「有権者の反乱」をどう考えるか

2017年の年頭社説を読んで

 2017年の年頭社説は、ほとんどの新聞が、ポピュリズム(大衆迎合主義)批判の論説に終始しました。「『反グローバリズム』の波が世界でうねりを増し、排他的な主張で大衆を扇動するポピュリズムが広がっている」(読売新聞)という共通の現状認識がありますが、その背景にはトランプ大統領というほとんど誰も予測できなかった事態に各紙が右往左往していることがあるのではないかと思います。

 たとえば、読売新聞や日本経済新聞は、自由貿易や自由主義の旗を守れと述べます。そして、「安倍晋三首相はトランプ氏に環太平洋経済協定(TPP)への参加を粘り強く説くべき」(日本経済新聞)としますが、本気でトランプ氏を説得できると考えているのでしょうか。「自由主義の旗を守れ」と言葉の勢いはありますが、そもそも、自由主義とはどういう意味でしょうか。経済学的に「市場経済至上主義」という意味であれば反発は強いものがあります。はたして、自由主義の旗を守れる人はいるのでしょうか。

 毎日新聞はフランスの経済学者ジャック・アタリ氏の『21世紀の歴史』を紹介し、「地球規模で広がる資本主義の力は、国境で区切られた国家主権を上回るようになり、やがては米国ですら世界の管理から手を引く。その先に出現するのは市場中心で民主主義が不在の『超帝国』だ」と資本と民主主義の衝突を予測します。「トランプ氏の勝利と、それに先立つ英国の欧州連合(EU)離脱決定は、ヒトやカネの自由な行き来に対する大衆の逆襲だ」(毎日新聞)と見立てます。

 「しかし、不平や不満が強いと、それをあおって独り善がりな政策を推し進めようとするポピュリズムが台頭する。厄介なのは、ポピュリズムが排外的なナショナリズムと容易に重なり合うことだ」「不戦の誓いから出発した国際協調の流れを掘り崩しかねない」(北海道新聞)と危機感を募らせます。

 「欧米の民主主義は今、狭く険しい道を歩もうとしている。ポピュリズムの荒波にも耐え得るのか、それとも変質していくのか。2017年は全世界がそれを直視せざるを得ない年になるはずだ」(中国新聞)と年の初めに見据えます。

 社説・論説はさまざまなレベルのものがありますが、どう受け止めればいいのか。どこに目線を置いて考えればよいのか。いろいろ慮(おもんぱか)っていたら、東京新聞の一文に出合いました。

 「ニュースをどう考えるかという論説はお茶なら2番せんじ。しかしニュースには事実の部分と思考の部分があるのではないでしょうか。論説とは事実と並走する思考のニュースと思いますが、どうでしょう」「市民目線といっていいでしょう。何かの主義というよりもっと根源的な人間を大切にする主張といっていいでしょう」(東京新聞、2017年1月3日付)。

 社説を会得する極意を得たような正月でした。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2017年 1月 15日号より