「好転」と「悪化」の傾向が混在する~足元の景気は花冷え【同友会景況調査(DOR)概要(2017年1~3月期)】

〈調査要項〉
調査時点 2017年3月1~15日
調査対象 2,309 社 回答企業 918社(回答率39.8%)(建設161社、製造業288社、流通・商業271社、サービス業191社)
平均従業員数 (1)37.8人(役員含む・正規従業員)(2)31.7人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

「好転」と「悪化」が混在

 日銀の3月短観(全国企業短期経済観測調査)によると、業況判断指数(「良い」-「悪い」割合)は大企業製造業の10→12を筆頭に中堅企業、中小企業ともに改善、全規模全産業でも7→10と改善しました。

 DOR1~3月期の業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)でも1→3、売上高DI(「増加」-「減少」割合)4→5と上向く一方、業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)は5→0、経常利益DI(「増加」-「減少」割合)2→1と、業況水準DI以外は大きな変化幅ではありませんが好転と悪化が混在する結果となっています(図1)。

業種、地域、企業規模で異なる動き

 業種別の業況判断DIでは、建設業は△1→6、製造業が0→0、流通・商業が△3→△6、サービス業が14→19と、建設業とサービス業の改善が目立ちます(図2)。また、地域経済圏別では、近畿(△8→△10)で悪化幅を広げ、改善した関東(4→8)と九州・沖縄(13→15)との差が開きましたが、次期は関東、九州・沖縄が悪化、近畿は好転を見込んでいることから地域差は縮まる見込みです。企業規模別では、抜きんでて高水準を保っていた100人以上が失速した一方で、100人未満の各企業規模は改善、全規模で水面下を脱して企業規模の差も縮まりました。

景気は花冷えのように悪化傾向か

 世界経済の持ち直しで資源価格が再び上昇を始めたところに、トランプ大統領の就任で円安・ドル高の流れと4月の原材料価格改定、値上げも重なり、中小企業にとっては苦悩の時期。今期同様、次期においても景況の見通しは「好転」「悪化」が混在しますが、総じて悪化傾向の可能性をはらんでいます。

仕入価格の上昇圧力再び高まる

 仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は2016年7~9月期から7→13→23と2期連続で上昇しました。昨年(2016年)に底を打ったかのようにみえた仕入価格の上昇圧力が再び高まっています。売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)も1→4と上昇していますが、その動きは鈍く、仕入価格の販売価格への転嫁への取り組み強化が収益の維持・改善のポイントとなっていくでしょう。(図3)

設備投資も慎重姿勢

 引き続き設備投資は3割を超える企業で実施されています。実施目的では「能力増強」「合理化・省力化」「維持補修」の順に指摘割合が高く、なかでも今期は「合理化・省力化」の比率が高まりました。一方で次期に設備投資計画なしと回答した約6割の企業は、計画なしの理由として「当面は修理で切り抜ける」(41%)、「自業界の先行き不透明」(19%)となっています。設備の過不足感DI(「過剰」―「不足」割合)も2011年からゆるやかな設備不足傾向となっているものの、「様子見」の企業も少なくありません。(図4)

「人」に関する経営課題への取り組み進む

 1人当たり売上高DI(「増加」-「減少」割合)4→4及び1人当たり付加価値DI(「増加」-「減少」割合)2→0は、辛うじて水面上に留まりましたが、勢いはみられません。

 人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は△43→△42と強い不足感が継続しています。なお、△40を超える値はバブル期の1992年1~3月期以来のこと。人材不足の深刻さをものがたっています。経営上の問題点への指摘割合でも「従業員の不足」(36→38%)が上昇し、これまで高い割合を占めていた「民間需要の停滞」「同業者相互の価格競争の激化」を抜いてトップとなりました(図5)。

 経営上の力点でも「新規受注の確保」「付加価値の増大」「社員教育」と並んで「人材確保」も高い指摘割合となっています。

生産性向上、付加価値増大への対策を

 国内外の情勢が不透明な中で、中小企業経営においても民間需要の停滞と価格競争激化に加え、人材不足という重層的な課題に直面しています。労働生産性や付加価値を高める仕組みや体制の整備とともに、将来を見据えた採用と社員教育の計画を含めた経営戦略の構築と実践がますます重要となっています。

<「経営上の努力」記述回答より>

・就業規則の全面的見直しを実施した。経営指針の勉強会と就業規則の勉強会も併せて行う予定(鹿児島、サービス業)
・社内での組織、役割分担を明確にして社員が自ら積極的に働けるように仕組みをつくった。新入社員を迎えるにあたり、全員で社員教育を強化することを決定(青森、建設業)
・新しい免許の対応整備を行った。少子化の中、同業者間の価格競争が激しくなっている。自社としてはチャンスととらえ、内容や接客で勝負するよう全社一丸となり取り組んでいる(宮城、サービス業)
・製造が少なくなった分は外注での加工を自社で行った。秋冬の新商品の開発やブランディングを考える時間が持てた(埼玉、製造業)
・経営指針の新年度の発表会、社屋全体を明るい色に塗り替えを行った。新たに旋盤の導入を予定。新分野に挑戦する(岡山、製造業)
・設備投資は一段落したので次は人材投資に向かって定期採用に力点を移していきたい。(愛知、建設業)
・幹部社員の思いきった若返り。各部署の部長をすべて40代に。50歳以上はサポート役に徹してもらう(香川、農業)

「中小企業家しんぶん」 2017年 5月 5日号より