M&Aによる多角化

黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る

服部一彌氏・(株)ハツメック代表取締役

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が全国の製造業を取材し紹介する「業界ウォッチ」特別版。第4回は(株)ハツメック(服部一彌代表取締役、三重同友会会員)を紹介します。

(株)ハツメック 代表取締役 服部 一彌氏(三重)

 ハツメックグループは、(株)ハツメック(各種メッキ加工を総合的に実施)、(株)HME(電解研磨、計測・分析機器開発製造)、SSC(株)(赤外線センサーによる非接触温度計)の3社からなっています。

 グループの中心(株)ハツメックの創業は1954年、鋳物製のガス器具部品にニッケルメッキをしていました。現社長の服部一彌氏が専務取締役として入社したのが1981年22歳の時、1993年に社長に就任します。

メッキ加工の独立事業化

 メッキは製品製造に付随する表面処理加工の1つで、発注者である製品製造業者に対し下請的な立場に立つのが一般的です。ハツメックグループの独自性は、このようなメッキ業界の中にあっても独立企業化の道を一貫して追及してきたことです。

 最初の転機は服部氏の入社後間もなく始まります。ガス器具が鋳物からメッキの不必要なステンレスに転換したため、市場を失い銀行が取引を中止してくる事態に陥りました。1985年自動車部品に狙いをつけ、亜鉛メッキの仕事を得ましたが、服部氏によるとコストダウン要求が厳しく、顧客の奴隷でした。ここから独立企業化への動きが始まります。自動車部品依存から脱却すべく、メッキ技術の総合化と顧客多様化を追求し続けます。

 (株)ハツメックホームページによると、現在、営業品目は各種メッキ10種類以上、メッキ加工に関する「ワンストップ・ショッピング」機能を実現しました。取引先は200社以上に拡大し、「表面処理の総合メーカー」へと発展しています。顧客は加工物を自分で持ってきて自分で持って帰ります。工程を見せるのを取引条件とするような顧客とは取引しない。イニシアティブは当社にあります。自動車部品業界との関係はどうなったか。トヨタ系の大手部品企業の「認定」はとっているが、あえて取引はせず、情報収集に生かしていると言います。

 他企業にないメッキ加工の「ワンストップ・ショッピング」という機能をいわば「自社製品化」することにより、受身型のメッキ事業を独立事業化したといえます。

多角化へ

 服部社長はメッキ技術にとらわれず、中小企業には珍しい多角化も追及します。1988年、半導体製造装置配管内部の電解研磨が求められているとの情報を得、メッキ技術に近いこともあって、同分野に進出しました。

 また、研究開発集約的でより付加価値の高い、振動音響検査装置、硬さ検査装置、水質検査装置、抵抗率検査装置など計測・分析機器の開発設計から製造までを行う事業を開拓、独立企業体質を強化しました。これらが別会社として1991年に設立された(株)HMEの事業になっています。

 SSC(株)の設立(2000年)も独自の製品を持つという方向に沿うものです。大企業の捨てた赤外線センサー事業をビジネス化することをめざし、その大企業で開発に携っていた技術者4人に声をかけ、赤外線センサーやその応用商品の開発・設計を行う事業を立ち上げました。95%はネット販売で、カスタマイズをキーワードに専用開発、製品化を行っています。

M&A

 以上の多角化に必要な技術はどのように獲得したのでしょうか。重要な手段になったのがM&Aです。

 (株)HMEの分析機器開発のために3件のM&Aを実施しました。服部社長は金で技術と時間が買えると言います。中小企業といえばM&Aをされる側と思いがちですが、M&Aに向かう企業もあるのです。

 独立企業化のためには、既成観念にとらわれない能動性が必要と学びました。

「中小企業家しんぶん」 2017年 1月 15日号より