「未来は地域にしかない」(2)~地方自治が新しい意味を持つ時代へ

 前作「未来は地域にしかない」が好評でしたが、前半が紙幅の都合上、ややわかりにくい部分があったと思い、少し詳述します。

 昨年、京都大学と日立製作所が人口減少などが進む中で、どのように人々の暮らしや地域の持続可能性を保っていくことができるか、を考えるシナリオ分析に、AI(人工知能)を活用した研究結果を発表しました。

 紙面の関係から省略しましたが、これは京都大学の4人のメンバー(広井良典こころの未来研究センター教授など)と日立京大ラボのメンバーの研究成果です。AIを活用した社会構造や公共政策への活用という研究は日本では初めてだったこともあり、各方面から問い合わせがあったようです。以下、内容を簡潔に紹介したいと思います。

 日本では、成長・拡大時代からポスト成長(非成長・非拡大)時代へのパラダイム・シフトが起こりつつあり、(1)人口や出生率、(2)財政や社会保障、(3)都市や地域、(4)環境や資源、などの持続可能性や、(5)雇用の維持、(6)格差の解消、およびそこで生きる人間の(7)幸福、(8)健康の維持・増進が大きな社会課題となっています。上記(1)~(8)の観点から「少子化」や「環境破壊」といった149個の社会要因について因果関係モデルを構築し、その後、AIを用いたシミュレーションにより2018年より2052年までの35年間で2万通りの未来シナリオ予測を行い、23個の代表的なシナリオのグループに分類しました。

 今回導出した未来シナリオと政策提言は次の通り。

 (1)2050年に向けた未来シナリオとして都市集中型と地方分散型のグループがある。

(A)都市集中シナリオ

 都市の企業が主導する技術革新によって、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。

(B)地方分散シナリオ

 地方への人口分散が起こり、出生率が持ち直して格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感も増大する。

 (2)8~10年後までに都市集中型か地方分散型かを選択して必要な政策を実行すべきである。

 今から8~10年後に、都市集中シナリオと地方分散シナリオとの分岐が発生し、以降は両シナリオが再び交わることはない。地方分散シナリオへの分岐を実現するには、地域経済を促す再生可能エネルギーの活性化、まちづくりのための地域公共交通機関の充実、住民・地域社会の資産形成を促す社会保障などの政策が有効である。

 (3)持続可能な地方分散シナリオの実現には、約17~20年後までの継続的な政策実行が必要である。

 地方分散シナリオは地域内の経済循環が十分に機能しないと財政あるいは環境が極度に悪化し、(2)で述べた分岐の後にやがて持続不能となる可能性もあります。

 いずれにしても今後、AIと政策活動は密接な関係になりそうです。また、バックキャスティングという方法も有効です。意味は、現在のライフスタイルのまま迎えた未来(問題のある社会)を推測してその問題点を特定し、そうならないアイデアを考えるというアプローチ。地方自治が新しい意味を持ちます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2018年 4月 15日号より