民法(債権法)改正について~個人保証の制限に注目!

 本年5月、民法(債権法)が120年ぶりに改正され、3年程度の周知期間を経て、施行される見通しです。改正の柱のひとつである個人保証について、弁護士の児玉隆晴氏(弁護士法人千代田オーク法律事務所、東京同友会)の解説、中同協金融プロジェクト委員長の中村高明氏((株)紀之国屋会長、福岡)のコメントを紹介します。

弁護士法人千代田オーク法律事務所 弁護士 児玉 隆晴(東京)

 本年5月に、120年ぶりに民法(債権法)が大幅に改正されました。債権法は、契約ルールを中心とする法律ですから、その改正は日常生活のみならず企業取引に大きな影響を与えます。

 ところが、これについての当初の改正案は、基本部分においていわば契約書至上主義につながるおそれのあるものであり、大手企業から一方的な内容の契約書を押しつけられている中小企業にとっては、不利なものでした。

 そこで、私は、東京同友会(法務省に意見書を提出)とともに、この当初案に反対しましたが、最終的には契約書至上主義につながる部分は撤回され、むしろ中小企業にとって好ましい方向となりました。

 その代表例は、保証人保護の強化を図った点です。特に、事業融資において「経営者」以外の個人を保証人にする場合は、保証契約の締結の前1カ月以内に、公正証書において、保証人が直接に保証意思を表示する手続きを取るべき旨が定められました。これは、保証人に、公証人の面前で保証意思を表示してもらうことにより、保証契約のリスクを確認して貰うためです。

 ただし、法人の取締役(代表取締役を含む)や、個人事業者の配偶者(「現に事業に従事する者」に限る)については、例外的に公正証書を作成しなくてよいとされ、課題が残りました。それでも、初めて「法律で、個人保証の成立を本格的に制限した」点で、大きな前進が見られます。課題が残った部分については、さらなる改正をする方向で、今後とも尽力したいと思います。

 また、事業のために負担する債務について個人保証する場合は、主たる債務者が、自らの財産や収支、ほかからの借り入れがある場合はその借入額や返済状況などについて、保証人に事前に説明しなければならないとされました。これも、保証人に、保証契約のリスクを正しく知ってもらうことを狙いとしています。

 そして、主たる債務者が、この説明を行わなかった場合、あるいは誤った説明を行った場合、これにより保証契約が締結されたことを「債権者が知り、または知ることができた」ときは、保証人は保証契約を取り消すことができます。このように、主たる債務者の資力などについての説明が適切にされていない場合に、保証契約を取り消すことができるとされたのは画期的です。

 さらに、約款のうち典型的なもの(定型約款と言います)について、規定が新設されました。すなわち、不当な定型約款条項があった場合は、その効力を否定できることになりましたので、このような条項を押しつけられるおそれのある中小企業が保護されるのです。

 なお、根保証の規制拡大や債権の消滅時効、法定利率、債権譲渡、売買と請負の担保責任、賃貸借などについても重要な改正がされていますが、紙面の関係上、ほかの機会に述べたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2017年 7月 15日号より