福島に夢!元気!感動を! 福島コミュニティ放送(株) 常務取締役 齋藤 宏幸氏(福島)

【絆―復興をめざして】第26回

 震災発生から5年目の節目に、福島同友会から発行された『逆境を乗り越える福島の中小企業家たち』(2017年2月24日発行・執筆は2016年秋)より、会員企業の復興の軌跡をシリーズとして数回にわたり掲載します。第7回目は齋藤氏の報告です。

1996年に放送開始

 わが社は、バブル経済が崩壊し福島市の中心商店街も空き店舗が目立ち始めるなど、地方経済が厳しい状況の中、1996年8月31日、福島市や伊達市を放送エリアとする地域限定のラジオ局、福島コミュニティ放送(愛称エフエムポコ)として放送を開始しました。

 まさに私たちの使命は、ラジオ番組を通じて福島市をはじめ県北地域の「交通安全」、「社会福祉」、そして「地域経済の活性化」に寄与することでした。アナウンサーでなくても番組作りやスタジオでお話ができる身近な放送局を目指し、多くの方々にラジオ出演をしていただきました。開局15周年にあたる2011年の2月には中心商店街の活性化の核となるべくオープンした商業複合施設パセナカミッセ(旧仲見世)にスタジオを移設させるなど、中心商店街とともに福島市を元気にしようと準備を進めていました。

 そんな矢先のこと、「グラグラグラッ~!この揺れは普通じゃない!」大きな地響きとともに今まで経験したことのない大きな揺れでスタッフ全員がその場に立ちすくみました。2011年3月11日14時46分に発生した巨大地震は大きな揺れとともに津波を発生させ東北地方沿岸にある町を襲うなど、多数の死傷者を出す甚大な被害を与えました。

災害対策本部に取材班

 その時弊社では、福島市役所に設置された災害対策本部に取材班を派遣して現場とスタジオを電話でつなぎ、安否確認、電気、水道などのライフラインや道路、建物の被害、避難所開設の話など刻一刻と変化する状況を伝えました。また、スタジオは朝方まで停電していたため懐中電灯を頼りに暗がりの中で原稿を読み上げるなど、とにかく情報というライフラインを切らさないという使命感を持って放送を続けていました。地震で自宅の物が散乱しているにもかかわらず、真っ先にスタジオに駆けつけてくれた社員やパーソナリティには感謝しています。( 放送を継続していく上で大切な食糧やガソリンを十分に確保できなかったことが後の反省として残りました。)

福島第1原子力発電所事故の情報発信

 余震が続く中、福島市のライフラインや避難所の情報を中心に放送を続けていた私たちに驚くべき情報が舞い込んできます。あの福島第1原子力発電所事故です。当初、テレビでは原子力発電所の建屋が吹き飛ぶ衝撃的な映像や、放射能が同心円状に拡散している情報などが繰り返し放送されていました。

 弊社にとって原発事故や放射能問題に関しては、専門的であり新たな混乱や風評被害を起こさないためにも、日々発表される放射能測定値や行政の取り組みを中心に放送し、放射能問題を取り上げる際は非常に慎重であったことを覚えています。とは言え、放射能問題はあまりにも大きく、売上の柱であった農業、観光業、飲食業を中心に広告料の減額や打ち切りなど、震災の年から数年は厳しい経営を強いられました。放射能はもとよりその風評被害によって福島が苦しめられている実情を目の当たりにし、「ラジオ局にできることは?」「福島を元気にするには?」という問いが湧き上がってきます。

ラジオ局にできること

 しかし、意外にもその答えはすぐ見つかりました。避難者を支えるボランティア、農作物の安全をアピールする活動、通常営業に向けて頑張る人、すでに前に向かって進む人たちが数多くいたことでした。私たちは震災以降、復興に向かって頑張っている人たちにマイクを向け放送するとともに、私たちも福島の復興を目指して「具体的に動くこと」でした。

 私たちはまずはランドセルを贈るプロジェクトを開始します。津波などでランドセルや文房具を無くした子どもたちのために募集し、短期間で約600個ものランドセル(善意)が集まりました。中には洋服や鉛筆、子どもたちによる励ましの手紙まで入っていました。(自分たちも大変な状況なのに、思い出が詰まった自分のランドセルを届けてくれた福島の子どもたちに感謝です。)

 震災からちょうど3カ月後の6月11日には、少しでも福島の人たちに笑顔を取り戻して欲しいという思いから、「Wどりぶる」という地元のアマチュアお笑いコンビにお願いしチャリティお笑いライブ(相馬市の災害遺児へ寄付)を行ったり、被災者や高齢者に向けてカラオケ大会を行ったりしました。

福島市と災害協定

 2014年3月には福島市と災害協定を結び、緊急放送に即時対応するためのシステムを導入、2016年3月には飯舘村の復興を後押しするためラジオ中継局を整備し、飯野町に避難している村民に向けて情報を発信しています。

 震災から5年の今年、弊社は開局20年を迎えました。福島は未だ避難を余儀なくされている方々や風評被害など多くの問題を抱えています。今後も地震や集中豪雨、土砂災害、火山など自然災害が発生するかも知れません。

 これからも防災・減災に向けた取り組みとともに、福島に夢! 元気! 感動を与えられる放送を目指して具体的に行動をしていきたいと考えています。

福島コミュニティ放送(株)会社概要

創業:1996年6月19日
従業員数:5名
事業内容:ラジオ放送、イベント企画、情報誌、司会、話し方講座
所在地:福島市置賜町8番8号

「中小企業家しんぶん」 2018年 3月 5日号より