやティッシュペーパーに加え、「洋紙」や「石油系フィルム」の分野にも拡大しました。

製紙業集積地のメリットを生かした展開

 同社が“紙の総合商社”として成長する上で、製紙業・紙加工業が集積する川之江・三島地域(現在の四国中央市)の立地が重要な点でした。同じ“紙の町”である静岡県富士市と比べて東京・大阪などの大消費地から遠い川之江・三島地域の製紙業者にとって、紙を加工し付加価値をつけることが重要な課題でした。

 そうしたなか森川(株)は、紙と紙関連分野全般の幅広くかつ深い知識と紙加工業のネットワークを生かして最終製品を提案できることを強みとして全国に展開する戦略をとってきました。全国各地の大手・中小メーカーのたくさんの商品群の中から顧客のニーズに最適なものを最適な形で企画提案、あるいは新製品を企画開発製造し、それを迅速に低価格で提供できる体制を整えてきました。全国に営業所を置き相談活動とデリバリー力も伸ばしてきました。

“紙の総合商社”としてさらなる成長はかる

 業界は近年、国内での需要減少の一方、中国メーカーによる低価格品の増産など激変の様相です。国内では家庭紙はドラッグストアの合併などで大きな価格下落圧力があります。同社としては、洋紙から家庭紙・複合製品まで紙関連分野であればほとんど全てのものを取り扱っていること、産地に立地した企画提案力と全国への営業力という長所を生かして、存在感を高めたい考えです。

 「紙のことならお客様からどんなことを求められても最適な答えを出し解決できる企業に成長したい」と森川氏は言います。そのために人材育成が重要な課題です。同友会で人材育成について勉強すると共に、市場の動向や経済の状況を知るために愛媛同友会景況調査(EDOR)にもチーフとして積極的に参加しました。森川氏は、社員とともに気持ちを1つにして進んでいく企業風土づくりに注力する決意です。

森川(株) 概要
代表取締役:森川教義
設立:1950年(創業:1760年)
資本金:4000万円
社員数:50名
事業内容:洋紙・和紙・家庭紙・化成品・紙製品等の販売
所在地:四国中央市三島宮川1丁目11-7

(完)

「中小企業家しんぶん」 2014年 2月 5日号より