人間尊重経営が支える高付加価値企業へ

【業界ウォッチ特別版】嘉悦大学黒瀬直宏教授が迫る

大島右京氏・フジコン(株)代表取締役

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が全国の製造業を取材し紹介する「業界ウォッチ」特別版。第2回はフジコン(株)(大島右京代表取締役、東京同友会会員)を紹介します。

フジコン(株)代表取締役 大島 右京氏(東京)

活発な製品開発

 同社は、電線と電線、電線と機器をつなぐ端子盤を製作しています。

 端子盤は電気・電子技術が応用されるすべての分野で使われ、新たな電気・電子機器の出現や機器の小型化、高機能化とともに新たな端子盤が必要となります。例えば、太陽光発電関係では光を電力に変える装置、直流を交流に変える装置、蓄電装置などそれぞれに新たな端子盤が要ります。スマートフォンの電波中継基地では機器の世代が変わると端子盤にも新たな需要が発生します。

 このように端子盤は需要の変化が頻繁ですから、その変化を敏感にとらえた製品の開発が市場を拡大し、収益性も高めます。

 同社は、創業者(現会長)の大島要2氏が発明協会から発明奨励賞を受賞(1978年)するなど、活発な製品開発で市場を開拓、結果、現在当社の「会社案内」に載っている販売先は各種業界158社にも及んでいます。

大手企業の価格圧力に対抗

 しかし、すべて順調だったわけではありません。2000年以降大手企業からのカスタム品の受注が増え、いつの間にか自社で企画する独自製品の開発が衰えていました。カスタム品は大手企業の価格圧力が強く、収益性はよくありません。言い値で受けて大赤字ということもあります。

 そこで、収益性回復のため、赤字のカスタム品の解消をめざしました。価格引き上げを受け入れない顧客は金型を引き上げたので、売り上げを失いましたが、赤字製品はなくなりました。受注を断る勇気が必要なことを学んだと言います。

 さらに、現在は赤字品目をなくすだけでなく、社内で高収益体制実現会議を行い、単価引き上げによる高収益をめざしています。大手企業向け製品の中で、競合他社が扱っていない高収益の製品を開発し、提案すると高単価で販売が可能でした。これまで低収益であった製品需要を分析し、高収益を提案できるような取り組みを始めています。

 同社は「自分の仕事は自分で創り出し、正当な価格を貫く」という独立中小企業の道を再び歩み始めました。

社員を大切にする

 その原動力になっているのは、社長の大島右京氏が、同社が50年続いている理由として挙げた「社員を大切にする」です。

 社員には定年まで勤めてもらう。今まで幾多の経済変動に遭遇しましたが、正社員もパートもリストラしたことはありません。当社では33年前から年2回(4・10月の第3月曜日)は一斉休業し、スポーツや家族旅行に充てることにしています。完全週休2日制を実施し、年間にして129日の休日となっています。

 東京同友会の「経営指針を創る会」を受講し、2014年に作成した「2020年ビジョン」実現のための3カ年計画が高収益体質確立の取り組みの柱になっています。

 課長級以上が参加して作成し、毎年4カ月かけて見直し、4月には全社員参加のもとで内容を確認、PDCAサイクルで毎月成果を確認しています。部署の責任者は自分の計画となっているので進んで部門ごとの実施計画や社員1人ずつの目標を決めています。個人の能力育成にも力を払い、例えば「設計標準書」が身についているか年2回テストをしています。

 このような安心して働ける労働環境、多くの人が経営にかかわる運営、個人の能力育成といった人間尊重経営が当社の独立中小企業への道を支えています。

「中小企業家しんぶん」 2016年 11月 15日号より