顧客の課題解決を市場に日本から海外へー日本フッソ工業(株) 代表取締役 豊岡 敬氏(大阪)

【黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る】

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が海外展開をする会員企業を取材し紹介する「海外戦略」。第4回は日本フッソ工業(株)(豊岡敬代表取締役、大阪同友会会員)を紹介します。

 日本フッソ工業(株)(堺市、従業員112人)の事業は付着防止、腐食防止、帯電・絶縁対策などのためフッソ樹脂を設備にコーティングすることです。身近なフッソ樹脂加工製品にフライパンがあります。実は創業者の先代社長がフッソ樹脂加工を始めたのも、ロスアンジェルスで商店のショーウインドウに「くっつかない」の宣伝文句とともに置かれていたフライパンを見つけたのがきっかけでした。先代社長は潤滑剤を扱う勤務先企業で顧客から製品が機械に付着して困るという話を聞き、付着しない素材を探している時でした。勤務先の新規事業としてフッソ樹脂コーティングの工場を大阪府堺市に開設、2年後の1966年に独立、法人化しました。事業開始当初から、調理器具へのコーティングはやらない方針でした。調理器具の仕事は大手メーカーの下請けとなり、主体的な市場開発ができないからです。その結果、エンドユーザーに直接営業する、設備へのコーティングが中心となっていきました。

 産業構造の変化とともに、市場は軽工業用設備(繊維機械など)→重工業用設備(石油化学プラントなど)→先端産業用設備(半導体製造装置など)へと変化しましたが、一貫しているのは「個々の顧客の課題解決」を市場としていることです。この市場では常にオンリーワンでいられ、価格競争を避けられるからです。ただし、「顧客の課題」は口を開けていれば飛び込んでくるものではありません。現社長の豊岡敬さんは次の例をあげてくれました。

 テレビの大画面液晶パネルがブームになった。この関連で新しいニーズが生まれているはずだ。でも分からない。そこで、ディスプレイ関係の展示会にとにかく出展、同社の技術を見た関係者との話の中からフラットパネル・ディスプレイの製造工程でガラスパネルが帯電するという問題のあることを把握(豊岡さんは「話の中に宝がある」と言っています)、帯電防止のためディスプレイ製造装置のステージの部分にフッソ樹脂をコーティングした試作品を開発し、大手電機メーカーに持ち込みました。採用までに3年(耐久性チェックのため)、大手企業の主力2工場で使われることになりました。この話は潜在化している「顧客の課題」を掘り起こすには提案活動が必要ということを示しています。

 日本フッソ工業(株)は市場を国内から東アジアへ拡大しています。商社を通じて中国、台湾などへ出荷しているほか、韓国(平澤市)に「Fusso Korea」(1999年)、タイ(ラヨーン県イースタンボード工業団地)に「Nippon FussoThailand」(2014年)を設立しました。同社の海外での戦略も「ソリューション」です。韓国にはアジア通貨危機(1997、98年)で倒産危機に陥った同国同業者を技術と資金で再建する形で進出しました。ところが韓国経済はV字回復したのに同社は回復しません。営業は役員が中心で、商社や機械メーカー、鉄工所等から仕事がくるのを待つだけのスタイルでした。同業者との厳しい価格競争に陥る一方、顧客との人間関係作りに多大な営業費(接待交際費)を強いられていました。赤字が続きついに債務超過へ転落、事業立て直しのため、日本と同じく、人を生かす経営に切り替えました。社員教育を行い、大手財閥のエンドユーザーへ直接、技術営業を行ったところ、適正価格での受注に成功、売上高営業利益率は40%へ大きく改善されました。タイ進出は、リーマンショック後の円高で石油化学企業のアセアン進出を見て決断しました。物流インフラの整っているタイの工場はアセアン市場全体の拠点として位置づけています。タイ工場もソリューション事業をしていますが、そもそもアセアンには石油化学プラントなど大型設備を加工できる同業者はなく、文字通りオンリーワン企業となっています。

 顧客を異なるニーズを持つ「個客」の集合として捉え、「個客」の問題解決を市場とするビジネスモデルは、国内外を問わず通用する、中小企業にふさわしい市場開拓戦略です。

日本フッソ工業(株) 会社概要

設立:1966年
資本金:3,500万円
従業員数:112名
事業内容:フッ素樹脂焼付コーティング、ライニング業務、コーティング、ライニング機材のエンジニアリング業務
URL:http://www.nipponfusso.com/

「中小企業家しんぶん」 2017年 12月 5日号より