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「未来に描きたい姿から、現在を考える」~地域でエネルギーシフトに取り組む意味(1)

岩手同友会欧州視察(3) エネルギーシフトで豊かな社会づくりへ

 岩手同友会は昨年11月にドイツ・スイス・オーストリアへの「エネルギーシフト」に関する欧州視察を行いました。視察での学びについて連載で紹介します。

(前回の記事はこちら)

最も貧しい村が、最も注目される村に

 オーストリアの山あい、森林に囲まれた1000人ほどの人口の村ランゲンエッグ。役場と隣接したスーパーを中心に、銀行、郵便局、病院、歯科医院、小学校、幼稚園、障害者施設、介護施設など主要施設が集まり、街の中核を形成しています。地元産の木材でつくられたパッシブ基準のモダンな建物。その横には築300年という5階建ての集合店舗があります。檜皮葺(ひわだぶき)の壁が風雨に晒され、深みのある赤褐色が青空に映え趣深い雰囲気です。

 昼12時になると銀行も商店も閉まり、学校から帰宅した子どもたちと家族が一緒にゆっくりと昼食を過ごし、14時に街全体が再び動き出します。役場隣の村唯一のスーパーに入ると、所狭しと並ぶ食品の数に驚きます。冷蔵ケースには、住民それぞれの希望で、目移りするほどたくさんの種類のチーズやハム・ソーセージが並んでいます。

 州の中で最も貧しい村と言われたその村が、現在ではエネルギー自立のパイロット地域として、欧州一番の評価(2002年ヨーロピアンエナジーアワード/EU圏初めてのE5自治体)を受け、400名もの雇用が生まれています。この村がエネルギーの自立へ向けて村の未来像を描いたのは約20年前のことです。

まず数値を明らかにすること

地域通貨ランゲンエッグ・タレント

 当時村には小さな食料品店しかありませんでした。その店主も後継者がおらず「もう辞めたい」と口にします。行政としては出店候補を探しますが、採算が取れないと断られ続けました。そこで直面した状況と今後について、正直に村の新聞で住民に問いかけました。住民からは「店がないところでは生きていけない」と、切実な声があがりました。

 募集に応じたさまざまな立場の村民がそれぞれの仕事や学校が終わったあとにボランティアで集い、どんな品揃えをすべきか、経済性はどうか、率直な意見交換を行いました。そして店を継続的に発展させ続けるためには、村内で貨幣を循環させることが最も重要であることを結論づけました。住民自治による住民のための村づくり。兌換(だかん)できる地域通貨とエネルギーの自立はそうした議論から生まれました。

 村役場を起点にバイオマスによる熱供給を行うことも決定していましたが、当時は供給先である各家庭の建物の性能がまだ低いものでした。

 そこではじめに、エネルギーアドバイザーが家庭に赴き診断、村の全世帯のエネルギー使用量とその構成比を調べ、各家庭で毎月エネルギー家計簿を付け、メーターをチェックする習慣付けや、既存の建物の断熱改修の促進、太陽熱供給機設置キャンペーン、電気自動車のカーシェアリング予約システム構築などを進めました。こうして数値を明らかにし、さまざまな試みを行い、明確な目標をもとに住民参加のエネルギー自立を実現。取り組む上での基準を明確にしていきました。

増えないけれど減らない人口

 「この15年で、300ものエネルギー自立ヘ向けた取り組みを行ってきた」。そう話すのは、17年間エネルギー担当官を勤めるマリオ・ヌスバウマーさんです。村長が3回代わっても、これまで継続して同じ部署を担当してきました。

 マリオさんは話します。「私たち自治体の職員は、住民の方々がやりたい、と思うことを支え応援する役割です。たとえ村長が代わっても、現在進んでいる計画を丁寧に説明し、住民に寄り添うのが私たちの仕事です」。

 この村は、人口は減少していません。しかも、20歳から60歳までの全体に占める数が、57%と増加しています。山岳地帯、しかも冬場は雪に閉ざされた地域であるにも関わらず、増えています。その理由は木工職人や手工業者の移住です。エネルギーの自立と域内の貨幣循環への挑戦は、この村の持っているポテンシャルを一気に開花させました。いま高い技術、技能を持った職人がこの村に移住して来ています。まさにその地域の持っている豊かな可能性に気づいたということです。

最先端の情報技術と真の豊かさ

 自分たちに必要なものは何か、声に出せる村。1人の小さな声に耳を傾け品揃えしてくれるスーパー。少ない通勤距離。隅々にまで届く地域熱供給網と街の中心まで行くのに不自由のない交通網。どの地域よりも豊かな素材(木材)。職人として独立起業するにも十分な土地と人、そしてIoT技術をフルに生かしたネットワークが準備されています。岩手の山間や沿岸の人口減少地域、地元に根ざす中小企業にこそ、未来への可能性がある。オーストリアの山村の挑戦は、私たちに大きなヒントと勇気をもたらしてくれます。

 村を離れる際「皆さん、今日はどちらから?」スーパーで声をかけてきた店員さん。障害をお持ちの彼女の笑顔が忘れられません。山深い村の日常に、真の人間尊重の姿を見たような気がしました。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

(続きはこちら)

「中小企業家しんぶん」 2016年 4月 5日号より

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