【21.03.31】【会長談話】「中小企業再編論」に対する見解

中小企業の存在意義を自覚し、
すべての人がその素晴らしさを発揮できる社会づくりに貢献を

 中小企業憲章が閣議決定されてから10年の節目を迎えた2020年9月に発足した菅内閣は、「我が国の持続的な成長に向け、成長戦略の具体化を推進するため」として成長戦略会議を10月に設置し、12月1日には「実行計画」を発表しました。同戦略会議には、「中小企業再編論」(中小企業の低生産性の原因はその規模にあり、規模拡大が見込めない小規模企業は退出すべきとする理論)を展開するメンバーも起用されており、同実行計画における中小企業政策として「合併等により中小企業の規模を拡大し、生産性を引き上げていくことは重要である」と、再編を促しています。そうした背景を踏まえ、中同協では、多くの研究者の協力を得て中小企業再編論の論点を整理し、同論に対する見解を、以下の通り会長談話として発表します。

1、「生産性」についての見解

  •  日本の中小企業の実質労働生産性(物的労働生産性)は世界でもトップクラスとされており、社会経済的存在意義は大きいものがあります。
  •  しかし、国際的にみて必ずしも付加価値生産性が高くない大企業からのしわ寄せもあり、低工賃での取引を余儀なくされているケースも多く、名目の労働生産性は伸び悩んでいるのが実情です。
     上記「実行計画」にも織り込まれていますが、大企業の対応も含め「あるべき取引条件」をめざしていく必要があります。
  •  また、厳しい地域・業界を支え、「儲からないけど必要とされている」多くの中小企業があることも事実です。そうした企業への一定の支援は必要と考えます。

2、「中小企業の社会的側面」についての見解

  •  中小企業は、地域経済循環の一翼を担い、持続可能な地域社会を支えており、地域の文化や芸能、祭り、ネットワーク、防災、コミュニティーの維持・存続に不可欠な存在となっています。また、サプライチェーンに おいて無くてはならない企業も多々あります。
  •  さらに、多様な雇用の受け皿として、多くの社員とその家族の生活と生涯設計を保障しています。中小企業も質の高い雇用を主体的に作っていくべき存在でもあります。
  •  そうした意味で、生産性だけに着目しての再編は避けるべきと考えます。

3、「中小企業の数」についての見解

  •  日本の中小企業は、ほかの先進国と比較しても人口比では多くはありません。中小企業の多寡と一国経済の「生産性」の高低には因果関係がないとされています。
  •  歴史的に見ても中小企業の増加と生産性向上は“正の関係”にありました。
  •  中小企業が少なくなれば社会全体の生産性が上がる、というわけではありません。むしろ小規模だからこそ、その柔軟性を生かして、多様なニーズや需要の変化に対応することで社会に貢献している企業も多くあります。

 私たち中小企業家は「経営者である以上、どんなに環境が厳しくとも、時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責任があります」として、このコロナ危機にあっても、全力でそれを乗り越え、さらなる発展につなげていくべく、日々奮闘しています。地域や業界を支えていく使命、社員やその家族の生活や生涯設計を保障する使命が私たちにはあるからです。
 その使命を果たしていくために、生産性向上は絶対に外すことはできませんが、それが最終目的でもないことは言うまでもありません。生産性を含めた科学性と社会性と人間性、中小企業である私たちがそのすべてを高めていってこそ、私たちのめざす「すべての人がその素晴らしさを発揮できる社会」づくりに貢献できるものです。そうした矜持のもと、すべての国民の皆さんと手を携えて、このコロナ禍も乗り越えていきたいと切に願っております。

2021年3月31日
中小企業家同友会全国協議会
会長 広浜泰久