「必ず地域を復興させます」 (株)サンエイ海苔 代表取締役 立谷 一郎氏(福島同友会・相双地区)

あれから7年 地域のいま~東日本大震災のその後 福島の取り組み

 (株)サンエイ海苔本社のある相馬市は、福島県太平洋沿岸北部に位置し、農業、漁業、観光が主産業で、特に水産物は豊富な水揚げと優れたおいしさがありシラスや小女子(こうなご)が主力魚種です。しかし津波や原発事故の風評被害で壊滅的打撃を受けました。福島第1原発からは約40キロに位置し市全域が避難区域外。放射線量の推移は福島市や郡山市より低いこともあり、相馬市に移転する人も少なくありません。

 同社は1947年に、たちや海苔店として創業。1973年に法人化、立谷氏が2代目社長となり、1996年からは韓国海苔の原料仕入れを開始。本格的に韓国海苔を製造したのは同社が日本初で、現在はサンエイコリアという現地法人もあります。本社は、焼き海苔加工・味付け海苔加工包装ラインなどの設備を有し年間1億枚の海苔を生産しています。

経営理念に立ち返り、地域復興は自分たちの手で

 震災では、工場の一部と事務所が傾き、海沿いの冷凍倉庫と加工場は津波で流されました。放射能のこともあり、立谷氏は、海苔も会社も終わりかと諦めかけたのですが、地元の漁師から切実な訴えがありました。たくさんあった水産加工会社は津波で壊滅し、事業再開はまったく不透明。そのままでは漁を再開したときに受け入れ先の加工業者がありません。

 同社の経営理念は「わたしたちは、健康で安全な自然食品を提供し、社員の幸福と社会の繁栄を目指し、地域社会に貢献する」です。地域の将来を考えると自分がやるしかありません。そして100名(震災当時)の社員(内2割が障害者)を守らなくてはいけません。復旧・復興といくら口で言っても、実行しないと何も変わりません。相双地区全体が震災の影響で人が減っています。地域の雇用を増やしていかないと地域が成り立ちません。このままでは終われない、失ったものを取り戻そうと、立谷氏は、逆に心が奮い立ちました。

将来を見越した上の、攻めの経営

 2014年秋に相馬市松川浦漁港のそばに尾浜水産加工場を本格稼働させました。地元水揚げのシラス・小女子を加工し、鮮度抜群の商品を出荷しています。製品になるまでを完全機械化し、衛生管理と鮮度保持を一貫した体制を取っています。さらに2017年4月に新地水産加工場、2018年1月に南相馬工場、4月に亘理工場も操業します。

 震災前考えていた中国進出は止めました。やはり地元が大事。相双地区でまちづくりを行っていく覚悟を決めました。そして南相馬市は原発から20キロ圏。あえてその場所に事業所を建設し、地域貢献を行うことにしました。

 人手不足と言われていますが、同社には地元の信頼から、募集をかければ何とか社員は集まります。震災前に1棟だけ経営していたビジネスホテルも、社員の雇用継続や復興作業者のニーズに対応して行く中で、現在4棟。2018年には南相馬市国道6号線沿いに8階建て150室のホテルを新築します。そのほかにコンビニエンスストア、居酒屋、ファーストフード店なども展開しており、拠点が国内外に20カ所以上になりました。 「原発被災地と言われますが、とにかく走りながら地域を再生させます。3年後、5年後には、今実行していることが具体的な成果を出し、サンエイグループとして10年後には売り上げをさらに伸ばし、障害者も含めた雇用を増やし、必ず地域を復興させます」

人口減少率ワースト1の中で

 福島第1原発は報道の通り、最近3号機の燃料デブリらしき画像をようやく捉えた状況です。除染廃棄物の中間貯蔵施設への輸送が始まりましたが、県内各地にまだまだ仮置きされた状態。廃炉まであと30~40年。毎朝、廃炉作業に向かう車の通勤ラッシュが起こっています。

 福島県の人口はピーク時約214万人が、平2018年1月、約188万人と大幅減少。震災後の減少率は全国ワースト1。震災の県内被害状況(2017年10月現在)は、地震津波では沿岸部を中心に甚大な被害(死者4013人)、内陸部も倒壊家屋多数。避難者数は県内外で約6万人。県内の空間放射線量は低下傾向、住宅除染は着実に前進しています。また、将来にわたり健康を見守る、県民健康調査を実施し、復興公営住宅を整備して原発避難者向け約5000戸を整備予定です。インフラ復旧工事は全体の91%が完了し、産業振興は企業立地補助金による支援などで工場の新増設が増加しています。観光再生にはまだまだで、懸命にPRしています。農業再生は、コメの全量全袋検査や県産農林水産物のモニタリング検査を通じて安全安心なものを提供しています。

地元企業と連携し復興を目指す「福島イノベーションコースト構想」

 国と福島県は原発事故被害が大きい沿岸部で「福島・国際研究産業都市(イノベーションコースト)構想」を進めていて、2018年2月には、その中核施設となる大規模ロボット実証実験拠点「福島ロボットテストフィールド」が、南相馬市のサンエイ海苔新工場とホテル新築予定地のほど近くに起工しました。内堀雅雄知事は「世界に類を見ない一大研究開発拠点となる。産業振興と地元企業の活性化を図る」と抱負を述べています。地元中小企業が連携し、復興の担い手となることが期待されています。

 7月の中同協第50回定時総会のオプションでは、(株)サンエイ海苔の立谷氏はじめ、相双地区会員の7年間の歩み、そして福島イノベーションコースト構想を知る視察ツアー行います。全国の皆さんぜひご参加下さい。

(株)サンエイ海苔

http://www.sunei-nori.com
創業:1973年6月
資本金:3,450万円
事業内容:海苔加工販売
本社所在地:福島県相馬市(本社工場、国内6工場、3営業所)
社員数:135名(内2割程度が障害者)
グループ企業:(株)サンエイコリア。(株)サンエイ食品。(株)相馬企業サービス(ビジネスホテル5軒、飲食店、コンビニエンスストア等5軒)。

「中小企業家しんぶん」 2018年 3月 5日号より