平和で安全な時ほど危機管理を

福島同友会「全会員アンケート」調査結果に寄せて

 福島同友会が発行した『逆境を乗り越える福島の中小企業家たちの軌跡』が感動的です。特に、「震災・原発事故から5年を検証する全会員アンケート」(本紙2017年3月5日号参照)の前号であまり触れられなかったことを述べたいと思います。

 1つには、従業員重視の姿勢です。「震災を経験した経営者として経営上のプラスになったと思う事は何か」という質問に対して、「従業員の大切さを一層認識するようになった」という回答が最も多いこと(14・2%)としています。ただし、「従業員の意識が高まった」(11・2%)や「従業員との結束が強まった」(9・8%)を含めると突出して1番になります(35・2%)。

 つまり、従業員の「意識」と「結束」が強まり、経営者として「従業員の大切さを一層認識するようになった」ということです。ちなみに、「地元の顧客・取引先との関係強化を図っている」(13・1%)が第2位でしたが、「顧客第1主義」よりは、従業員重視の傾向が強くなっていると感じられました。

 なお、相双地区(直接の津波・原発事故の被害地区)は、「従業員の大切さを一層認識するようになった」が52%となり、従業員との関係性はより強く表れました。

 会員企業にインタビューした経験からすると、震災・原発事故の中で最初は迷いもあったが、社員たちの「一緒にやりましょう、社長!」の声に励まされたという意見が数多くありました。やはり、経営理念に徹底して立ち向かう会員企業が増え、同友会らしい経営理念に深化しています。

 2つには、従業員の確保では、「不足」と「やや不足」が6割(57・8%)に達しました。しかし、従業員不足の中にありながらも、87・6%の企業が「事業規模を維持・拡大」しています。では、どうやって「維持・拡大」しているかというと、「従業員の能力を高め」ながらやっています。ここでも、同友会企業の特徴がでています。

 3つには、「まとめ」にあった、災害を受けたことによって「今までの自分の経営で評価できることがあった」と、「今までの経営を見直さなければならないことに気付いた」という2つの側面を経営者の多くが認識しているのではないか、という説明です。

 例えば、「震災を機に…前向きさを取り戻し、異分野にも挑戦する自分を見つけた。目先の損益に振り回されず未来のために行動できるようになった」という記述に前向きな明るさを感じ取ることができました。大震災・原発事故の教訓を血肉化できる力を持ったようです。

 全会員アンケートから印象深い案件を最後に発見しました。「経営者は平和で安全な時ほど危機管理を意識的に考えなければならないと思う。瞬時に普段の何気ない暮らしが崩壊することも予測して地域社会との共生も考えて行動する必要がある」

 核心を突いた言説です。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2017年 3月 15日号より