特集【中小企業憲章・条例推進月間、中小企業魅力発信月間キックオフ】実践報告3~SDGs 薬局が取り組むSDGs~健康で環境にやさしい暮らしの実現に向けて (株)平野 代表取締役 松田 泰幸氏(愛媛)

私は長野県出身で、2007年に妻の実家がある今治市にIターンして(株)平野に入社、同友会にも同時に入会しました。現在、今治市内に調剤薬局を7店舗展開しており、私は2代目の後継者にあたります。

なぜ薬局がSDGsに取り組んでいるのか

健康で環境にやさしい暮らしを実現することは、持続可能な未来を実現することにつながり、私たち薬局がめざすべき本質といえます。当社では2009年、経営指針に環境問題への取り組みを明記し、エコに関する学習を始めました。社員全員で東京商工会議所が実施している「eco検定」を受検し、こうした基礎知識の習得がさまざまなエコ活動を実践していく上でのベースになっています。

薬局にSDGsを取り入れるにあたって、普段私たちがしている仕事がどのゴールにつながっているのか紐づけする作業を行いました。その時ちょうど入社した新入社員2人にSDGsの担当になってもらい、彼女たちが中心になってゼロから学びながら進めてきました。入社間もない社員の頑張っている姿を見て、ベテラン社員たちも「自分たちも協力していこう」という機運が高まっていきました。トップダウンで「やりなさい」ではなくて、「みんなで取り組む」をキーワードとして進めたことがよかったのだと思います。

自社の業務とSDGsの紐づけ

薬局自体が女性の多い職場なので、女性が働きやすい職場づくり(SDGsゴール5:ジェンダー平等)も重要な取り組みの1つです。その中で重点的に取り組む4つのゴール(3、4、8、11)を決めました。特にゴール3「すべての人に健康と福祉を」は薬局の本業に直結していることなので、「保険調剤とヘルスケアで患者さんの立場に立った治療とサポート、病気にならないための健康支援を行う」という明確なゴールを設定し、さらに細かく13のターゲットに紐づけています。SDGsは経営指針にも明記していますが、毎年掲げる社員の個人目標も17ゴールとの紐づけを行ってもらっています。

また、かねてより全社員の話し合いの中でもっと薬局を身近に感じてもらえるような新しい薬局像を描いてきました。それを実際に形にしたのが「平野みらい薬局」です。令和元年5月1日にオープンし、将来の健康と地球環境の未来を考える拠点としての役割を店の名前に込めて、SDGsやエコの要素を盛り込んだ新しい形の薬局づくりがスタートしました。建物自体もエコや持続可能性にこだわっており、薬局内にはエコショップも開設しています。

SDGsを地域に広めるために「地域ESD活動拠点」としても登録しています。ESDというのは、持続可能な社会の実現をめざして行う教育活動のことで、今年4月の時点で全国に160カ所あり、四国には17カ所あります。

「えひめ消費者志向おもいやり経営」にも参加しています。これは環境や人など地域に配慮した消費行動=思いやり消費を支える事業活動に取り組んで、消費や環境の面からSDGsの目標達成をめざすという愛媛県独自の取り組みです。県内50社が参加していて、同友会会員も7社が参加しています。

誰もが世界、社会をよい方向に変えるチャンスを持っている

健康経営への取り組みも重点ゴールの1つに位置づけています。従業員の健康保全のための取り組みが収益性を高めるという考えのもとに、経営的な観点から健康管理を行う取り組みです。社員一人ひとりが自身の健康を見つめ直すことで、健康意識が高まり、それが地域の方々の健康サポートにつながると考えています。そのために、ここ数年管理栄養士の採用に力を入れてきました。患者さんの栄養相談だけでなく、健康経営推進の中心的役割を担っています。

こうしたさまざまな取り組みを行うにはキーパーソンが必要です。従来薬局は、薬剤師と医療事務職の2つの職種だけでしたが、日常業務が忙しいため、新しい取り組みを始めても継続するのが難しい面がありました。そこで、2013年から社内向けの業務の推進を担当する総合事務職の採用を始めました。以後、彼女たちが中心になって進めていくことで、PDCAサイクルが回り始めました。

「think globally, act locally」(地球規模で考えて、足元から行動せよ)という標語があります。1人ができることは小さくても、たくさんの人がやれば大きな力になります。持続可能な未来をみんなの手でつくり出すために積極的な取り組みを続けていきたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2022年 7月 5日号より