【中同協東日本大震災復興視察ツアー報告概要】あれから6年 地域づくりと企業づくりはどこまで進んだか

 3・11の東日本大震災から6年を迎えた3月16~17日、中同協は東日本大震災復興視察ツアーを開催しました(本紙4月5日号既報)。南三陸町の「全事業所調査の結果を踏まえた条例制定運動の現状について」をテーマにした3名の報告概要を紹介します。

産業再生を推進する条例へ

南三陸町産業振興課課長補佐 佐藤 宏明氏

 東日本大震災の南三陸町の被害は、死者・行方不明者832名、家屋は7割が喪失し、人口は1万7000人が、1万4000人を割る状況になっています。

 お蔭様で、災害後の住宅造成事業は本年度で目途がつく状況です。今後は産業再生の方へ舵を切っていくことになります。これを推進するのが、南三陸町中小企業振興基本条例です。

 2015年8月から16年3月にかけて地域経済調査事業を宮城同友会に委託しました。調査票の配布が477、回収が294、回収率61・6%という状況で、事業所の状況把握には充分な数でした。同友会南三陸支部には大変お世話になりました。16年4月には、南三陸町中小企業実態調査等委託業務報告会を開催しました。

 この条例を持つことによって、町全体の盛り上がり、中小企業の盛り上がりをバックアップできることに気づかされました。今、成文化検討委員会を設け、今年度中の上程を目指す予定です。

経営指針を針路として

(株)高野コンクリート代表取締役 宮城同友会南三陸支部副支部長 高野 剛氏

 (株)高野コンクリートを中心に6つの企業を経営しています。

 大震災に会った当座は「すべては終わった」と思いました。高台にあったタカノ鐵工以外はすべて津波に流され、なくなってしまいました。しかし、社員にも励まされ、会社を再開させる決断をしました。

 経営指針をつくったことが経営の針路を決めるうえで一番大きかったと思います。「私たちは故郷を愛する熱い想いを1つに結集させ新たな風となり地域に奉仕します」という経営理念を掲げました。「地域と共に」というフレーズにより、社会貢献をいろいろやりました。

 近い将来、宮城県沖で大規模地震が発生すると言われていましたので、防災のために自社でできることを考えました。月1回の防災担当者会議を開き、災害時に社員がどのように動くのかを論議していました。

 これが生きることになったのが、東日本大震災。震災当日、高野会館(結婚式などイベントホール)では、327名のお年寄りが集い、催し物が行われていました。高野会館は4階建てで津波でも持ちこたえると防災担当者会議で話し合われていましたので、会館の社員たちが懸命にお年寄りたちを引き止め、4階から屋上に誘導した結果、ひとりもケガ人が出ず、無事だったのです。

 また、業界のリーダーになって業界を変えていくことを指針書で謳(うた)っており、大震災の9カ月前に生コンの宮城県の理事長に就任しました。震災に際し、宮城県内の全部の生コン工場をまとめて、コンクリートの供給責任を果たせたのは、使命感のようなものが駆りたてたと思います。生コンが足りなくなり、各方面から自分の現場に最初にくれと言われましたが、しかし私は官も民間も同じですと答えました。復興プラントを地域が良くなるために使うことができたと思います。

 今後ですが、本業をいかに次の世代にもっていくか。まもなく、復興特需は終わります。この町から打って出て何とか生きていきたいと思います。

地域の連携と連帯こそ重要

(株)阿部伊組 代表取締役 宮城同友会南三陸支部顧問、初代支部長 阿部 隆氏

 当社は8割が土木、2割が建築といった建設会社です。ご多分に漏れず、社業の縮小に悩んでいました。そんなところを東日本大震災が襲いました。道路を開ける啓開工事から、復旧・復興に取りかかりました。

 復興特需は5年で終わると言われています。何にもせずにいたら、5年後、10年後は会社の存続さえも危ういでしょう。

 10年後、建設会社で残っているのは100社中5社ぐらい、存続率5%という壮絶な業界だと思います。20年後、30年後まで民間・官公需とも主だったものは作られてしまい、仕事がなくなってしまうからです。

 10年後に仕事がなくなった時点で人件費が経営を圧迫する状況を回避しなければならない。そのため、10年後は必ずしも建設業にこだわらなくても良いと考えています。現在は「介護用品レンタル事業」「再生エネルギー事業」などに取り組んでいますが、先行しているライバルとの競争などさまざまな課題を克服しなければなりません。

 重要なことは「連携と連帯」です。人口減少が進み、事業領域が縮小する中で地域とともに生き残るためには「自社だけが生き残ればよい」という感覚では南三陸は消滅します。

 大局的には、中小企業振興基本条例制定こそが真の復興に結びついていると思っています。

「中小企業家しんぶん」 2017年 5月 5日号より