「同友会がどんな時も展望を掲げる原点に」支部は地域になくてはならないオアシス(岩手同友会・気仙支部)

あれから7年 地域のいま~東日本大震災のその後 岩手の取り組み

7年が経過しようやくできた街の土台

 発災から6年2カ月が過ぎた昨年5月、陸前高田の旧中心市街地にショッピングモール・アバッセがオープンしました。高さ14メートルもの津波が襲った街の上に10メートル以上の盛土をし、かさ上げした場所です。

 人口の1割もの人々が犠牲となったその場所は、現在では巨大な造成地と化し外海の風景以外は以前の街の面影がまったくありません。1000億円をかけた大事業。しかし7年が経とうとする今でも、そこに街ができていくイメージが描けないほど、見慣れない広大な土地だけが広がっています。

 大型トラックがひっきりなしに往来し、音を立てながら街が新たに創られていく。景気がどんどん上向いているような錯覚が生まれる街の雰囲気です。

 これからアバッセを中心に街づくりが計画されています。しかし当初予定の6割前後しか具体的な開発計画が決まっていません。時間が経過する中で、地元の住民の多くは、生活の基盤がすでにできています。「街に必ず戻る」と話していた気持ちは徐々に変化し、新たな投資を躊躇する人も出てきました。今後残りの土地は市外の人たちに呼びかけて埋めていく予定ですが、果たして人口が流入してくる可能性があるのか、いまだ見えない状況です。

どんな時もビジョンを掲げ続けて

 アバッセの入り口から入ってすぐのところに八木澤商店が経営する「やぎさわカフェ」があります。震災後のがれきの中、奇跡の1本松が残った場所に建てた店舗に続き、2店舗目のカフェが実現しました。すべてを失ったどん底の状況の中でもこうした店が実現できたのは、震災前から、経営指針の10年ビジョンの中に飲食店を開く未来像が描かれていたからです。

 気仙支部が立ち上がって10年。創立当初から変わらず例会はいつもこうした展望や夢を語り合う声で賑やかでした。どんなに参加者が少ないときでも震災直後でも、まったく変わらず愚直に議論しあい、時に笑いながら、時に本気で指摘しあいながら学びあいの場を守り続けてきました。

支部はなくてはならないオアシス

 最近の例会でも率直に、各社の実状が語られます。「震災で売り上げが一時10倍になった。でも今年は恐らくその半分かな」。「いや、それならまだいい。うちはようやく以前の6割を超えたところだ」。「二重ローンの問題は7年が経過して、より判断しにくくなった」などの本音が飛び出します。

 そんな中、八木澤商店河野通洋社長は、昨年10月に食の見本市に出展するためフランスを訪れました。「昨年よりも輸出が3倍になった。大変なときにこそ将来への展望が重要」と震災前に変わらず挑戦し続けるスタンスは変わりません。

 「フランスでは本物の醤油がまだ十分に使われていない。賞味期限の問題が大きいが、それを克服して提供したい」。支部の仲間からは、すかさず合いの手が入ります。「だったらフランスに店を出せば? チャンスじゃない? 俺たちどんなに苦しくても表情に出さないもんな」。笑い声と本音が入り交じる話題に、同友会の支部がなくてはならないオアシスであると実感するときです。

エネルギーシフトの地域実践に向けて

 陸前高田市気仙町、村上製材所のグループ補助で立ち上げた新たな事務所。訪れると、電話がひっきりなしにかかってきます。震災前は若手後継者として支部でも先輩から背中を支えられる立場だった村上英将氏でしたが、今では地元の工務店や大工さんをも励ます押しも押されぬ経営者です。厳しい環境の中だからこそ、人間として大きく飛躍的に成長する時期でもあります。

 村上氏は2015年11月、岩手同友会の第2回エネルギーシフト欧州視察でドイツ・オーストリア・スイスを訪れました。まさに震災後の激動の中、地域での新たな仕事づくりを展望し、思い切って飛び込んだのでした。

 それから2年。エネルギーシフトの地域実践が進んでいます。地元に眠る森の資源、気仙スギを小学生の子どもたちの机の天板として活用しようという動きです。

「なつかしい未来」の街づくりへ挑戦

 村上氏はこれからの夢を語ります。「活用されていない森の資源に目を向け、地域で活用することで、里山と街との交流が生まれる。そこに林道を整備し、森林に差し込む光の管理をしっかりとし、誰もが気軽に森に入ることのできるようにしていきたい。天板をもらった子どもたちと家族が休日には森に入り楽しむ、そんなモデルを陸前高田から発信したい」

 地域資源の付加価値を高め、域内での経済循環を目ざす挑戦は、まさに欧州で見た実践そのものです。

 「やぎさわカフェ」の一押しは「キャラメル“しょうゆ”マキアート」。目をつぶって一口、口に含むと、甘くてなつかしい、陸前高田の未来の街が浮かんできます。まさに気仙支部で皆が肩を組み語り合ってきた「なつかしい未来」の姿です。

 8年目の今、被災地では新たな挑戦が始まっています。

「中小企業家しんぶん」 2018年 3月 5日号より