1人の市民の意志が社会を変える力になる~地域でエネルギーシフトに取り組む意味(3)

岩手同友会欧州視察(5) エネルギーシフトで豊かな社会づくりへ

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あらためて気づく地域の魅力

思えば東日本大震災発生から2年半が経過しようとした秋のこと、復興の進まない現状から閉塞感に苛まれ、「なんとか打破する糸口をつかみたい」と必死の思いで参加した中同協の欧州視察でした。訪れたフライブルクで聞いた衝撃、「世界でいちばん寒い家に住んでいるのは、北東北の人たちです」。その言葉が私たちのエネルギーシフト研究会立ち上げの原動力になりました。

それから2年、岩手同友会のエネルギーシフト研究会では、震災復興を実現し地域の人口減少、少子高齢を打開するには、「中小企業がエネルギーシフトで新たな仕事を無数につくることが鍵」、と考え学習研究活動を積み重ねてきました。

欧州視察は、先進事例を学ぶことと同時に、日本や私たちが住む地域の魅力に気がつくことです。地域に目を転じ、地域の実状を丁寧にひもとくうちに、岩手にはたくさんの資源があること、そしてコツコツと20年も前から地域でのエネルギー循環や性能のよい省エネ住宅づくりに取り組んできた人たちの姿と出合いました。こうした方々の実践に学び、森林をはじめ地熱など地域の資源の豊かさを知り、岩手での環境、エネルギーへの取り組みに学ぶことで、中小企業を軸に行政機関や大学をはじめとする研究機関、そして学生や市民の方々とつながっていきました。次へのステップは私たちが企業での実践、そして企業同士が連携し地域全体の運動に広げていくことだと考えています。

あなたの意志はどこに

フライブルクにて村上敦氏と懇談

この3回のスイス、ドイツ、オーストリアの欧州視察で「フクシマが起きて以来…」という言葉を何度きいたでしょうか。「あなたはどう思う?」きかれて言葉が出ない私たちの姿がありました。世界から見たときに私たちは、「その国」に住んでいるということを忘れがちです。福島の故郷を離れざるを得なかった方々。いまだに帰るあてのない12万人の方のことを考えると心が痛みます。

2022年までの脱原発を宣言したドイツ。2035年ごろのすべての原発の廃炉を決定したスイス。スイスのリープシュタットの原発は、国道から数百メートルの場所から蒸気をモクモクと出しながら稼働し続けていました。思わず声が出るくらいの近さ。巨大な装置の迫力です。こうした矛盾を抱えながらも50年、100年先の未来を掲げ、着実に、確実に自分たちができることを積み上げて行く。自分が生きている時間では、その姿を見ることはできないけれど、地球の未来を担う次の世代へ向けてバトンを託すはできます。

「がんぱっぺし」に込められた「将来への配慮」

そして今、地震が起きて間もない時期に熊本の地に立ち、1日に何度も繰り返す余震の中で思い起こす言葉があります。「がんばっぺし」。陸前高田であれだけの災禍の中、震災の翌日から使われていた言葉です。どんな環境においても自らの意志で希望を掲げ続ける。欧州の行く先々で何度も耳にした「将来への配慮」が同じ言葉に聞こえます。

1人の市民の力が国の形、地球の未来をも変えていく。私たちは欧州で、その姿をしっかりとこの目で見てきました。誰もが感じている矛盾をそのままにしない。一人ひとりができることを、薄紙を重ねるように、1枚1枚実現していく。

エネルギーシフトで豊かな社会づくりへ。ビジョンを掲げ、ゆっくりと肩肘張らず穏やかに未来を語り合いながら、決してあきらめず貫く意志。その先に、私たちの描く未来があるのだと思います。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2016年 5月 15日号より