第3回 金属熱処理加工業界

技術開発、内需への転換が課題 理化工業(株) 代表取締役 森嶋 勲(大阪)

 加熱と冷却により金属を硬くしたり軟らかくしたりする熱処理加工は、身の回りのさまざまな製品に生かされている技術です。この受託加工を専門に行っているのが私たち熱処理専業企業です。日本の基幹産業である自動車と建設機械が大きな需要業界で、MadeinJapanの高品質を支えている縁の下の力持ち的な存在だと自負しています。

進む現地生産

工場の様子

 しかし、現在の熱処理業界は多くの課題を抱えています。1つは「世界市場における現地生産化」です。円安により弱電製品などで一部国内回帰が言われていますが、基本的には現地生産、現地調達の動きに変わりはないのが実情ではないでしょうか。弊社は2013年12月からタイで現地熱処理企業との合弁事業をスタートしていますが、現地で聞こえてくるのは「今は日本で造っているが○年後にこちらで造るようになる」という数多くの案件です。海外に出て余計に危機感を感じます。

エネルギー価格高騰

 もう1つの課題は、「エネルギー価格高騰、国際競争力の低下」です。熱処理は加熱に電気やガスを大量に消費します。熱処理工業会の統計では、2010年6月から2013年12月にかけて電気単価は34%、都市ガス単価は43%上がっており、売上に占めるエネルギー費用の割合が16・6%から21・5%にまで上昇しています。利益が5%消えていることになります。弊社においても、当然、省エネや生産性向上などの手は打っているものの簡単に吸収できる範囲ではありません。海外生産コストとの競争の中、データを基に適正な価格転嫁を進めているところで、一昨年から2年間で約70%のお客様にご了承いただきました。しかし今後更に平均一4%の関西電力の値上げが予定されています。

 一方では、高強度化、高耐久性化、軽量化、環境対応などMadeinJapan製品に求められる熱処理技術の開発、設備投資、あるいは外需から内需分野への転換などが必要です。そのためには人材育成が根本的な課題です。大学では金属関係は絶滅危惧学科とも言われており、技能検定試験のあり方も問われています。やはり、チャレンジする風土、個々の可能性を伸ばす仕組みのある企業づくりを進めることが何より大切だと実感しています。

 日本のモノづくりはこれまでにない速さで変化をしています。全社一丸となって、広く情報を集め、広い視野で、走りながら考える行動力が求められていると感じています。

「中小企業家しんぶん」 2015年 3月 5日号より