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各地の動き

健全な日本型金融市場構築へ−金融アセスメント法制定を
東日本代表者会議での報告から

東京同友会常任理事・政策委員長 三宅一男氏(潟Gピックホームズ社長)

「中小企業家しんぶん」 2001年 7月 5日号より

突然の手形貸し付けの拒否
東京同友会の取り組み
制度融資は10年の返済期間を
アメリカにおける地域再投資法(CRA)の歴史
金融アセスメント法の検討課題
健全な金融市場を阻む壁


 6月に開かれた地域別の代表者会議では、来年4月のペイオフ解禁を前に、金融機関では不良債権処理に拍車がかかっている状況が報告されました。中同協幹事会では「金融アセスメント法」制定へ向け、全国統一署名を決め、各同友会では学習会や金融機関との懇談会などが取り組まれています。
  本紙ではこれらの問題を理論と実践から学ぶものとして「金融と経営」のシリーズを開始。第1回目は東日本代表者会議での三宅一男・東京同友会常任理事の報告を紹介します。

突然の手形貸し付けの拒否

 私は東京で不動産会社、埼玉でダンボール会社を営んでいます。なぜ私が金融問題に関心をもったのか。それは、私が経験した金融トラブルがきっかけでした。ダンボール会社の方は、私が二代目で社歴は63年になりますが、ある都銀と長年にわたって1,000万円の単名手形を銀行に入れて、1,000万円借りて毎年借り換えるということを続けてきました。1997年に突然、銀行が「書き換えには応じられない。定期預金を取り崩して手形を返せ。どうしても返せないのなら、それを担保に入れてほしい」と書き換えの直前に言われました。その理由は、土地の担保評価が下落したからということ。

 私は極めて理不尽な申し出だと思い、預金をすべておろしました。すぐ銀行は会社と自宅にやってきて真夜中まで「定期預金を戻すか、担保にするか」はっきりするように迫り、最後には「このままだと銀行に差し入れている手形を手形交換所に回すが、それでいいんですか」と言われ、私は2日2晩眠れませんでした。

 同友会はありがたい組織です。仲間に頼んで本当にそういう実例があるのか調べてもらいましたが、1回だけ大手都銀が、債務者を何度呼び出しても本人がこないので、手形を交換所に回した事例があるとのことでした。私はハラを決めて預金を戻しませんでした。これ以後、1年に及ぶ銀行との交渉になりましたが、半年後には銀行は書き換えに応じます。借り手は支店長室など密室で交渉しなければならず、経営者は極めて孤独な「闘い」を強いられると実感しました。

 このような辛い経験から、個別に金融機関と交渉するだけでは不十分で、中小企業の経営者全体の問題として銀行に対応する必要があると考え、同友会の中で金融問題を提起したという経過があります。

東京同友会の取り組み

 東京同友会は97年に、400名が参加した「どうなっているの銀行?」を開催し、「貸し渋り問題」を提起しました。まさに日本の金融システムが混乱する最盛期の98年には、650名が集まって、「中小企業救出大作戦」と銘打ちまして、中小企業が金融の現場でどういう状況にあるかを素人芝居で演じました。これは、内外のマスコミ60社が取材し、テレビの各局のニュースで紹介され、大変な反響を呼びました。

 99年からは、東京都信用金庫協会と定期的な研究会を6回実施し、地域金融についての認識を深めました。この年、東京で開催された中同協総会では、金融体験をふまえて「日本経済再生のシナリオ」などを発表致しました。
  2000年の東京信用保証協会との懇談では、「安定化特別保証融資の返済条件の変更は申し出のときから最長10年まで認める」「条件変更を他の制度融資を利用する際のペナルティとはしない」という公式議事録を確認し、会員に情報提供することができました。

 このように金融問題に取り組む中で、解決のカギを握るのは金融アセスメント法であるという考え方にたどりついたわけです。

制度融資は10年の返済期間を

 なお、この安定化特別保証融資の返済条件の変更を十年まで認めることに象徴されますが、5年で返済することは、中小企業にとって不況下ではかなり厳しいことです。借金の返済は収益で返すわけですから、5,000万円借りて年間1,000万円ずつ返すということは、5,000万円の資本を使って1,000万円の利益を上げなければ借金を返せない。単位資本当たり年間20%の利益を上げなければ本来返済できないのです。現在、中小企業制度融資はだいたい5〜7年です。

 『2001年度中小企業白書』によれば、中小企業の有利子債務の必要返済期間は20年ぐらいで、この10年で倍になっています。いま中小企業は、売上高経常利益率を2%だしていればマアマアのレベルだと思いますが、半分は税金ですから1%分が返済原資です。年商10億円で2,000万円の経常利益のある会社でしたら、月商の3カ月以内の3億円を借りたとすれば、返済に30年かかる計算になります。オーバーローンと言われる中小企業の現実ですが、5年返済の運転資金で20%の利益を上げて返せということは、もともとこの制度設計そのものに無理があると私は思います。

アメリカにおける地域再投資法(CRA)の歴史

 私たちが提案している金融アセスメント法は、アメリカの地域再投資法(CRA)がモデルです。かつてアメリカでは、黒人などマイノリティに銀行がお金を貸さないという時代があり、それはいけないというマイノリティ保護の流れがCRAの背景の1つです。もう1つの流れは、消費者運動で、消費者に適切な金融サービスを提供しているかというところからでてきました。この2つの大きな流れの中からCRAが生まれました。

 そもそも、低所得者層にお金を貸すのはリスクが高く、銀行の健全性という立場からはまずいのではないか、という議論が長く続いてきたと聞いています。しかし、実際には、所得階層別の事故率のデータを取ると、けして低所得者層が悪いとはいえないことがわかり、最近では、CRAビジネスは良いビジネス、という評価が定まってきているそうです。

 このようにアメリカの地域再投資法(CRA)は、差別に対して公正なルールを確立しよういう運動の中から出てきた点を、注目したいと思います。

金融アセスメント法の検討課題

 「アセスメント」という言葉はあまりなじみがなく、説明に苦労するのですが、最近は機能やサービスを公的機関が評価し、公表するというやり方が広がっています。例えば、厚生労働省は来年から福祉施設のサービス内容を第三者機関が調べて利用者に情報提供する評価制度を実施します。金融アセスメント法とは、このような仕組みを金融機関にも適用するものとイメージしていただければ理解されやすい。

 都銀から信金などすべての金融機関を公正な機関が地域と中小企業に対する融資態度等を評価し、一般に公開する。その公開データを参考に私たちが使い勝手の良い金融機関を選択していくというのが、金融アセスメント法だとご理解いただくのが良いと考えています。

 私が学習会の講師をやる中でいただいたご意見などから考えた、金融アセスメント法に関連した問題点や検討課題を3点提起したいと思います。

公的金融との関連で

 1つは、公的金融との関連をどう考えるかです。政府系金融機関の統廃合が国政の焦点になりつつありますが、私たち中小企業にとって政府系金融機関はどういう機能をもつべきか、どうあるべきかを検討し提起する必要があると思います。さらに、信用保証協会との関連です。今の金融情勢を背景に保証協会付融資の比重が高まり、事実上、保証協会が与信供与を行っている融資実態とアセスメント法をいかに関連づけるか。

 換言すれば、アセスメント法と信用保証協会との整合性をいかに求めるかということです。

独占禁止法との関連

 2つ目は、独占禁止法との関連です。銀行が優越的地位を濫用して取引慣行のゆがみが発生しているのではないかという問題です。

 金融アセスメント法がない場合でも、中小企業と銀行との不公正な取引の事例を集めて、独禁法の違反行為として提訴することが可能ではないかと指摘する人もいます。

地方自治体の条例との関連

 3つ目は、金融アセスメント法という国法でなくとも地方自治体による条例でも可能ではないかという会員の意見もいただきました。新地方自治法が成立したときの内閣法制局長官は、自治体は内閣から独自の行政権をもつという意味で、憲法65条「行政権は内閣に属する」の行政権について、憲法94条にでている自治体の行政執行権を「除いた」のが内閣の行政権であると画期的な答弁をしていることを教えていただきました。金融アセスメント制度を都道府県の条例として成立させることが法理論的には可能であり、検討すべきだということです。

 東京同友会では、金融アセスメント条例の制定を東京都に提言していますが、今後の研究課題です。大事なことは、以上の課題を踏まえて、私たち同友会として望ましい法律案を構想し、自らつくっていくことです。

健全な金融市場を阻む壁

 5月10日付の朝日新聞によると、城南信金の取引先の会社が融資金の月々の返済額を減らしてほしいと申し入れたが、承諾されないまま返済を3カ月滞納したため当座預金を閉鎖され、手形決済するために現金を持って走ったが、当座閉鎖による信用不安が起き、結局倒産したという記事が載っていました。

 こういう事例はたくさんある話ですし、当然に金融機関にも言い分はあります。しかし問題は、倒産した後でないと異議申し立てができないという現状です。貸し手と借り手のどちらが良いか悪いかでなく、会社をつぶした後でないと良い悪いを問えないというシステムが問題であると私は言いたいのです。これは、金融アセスメント制度にからむ大きな目的、公正なルールをつくるという重要な課題だと思います。

個人保証の不思議

 金融アセスメント法の勉強会で出てくる発言で「今は銀行との関係も良くてあまり困ってないよ」という声も寄せられます。しかし、そういう方も含めて、銀行との約定書に個人保証のサインをしていない経営者の方がいますかと聞くと、ほぼ100%の方が個人保証をしています。

 なぜ中小企業経営者は自動的に個人保証が必要なのか、差別ではないのか。銀行が日銀からお金を借りるときに、頭取が個人保証を入れたという話は聞いたことがありませんから、貸し手の銀行は有限責任です。

 しかし、私たち中小企業経営者は、常に無限責任を背負った経営を強いられているのです。この構造的な差を改革しないかぎり、本当の金融市場は生まれないと考えています。

金融機関と議論できる状況を

 誤解のないように申し添えれば、個人保証を廃止しろと言っているのではありません。

 契約は双務的ですから、女房・子どもを連帯保証人に入れてまでリスクを取って事業をやりたいという方を否定するつもりはありませんし、そういう覚悟でやられる方も結構だと思います。

 ただし、この事業については、ここまでのリスクで事業をやりたいという方は、その範囲内で事業性を評価し、融資するか否かをフィフティ・フィフティで金融機関と議論できる、借り手と貸し手がどこまでリスクを取り合うか決めることができる関係があるべきだと私は言いたいのです。

蓄積されてない金融機関の事業評価能力

 私は、「ホームスイートホーム」という映画づくりと上映の事業に取り組みましたが、取り組み始めてから一年経ってやっと決算書を作り、融資を受けるため事業の説明に金融機関を回りました。

 「おもしろい事業ですね」「新しい試みでテーマも良いですね」と担当の方は言ってくれましたが、いざ貸す段になると「物的担保は? 保証人は何人いますか?」という話になってしまう。貸す側に事業を評価する能力が蓄積されていないことを痛感させられました。

 信用創造というのは、貸す方も借りる方もともにリスクを取り合って信用を創造していくのが、健全な金融のあり方だと思います。しかし、今の金融庁が金融機関に実施している検査マニュアルによる金融機関の資産査定や債務者査定は、つきつめて言えば「リスクをとるな」といっているに等しい。すべての流れがそういう方向にあります。

金融機関と対等な立場で

 いま大事なことは、対等な立場でリスクを取り合い、事業を立ち上げるマーケットを日本の中で作っていかない限り、健全な日本経済の再生はないと私は考えています。

 また、個人保証は企業の世代交代の壁にもなっています。経営者が、一緒にがんばってきた元気のよい人たちに会社をまかせようというとき、「あなたの個人保証が必要となります」と言うと引き受けてくれる人がなかなかでてこない。結局、身内が継承するという話をよく聞きます。

 さらに、産業構造の激変の中で「商売の将来性がないから店を閉めたい」「すみやかに市場からリタイヤしたい」という経営者も本音では相当数いると思いますが、それがスムーズにできないのも個人保証の壁があるからです。個人保証の重しがバネになって危機を乗りきる場合もあるわけですが、展望がない中でとりあえず商売を続けることで、周りの負担を大きくしたまま立ち行かなくなり、迷惑をかける事例も多いのです。

 これからの日本経済と金融のあり方を考えるとき、自動的に個人保証を負わされるという取引慣行をどうするかは重要なテーマになります。

健全な金融市場形成を

 金融アセスメント法は、「弱者救済のため」とか単なるセーフティネットということでなく、日本型の健全な金融市場をつくるものと考えて運動を進めることが求められています。

 弁護士の中坊さんは、法律でいう「公平なルールをつくれば必ず強者に利する」と言っています。だから「公平」でなく公正なルールをつくることが大事なんだと。金融アセスメント法制定の取り組みは、公正なルールをつくる運動として皆さんと共に取り組んでいきたいと思います。

 

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