なぜ、ベンチマークをつくったか

金ピカの金融機関になるよりも本業支援できる地域金融機関をめざせ

 1年前の本欄(2015年10月15日号)で金融庁は「個別金融機関の水準を客観的に評価するベンチマーク(指標)をつくる」としていましたが、ようやく9月15日に公表しました。金融庁は「金融仲介機能のベンチマーク」の計数報告を都市銀行を除く地域銀行および信金・信組の480金融機関に求めます。

 内容は既報(本紙10月5日号)の通りですが、ベンチマークは全部で55項目。同庁は、(1)取引先企業の経営改善や成長力強化、(2)取引先企業の抜本的事業再生による生産性の向上、(3)担保・保証依存の融資姿勢からの転換―を金融仲介機能の中核と定義します。これらに関連する5項目を共通ベンチマークに指定し、そのほかの50項目は選択式で、報告を求めます(『ニッキン』9月23日号)。

 例えば、金融アセスメント法を提唱した時代にもあった「融資申し込みから実行までの平均日数」。某信金は、申し込みから5営業日で実行を売り物にしていました。逆に、生殺与奪の権を握りながら、1、2カ月もかかる金融機関も思い出され、金融庁への報告がどのようになるか、楽しみです。

 このような流れをつくってきたのが、森信親・金融庁長官。そのキーワードが事業性評価です。「金融モニタリング基本方針」の重点施策に、「事業性評価に基づく融資等」として掲げられました。

 事業性評価とは、「金融機関は、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援していくことが求められる」としています。

 確かに、これまでも取引先企業への支援は行われてきました。例えば、ビジネスマッチングや専門家派遣などです。ただし、今後求められる事業性評価に基づいた本業支援とは、現在の事業がもたらす企業の将来像を見通し、さらに本業支援によって向上させていく取り組みです。果たして、金融機関はこのようなサポートが可能なのでしょうか。

 中小企業の課題は、内部環境の整備中心から外部環境、構造的問題へ移ったように思います。金融機関による資金供給(不良債権問題)やリーマン・ショックによる需要急減などから、人口減少によるマーケット自体の縮小や人手不足、高齢化といった構造的なものに移っています。そのような課題への対応としては、財務面ではなく生産性向上などの事業面での継続的な取り組みが重要となりますが、経営資源が不足しがちな中小企業にあっては自社のみで対応することが難しい場合も多いのです。その際には、地域の産業、企業の実情を把握している金融機関による本業支援が重要となってくるのです。実は、中小企業の本業をしっかり支える金融機関も出現しています。

 中小企業は、事業性評価がより必要な経営環境に置かれているといえます。金融機関が地域の中小企業を支援し、ともに価値を創造していくことの必要性が高まっています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 10月 15日号より