自分たちの住む地域は自分たちでつくる~地域でエネルギーシフトに取り組む意味(2)

岩手同友会欧州視察(4) エネルギーシフトで豊かな社会づくりへ

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「研究と教育」が生み出す地域ビジョン

エネルギー研究所でレクチャーを受ける視察団

 エネルギーシフトを進める上で大切な視点に、(1)省エネルギー、(2)エネルギーの高効率化、(3)再生エネルギーによる創エネの3つがありましたが、もう1つ大切なポイントがあります。エネルギー自立のための調査・研究、そして学習と教育です。

 私たちが訪れたオーストリアの西部、38万人が住むフォーアールベルク州では、2050年までに域内の再生可能エネルギーでエネルギー自立をすることをめざしています。エネルギーシフトが持続可能な地球、そして地域経済に莫大な効果をもたらすと判断した州政府が、2000ワット社会の実現をビジョンに掲げました。

 「2000ワット社会構想」は、1人あたりの年間電力消費量2000ワットをめざそうという試みです。現在最も消費量の多い米国では1人あたり1万2000ワット、日本では、5300ワット程度と言われていますので、半分以下の消費量です。この州でも実現のためには現在の50%の省エネと50%の再生エネルギーによる創エネが必要であるとしています。

「エネルギー研究所」が踏み出す一歩をつくる

 フォーアールベルク州のエネルギーシフトの根幹を担っているのがエネルギー研究所です。ここには州内で使用されるすべての建材データが蓄積されています。こうした企業や専門家向けのもの、そして一般家庭向けでは、全家庭のエネルギーの見える化とエネルギー家計簿を付ける習慣づけのお手伝い、さらに自治体のエネルギー自立の取り組みを評価し、改善へ向けたアドバイスをするプログラムまで用意されています。

 エネルギー消費の種類と総量の調査に始まり、データをもとに街のありたい姿やビジョンを掲げ、その実現のための研究、知恵の結集、人材育成を行います。そして何よりも、一人ひとりが自ら取り組む最初の一歩を踏み出しやすくする、「お試しください」「試してごらん」をサポートし、市民みんなが参加する土壌をつくる。ここに大きなヒントがあります。岩手でも同友会だけではなく、大学や学生とも連携し産学官連携での研究会創設へ向けて、動きが始まっています。

自ら地域にうねりを起こす

 5月23~24日に、岩手県葛巻町、陸前高田市でドイツ在住のジャーナリスト村上敦氏を招いてのエネルギーシフト講演会を開催します。これは、昨年11月の欧州視察の際に、ドイツの視察先で決まったものです。葛巻町では同友会と町の商工会青年部O Bが中心になり、町長をはじめ町と共同で進めています。陸前高田市では、同友会と青年会議所との初めての共催で市民350名規模で開催されます。いずれも実質的なリーダーは、30代の若手後継者。「地域を自分たちの手で何とかしたい」と自費で今回の岩手同友会の欧州視察に参加したメンバーです。

 今回の視察に参加した若き葛巻、陸前高田の後継者は自ら手を上げ、一人ひとりに声をかけ、地域の方々に灯をともし、地域でのうねりを起こしました。地域でエネルギーシフトに取り組む真の意義は、ここにあるのだと思います。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

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「中小企業家しんぶん」 2016年 5月 5日号より