中小企業には希望の灯が輝いている

『南三陸町中小企業実態調査等委託業務報告書』を読んで

 東日本大震災(2011年)は、宮城県南三陸町にも未曾有の人的・物的な被害をもたらしました。南三陸町では臨海部に事業所や住宅が集中していたため、宮城県内の他の被災地と比べても、震災による商工業者の全壊比率は高く、約8割が全壊の被害を受け、町は壊滅状態にありました。

 経済センサスでは、2009年に886の事業所が存在していましたが、2012年には251に急減しました。南三陸町のように、広範な地域が大きな被害を受け、全壊や移転を強いられた事業所が多い場合、この減少数をそのままに受け取ることはできないものの、深刻に受け止めなければなりません。

 しかも、震災前から進んでいた人口減少は、震災によって加速化し、人口減少率はマイナス29%。多くの町民や企業が危機感を抱いているのです。

 しかし、地元には希望があります。例えば、同友会南三陸支部があり、震災以前の31社は5年経っても31社で、しっかりと存在感を示しています。

 地元では中小企業振興基本条例を創ろうという機運が生まれ、町内の中小企業の状況やニーズを知るために「南三陸町企業・事業所実態調査」を実施しました。この調査は南三陸町から委託された宮城同友会が引き受けました。

 調査は、菊地進・立教大学名誉教授と植田浩史・慶応義塾大学教授が担当し、『南三陸町中小企業実態調査等委託業務報告書』にまとめられました。調査には、同友会南三陸支部のメンバーも手伝いました。

 『報告書』は、町内総生産における比重が震災前には8%だった建設業が2013年度には40%に拡大し、建設業に過度に依拠した産業構造になっています。「復興需要」による土木・建設事業は、すでにピークを過ぎ、「『復興需要』縮小に対して、関連する企業はもちろん、町としてもどのような対応を行っていくべきなのか、真摯に考えていかなければならない」と問題提起しています。

『報告書』は、7つの地域産業振興の課題にまとめました。(1)中小企業を軸とした地域振興を/(2)地域経済の悪循環構造からの脱却/(3)中小企業の経営力の強化/(4)南三陸の地域資源を生かしたブランドづくり/(5)町内に「創造」の嵐を/(6)南三陸町の総力を挙げた中小企業支援/(7)中小企業振興基本条例の活用、です。

 特に(4)は、南三陸町が、海、田畑、森林など、豊かな地域資源が存在し、それぞれが高いレベルにあります。その中で、日本で初めて、山(森林)と海(カキ養殖)で国際認証を取得しました。これで、南三陸町のブランドを高める土台はできました。今後は、価値とブランドをどのように広げるか。可能性をいかに現実にするかです。

 なお、中同協第48回定時総会(大阪、7月14~15日)第7分科会では、「南三陸町中小企業実態調査と企業づくり・地域復興」と題して、菊地進氏と吉田信吾氏((株)カネキ吉田商店社長)がレポートします。被災地以外でも充分参考になる内容です。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 6月 25日号より