「ひらがな経営」で社員がキラリ~(株)吉村 代表取締役社長 橋本 久美子氏(東京)

全員が考え・行動できる会社へ 仕組みづくり10年の軌跡

茶業界のビジネスパートナーとして

 (株)吉村は日本茶の袋の製造メーカーで、私は先代の長女で三代目です。

 ペットボトルのお茶が売れはじめてコーヒーが飲まれるようになり、売上が激減した際に父から「明日の飯をつくるのはお前だ」と言われました。お茶屋さんのお客様がこれだけいる、大手が真似できないことをお客様の視点で喜んでやり、業務プロセスを磨き成長していけば生かせるはずだと考えました。

 当社は「茶業界のビジネスパートナー」と事業定義し、お茶の消費拡大のためのイベント企画や需要創造のために海外の人向けの多言語サイトの製作をするなど、価格ではない価値提供をしています。積極的に取り組める社風をつくるために、従業員満足度(ES)調査をしたり、現場のアイデアが上げやすくなる仕組みをつくっていきました。

風評被害で業績ダウン

 ところが、2011年の東日本大震災直後の静岡茶からセシウム検出という報道をきっかけに、順調だった業績がガクンと落ちました。新工場建設のタイミングと重なっていたこともあり、役員の手当や賞与を下げ、社員の深夜勤務手当を下げたいと言ったところ責められ労使が対立しました。新しい機械を入れたことによる製品トラブルと問題山積みで、社員がこの会社はダメかもしれないと思っている、一番つらい時期でした。

 私は10年前に経営指針をつくりました。しかし風評被害を受けて売上のために一時期サプリメント業界になびきそうになったこともあり、何のために経営しているのかがブレてしまいました。

 そんな中、すがる思いで東京同友会の経営指針成文化セミナーに出て、経営理念や経営方針が腹に落ちる経験をさせてもらいました。「私たちの土俵は『茶業界』にとどめず、小さいところから大きなところまで需要フィットの一貫生産をして、日本の『いいもの』をうまく伝えられない人たちの『想いを包み、未来を創造するパートナー』になりましょう」と心から言えるようになりました。

想いを包み、未来を創造するパートナー

 当社は最近まで工場で2年間派遣社員として働いてもらい、相思相愛の人を正社員に登用してきました。入社が決まるタイミングで初めて履歴書を見ます。高校を出ていない人も多くいます。デジタル印刷を始めた時に力になったのは彼らたちでした。だからカタカナや難しい言葉は極力使わず、きちんと届くように伝えています。

 部署を横断した会議やプロジェクト、委員会が20以上あり、社員は必ずどこかに入ります。人と話すのが苦手だからオペレーターになったという社員をいかに巻き込むかが大事です。会議の際に社長の顔色を見ずに職位関係なく意見が出せるように工夫をし、風通しがよくなった上に時間に対しての感覚ができました。

 また、当社では「イチオシ表彰」といって半期に1度、自分以外の人に1票を入れてもらい評価の多かった人を表彰しています。営業成績が良いといった実績だけではなく、「目立たないが利他の心での行動」に光があたります。組織は普段はバラバラでもいい。経営理念によって、どこをめざしているかがわかっていれば何かがあったときにパッと同じ方向に進める。一人ひとりが自分の頭で考えて、自分の力で泳げる組織にしていきたいです。

(第23回東京経営研究集会第6分科会報告「月刊中小企業家」2017年2月号より編集)

 ※橋本氏は7月6~7日に行われる中同協第49回定時総会(愛知)第7分科会で共に育つをテーマに報告します。

会社概要

創業:1932年
資本金:9,100万円
社員数:206名
年商:52億2,500万円
事業内容:茶・海苔を主とする食品包装資材の企画・製造・販売
URL:https://www.yoshimura-pack.co.jp/
2016年「はばたく中小企業・小規模事業300社」受賞
2017年「新ダイバーシティ100選」受賞

「中小企業家しんぶん」 2017年 5月 5日号より