2002年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

2001年5月
中小企業家同友会全国協議会 会長 赤石義博

中小企業政策への基本姿勢

 私ども、中小企業家同友会全国協議会[略称・中同協]は、1969年(昭和44年)設立以来、自助努力による経営の安定・発展と、中小企業をとりまく経営環境を是正することに努めて参りました。その一環として1973年(昭和48年)以降毎年、国の政策に対する要望・提言を、政府各機関とすべての政党および国会議員にお伝えし、懇談を積み重ねて参りました。

 現在国際経済は、市場原理主義がグローバリズムというアメリカ化の別名として急速に展開し、自動車、金融に限らずあらゆる産業の産業地図が塗り変わり、少数の国際的大企業が市場分割をはかる集中化傾向が進んでいます。このような流れは経済の国際化が進展している日本の国内・地域にも押し寄せ、熾烈な競争戦がたたかわれ、この過程で日本の金融構造、産業構造、市場構造、財政構造などが大きく変わり、所得格差や雇用不安などの歪みが顕著になってきました。

 さらに日本経済は、大企業のリストラ効果により雇用なき景気回復現象がでていましたが、アメリカの景気減速の影響を受けて2001年は不透明感を濃くしています。しかも、1990年代の長期不況の影響を最も厳しく受けた中小企業の景況は、またもや水面上に浮上しないまま後退局面に入るものと予想されます。日本経済の本格的回復は中小企業の景況好転なしにはあり得ないということが今ほど明確になっている時期はありません。

 こうした動きの中でとくに注目される事態が二つあります。一つは投機資金として国家間を移動する国際短期資金の動向です。97年のアジア通貨危機の教訓は、これら短期資金の急速な移動は一国経済を根底から揺るがし、混乱に陥れるので野放しにしてはならないということです。資金の流れを正すための国際ルールを確立して資金の投機的動きが世界の経済の動揺につながらない防御壁を構築する必要があります。とくに、アメリカ経済の陰りが顕著になっているだけに緊急な対応が迫られているといってよいでしょう。

 もう一つは国の赤字が一方的に膨らんでいる日本の財政問題です。大量に増発し続ける国債発行の結果国の長期債務残高は、2000年度末には484兆円にも達しました。これに地方財政の赤字を加えた債務残高は国内総生産(GDP)の125%を占めるまでになりました。赤字公債発行に支えられてこれだけ財政を出動させても景気回復が実感できないことは、財政をどのように使うべきなのか、どのように健全化させるのかという根本問題を提起しています。しかも、地方財政の悪化が一段と進む一方で財源委譲なき地方分権化が推し進められているだけに事態は深刻です。

 このような時代にあって、私どもは、日本の中小企業が21世紀にその社会的経済的役割を正当に果たすことが一つの焦点になってきていると考えています。中小企業が国民の暮らしを支え、空洞化・疲弊化が進む地域経済の再生と日本経済の「質」を高める中心的担い手として、活力のある豊かな経済社会を創造していくために持てる力を発揮していくことがその内容です。こうした時代の要請に応えるため、これからの中小企業づくりの課題を、私どもは次のようにとらえています。

 第1に、自社の存在意義を自覚し、社会的使命感に燃えて事業活動を行ない、国民と地域社会からの信頼や期待に高い水準で応えられる企業。

 第2に、社員の創意や自主性が十分に発揮できる社風と理念が確立され、労使が共に育ちあう、活力に満ちた豊かな人間の集まりとしての企業。

 私ども中小企業家同友会は、このような企業のあり方に向かって努力することこそが、当面の経営課題を解決し、21世紀における企業と時代の展望を確かなものにする道であると確信しています。

 この10年間にアメリカやヨーロッパの先進諸国は経済社会における中小企業の果たす役割を的確に評価して中小企業重視へと経済政策の政策転換を行っています。わが国では1999年に中小企業基本法が改正されたにもかかわらず未だ政策転換は遅れています。新中小企業基本法下の中小企業政策は、ベンチャー企業の育成や創業だけにとどまらず、健全な企業家精神を持つ多様で多数の中小企業の「経営革新」等の自主的経営努力を着実に実らせるために、現実的かつ適切にバックアップすることに力を入れなければなりません。

 同時に国全体の経済政策として、日本経済において中小企業が果たしている役割を正当に評価し、従来型の補完的役割という政策比重の置き方を抜本的に転換させ、中小企業政策を産業政策の柱の一つとする中小企業重視へと抜本的に姿勢転換することが現在求められています。

 以上の認識に基づいてここに政策要望・提言を提出する次第です。

1.中小企業重視への政策転換を明確に進め、既存企業を積極支援

  1. 中小企業は日本経済において、企業数(99.4%)及び従業者数(77.6%)が量的に多数を占める存在であるうえに、これまでの大企業中心の大量生産・大量消費の経済システムに替わって、国民経済の豊かで健全な発展を質的に担っていく中核的存在としての歴史的役割が発揮されつつある。しかし、現在の政策的位置づけでは補完的役割からの転換が遅れている。そこで改めて中小企業政策は、日本経済に果たす中小企業の重要な役割を正確かつ正当に評価することを通して、その政策比重を国の政策への補完的役割から脱皮して中小企業重視へと抜本的に転換させること。
  2. 中小企業に関連する予算を評価にふさわしいレベルまでに急速に拡充すること。国の2001年度総予算82兆6523億円に占める中小企業対策費1947億円の割合は0.24%と1%に満たない極めて低いレベルが継続しているが、この比率をとりあえず1%以上にすること。
  3. 新中小企業基本法にもとづく重点策として、中小企業の圧倒的多数を占める既存中小企業が実施するさまざまな「仕事づくり」「経営革新」の取り組みに対して中小企業の実態に即したきめの細かい支援を積極的に行うこと。
  4. 中小企業の範囲の基準として「独立性」を厳格に適用して、形式的には中小企業であるものの、実際には大企業の分社等の大企業保有企業を中小企業の範囲に入れない規定を早くつくること。
  5. 地方分権によって地域経済の活力を地域の中から築いていくことが出来るように、権限委譲に比べて遅れている財源委譲を速やかに実施すること。われわれは国税の一部を地方税に回す財源委譲措置が適切であると考えている。
  6. 政策の具体的立案にあたっては、住民や中小企業等地域における現場の声を適切に反映させるために、これら現場の当事者代表を積極的に参画させること。
  7. 以上のような改善を率先実行する機構的な整備として、国は担当省庁の政策担当者を数年間は同一セクションに専念させる人事的措置をとること。
  8. 現在実施されている各種補助金の有効性を調査して見直し作業を行って整理し、中小企業の現場の声を正当に取り入れた制度へと根本的に改めること。

2.資金が円滑に回る国民と中小企業・地域に優しい金融システムの構築

  1. 「貸し渋り」「貸し剥がし」がなく国民と中小企業・地域が健全かつ社会的に望ましいかたちで存続していくために、日本の金融システムを1.金融機関の公共性を維持させる、2.金融機関と借り手の取引慣行の歪みを是正する、3.現行の裁量型金融行政を利用者参加型金融行政に、転換させなければならない。そのために、「円滑な資金需給」、「利用者利便」、「経営の健全性」の3つの視点から必要な情報を収集して金融機関の活動を評価することを監督官庁に義務づける、さらにその評価と判断理由をインターネット等利用者が入手しやすい形で公開することを義務づける「金融アセスメント制度」を早期に法制化すること。
  2. 金融庁の各金融機関に対する「検査マニュアル」は中小企業金融を人為的に不安定化させている。したがって、中小企業向け融資の場合には、金融庁は中小企業の実情に沿った別の基準の「マニュアル」を速やかに作成し、それを適用すること。
  3. ペイオフ解禁は、中小企業にかかわりの深い地域金融機関の預金の流失を促進させ、そのことが原因となって中小企業への融資の引き上げ、事業資金の中断など、中小企業の存続を人為的に断つ可能性が高いばかりでなく、地域金融機関の存立を危うくする懸念があるから、2002年4月施行の預金保険法の実効猶予措置を直ちに宣言すること。金融機関の健全性とペイオフは切り離して考えるべきである。
  4. 金融機関の合併・破綻によって取引先中小企業に対する事業資金のパイプが絶たれる、あるいは細くなることによる事業継続のストップを防ぐために、資金供給の継続を保証する法制化措置をとること。
  5. 金融機関の中小企業への「貸し渋り」の根源にある自己資本比率を唯一の基準とする金融機関への「早期是正措置」を国内業務に適用することは疑問が多い。少なくとも金融機関が行う中小企業向け貸出については自己資本比率を4%から2%に変更すること。
  6. 民間金融機関および政府系金融機関(信用保証協会を含む)のいずれにおいても融資審査にあたっては、物的担保優先主義を改めて、経営指針の確立、経営者の経営能力、企業の技術力、開発力、市場性、社風等を総合的に評価するシステム(総合評価システム)への転換を早急に図られたい。さらに、その評価の公正さを保持するために、金融機関以外の第三者が加わった融資審査のあり方をチェックするシステムを設けること。これは先行的に政府系金融機関からはじめること。
  7. 民間金融機関では拘束預金が依然として継続されている。これは、「取引上の優越的な地位の濫用」にあたり、独占禁止法に違反するおそれがある。公正取引委員会、全国銀行協会連合会などを通じての監視と指導の強化を改めてすすめること。
  8. 1998年10月から2001年3月まで実施された「特別信用保証制度」は、「貸し渋り」緩和に大きな効果をもたらしたと同時に中小企業への「最後の貸し手」の役割を果たしたが、日本の金融システムが安定化するまでの一定の期間、同様な制度でより中小企業が利用しやすいものを創設すること。
  9. 「貸し渋り」は、政府系金融機関の役割の大きさを改めて実証したから、政府系中小企業金融機関を整理統合することは中止し、むしろ設立時の原点に立ち返ってそれぞれの金融機関の特性を生かして育成する政策方向をとること。その上で、政府系中小企業金融機関への一般会計等からの政府出資及び財政投融資からの融資を大幅に増額して、貸付限度額の引き上げ、長期低利の制度融資等の拡充を図ること。なかでも、1.市場金利の動向に連動した既融資分の借換制度を設けること、2.一般会計から市場金利との差分について利子補給を行なう制度を設けること、3.制度融資全体の手続きを簡素化すること、以上の3点を緊急に実施すること。
  10. 中小企業に対する信用保険の保険準備基金、融資基金及び信用保証協会基金補助を大幅に増額し、普通及び無担保保険限度額の引き上げと保険料・保証料の一層の引き下げを実施すること。
  11. 信用保証協会が行なう「信用保証」の重要な役割は、担保力に乏しい中小企業金融の円滑化をはかり、中小企業を健全に育成するという信用補完機能にある。したがって物的担保優先主義を克服した信用保証協会こそが本来の姿である。「特別小口融資」については保証料免除措置導入を検討すること。
  12. 「制度融資」に関する「連帯保証人制度」について、連帯保証人の要らない制度融資のいっそうの拡充をすすめること。
  13. 既に利用している制度融資の返済について、長期不況の継続に対応して返済猶予期間を延長する措置を取ること。
  14. 本来中小企業向けに設けられている制度融資について、大企業が経営権を握る子会社に融資されることがないように、中小企業の独立性の基準を厳格にした審査を徹底すること。

3.地域経済の活性化と地域雇用の維持による景気回復策

  1. 中小企業は現在、新規事業、事業転換、グループ化、ネットワーク化などのさまざまな「新しい仕事づくり」を地域で取り組んでいる。これらの「新しい仕事づくり」は市場規模が小さいとはいえ市場を深く掘り起こす多種多様な事業であり、地域経済を活性化させ国民生活を豊かにし、地域雇用を維持し拡大することに結びついている。この「新しい仕事づくり」を有効な景気回復策として位置づけて、積極的に支援すること。
  2. 公共投資は大手ゼネコン中心の国家的大型プロジェクト方式で実行されてきたが、この従来型の公共事業から、環境にやさしくしかも地域を豊かにし、地域雇用に果たす役割も大きい、生活基盤整備・社会福祉重視・環境保全重視の生活密着型公共投資へ抜本的に転換させること。
  3. 今後の雇用不安を解消させる雇用安定策と、生活の将来不安を解消させるような社会保障制度(介護保険、年金等)へと制度改善策を実施することが国民の消費回復の根源的政策になっている。そこで、国の景気対策の重点としてもこのような政策の推進を図ること。

4.市場創造と経済再活性化を支える税制

 長引く不況の中で、経済を再活性化させるためには大企業への支援政策ばかりではなく、中小企業への支援と育成が非常に重要である。ここ数年のわが国の税制改正がこうした側面にも目を向け始めたこと自体は評価されてよい。しかし、新規事業促進が中心で既存企業への配慮が少ないこと、中小企業にとって重い負担となりつつある消費税の一層の引き上げが懸念されること、事業承継税制が不十分であること等の多くの不十分さも抱えている。基本的に大事なことは、個々の特別措置で微調整するよりも、税制の基本的な部分において応能負担原則を貫く、という基本姿勢を確立することである。アメリカの景気回復も、法人税の大企業に対する無制限の軽減ではなく、応能負担の復活・強化の中でもたらされてきたものであることの意味は大きい。日本では、消費税を導入し、法人税率・所得税率の累進制を著しく弱め始めた時期から、景気の低迷が続いており、このような税制が景気の回復には繋がっていないことをもっと重視すべきである。景気が低迷している現在においてこそ、応能負担原則の復活、累進制の強化を図るべきであろう。なぜなら、累進制のもとで高い税負担を負うのは高い所得を得ている企業であり、景気低迷下においても高額の所得を得られることは、当該企業の非常に高い負担能力を示しているからである。

 以下では、中小企業の負担能力を適切に反映した応能負担を実現し、市場創造と日本経済の再活性化をバックアップする税制を実現すべきであるという視点から、現行税制の問題点と早急に改善すべき方向をここに提言する。

(1) 法人税のあり方について

  1. 2002年には連結納税制度の導入が図られようとしている。この制度は、親子会社の関係にある企業の利益を通算して法人税を計算するものであり、赤字会社を抱えている場合、通算でこの制度を使う企業は税金の負担を免れることになる。同時に、連結納税制度は、会社分割による純粋持株会社立ち上げにとってキーポイントとなっているが、税制のループホール(抜け穴)を生み出すといわれ、既に導入している国では税収が大きく落ち込んでいる。この連結納税制度導入も、アメリカンスタンダードの別名であるグローバルスタンダード(国際基準)が主たる理由になっている。しかし、 このままでは大企業に有利に働くばかりでなくグループを通じた租税回避など税制を大きく歪め、税収を減少させ、大企業と中小企業との格差を一層広げて健全な国民経済の発展に大きな障害となることが懸念されるから連結納税制度導入は見送ること。
  2. 政府税調の中期答申(2000年7月)は、中小企業向けの軽減税率の縮小を示唆しているが、応能負担原則は法人税においても実現すべき原則であり、次のような累進税率の導入を提言する。すなわち、所得1500万円まで15%(資本金1億円未満)、所得5000万円まで25%、所得5億円まで34.5%、所得5億円以上40%。ただし、個人にたいして法人が相対的に有利になることを是正するために、現行の法人税を個人事業も対象に含めた企業税(仮称)に改めることも税率と合わせて検討すること。なお、このような累進税率を導入した場合でも、財政にたいしては中立すなわち増減税ゼロになる。
  3. 交際費課税については、1999年度改正から中小企業の損金算入枠が20%削られたが、本来の「全額損金算入」に戻すこと。さらに、交際費の範囲を明確にして、中小企業の経営の実態に即した交際費課税になるように改善を図ること。
  4. 中小企業だけに課税されているといってよい同族会社の留保金課税は、一定額以上の内部留保金(少なくとも1500万円以上)に対して10%から20%まで通常の法人税に加えられる税制であり、その趣旨は、株主が少なく会社の意思を自由に出来るため企業が配当を行わないで内部留保をすることで累進課税の所得税を不当に免れることがないように設けられたものである。しかし、所得税の最高税率が法人税と遜色がないほどに下降し、さらに貸し渋り等金融不安が常態化した金融環境の下にあっては、中小企業は積極的に内部留保の積み増しを実行しなければ資金繰りが難しい状況に追い込まれている。2000年度改正では同族会社の留保金課税を「創業10年以内中小企業」「新事業創出促進法の認定ベンチャー企業」について適用を停止したが、適用停止の範囲はベンチャー企業等に留まらず、すべての中小企業にまで拡げること。
  5. 不況と税率の低下で法人税収が大幅に減少している。将来の景気回復時に税収の大幅な改善を図るためにも、政策的税制の整理縮小(租税特別措置法の整理縮小)を行い、税収確保の筋道をつけること。

(2) 消費税について

  1. 政府税調の中期答申に示された税制改革の方向は、消費税率引き上げが現下の課題というものである。消費税導入は高齢化社会と福祉財源のためとされていたが、予算の執行を見る限り全く裏付けられていない。今や消費税の税収は、所得税・法人税等の直接税収入が度重なる税率引き下げに加えて景気低迷で税収が減少している中で、基幹税化している。しかし、中小企業の投資意欲、消費者の消費行動が低迷しているだけでなく、金融不安・雇用不安も継続している。したがって消費税の税率再引き上げは景況に大きなダメージを与えることは確実であるから行わないこと。
  2. 仕入れの事実があるときは、仕入税額控除を適切に行うことが出来るような制度に改めること。
  3. 中期答申では消費者の便宜を図るとして総額表示(内税化)に改めるとしているが、それを事業者の判断に委ねる選択制にすること。

(3) 所得税について

  1. 課税最低限について政府税調の中期答申は、日本は諸外国と比較して課税最低限が高いと指摘している。しかし、それは給与所得者だけの比較であって、事業所得者の課税最低限の比較を行うと決して高いとはいえない。たとえば、日本の個人事業者の課税最低限は子供二人の4人家族でアメリカなみで、ドイツやフランスよりも課税最低限が低くなっている。また、独身の個人事業者は各国と比較しても日本の課税最低限が低い。さらに、各国の購買力平価や福祉の社会生活レベルを比較するとその実態はさらに厳しい状況であり、日本の課税最低限が諸外国と比較して高いことにはならない。これらを考慮し、課税最低限引き上げを図ること。この措置は国民の消費購買力の刺激にもなる。
  2. 給与所得者と事業所得者同士の無用な誤解を解消するためにも、給与所得者の実態に合わせた必要経費の実額控除選択制を導入すること。中期答申は年末調整廃止の方向を打ち出しているが、単に廃止するのではなく、年末調整と確定申告の選択性を強めることで納税者の利便を図ること。また、給与所得者にたいする源泉徴収や年末調整のために、企業はかなりの負担を強いられている。このような負担にたいして一定の補償措置を取ること。
  3. 消費税率引き上げによって生じた低所得者の税負担の逆進性を緩和するために、所得税において消費税額控除(たとえば1人当たり3.5万円)を導入すること。

(4) 中小企業の事業承継について

 アメリカは97年度税制改正で中小企業の事業承継を可能にする大胆な改革を実施したが、これがアメリカの好況持続の一要因にもなっている。これに対して、わが国は抜本的な改革が一向になされず、相変わらず相続税の負担が中小企業において深刻な事業承継問題を生み出している。中小企業の事業承継が円滑に行われることは今後の日本経済の健全な発展に大きく寄与する。とくに、都市部の中小企業が安心して事業を承継して地域の街づくりに貢献できるように、相続税を抜本的に改革すべきである。こうした中小企業の声に圧されて現在、事業承継税制の導入が具体化しつつあるが、以下のような点に特に配慮した事業承継税制の導入を行うこと。

  1. 相続税の基礎控除額を抜本的に改めること。政府税調は中期答申で「平成10年では死亡者100人当たり約5人(5.3%)」が対象になっているといっているが、高度成長によって地価が騰貴する前の昭和30年代は100件の相続事例のうち相続税の対象になるのはわずか1件(課税対象割合1%)であった。その後、地価高騰により相続税の対象となる割合が著しく増大した。富の再分配を必要とする一部の資産家に対する税である相続税の本来の姿に戻すためにも基礎控除を1億円程度に大幅に引き上げること。また、アメリカやドイツで導入されたように、相続時には中小企業の収益力を基礎にした事業承継価格を適用し、時価との差額の税負担を猶予し、一定年数以上事業を承継した場合には税負担を免除するような大胆な事業承継税制を我が国にも導入し、中小企業の円滑な承継を実現すること。
  2. 事業承継は、事業自体の存続を前提にするから取引価額で資産を評価すること自体が問題である。ドイツ連邦憲法裁判所の95年6月22日決定も明言しているように、「企業に属する財産はそうでない財産より処分可能性が制約されている」。したがって、事業用資産については、事業を継承するという条件の下で以下のような事業承継猶予制度を設けること。
    イ)事業用資産については通常の評価額とは別に「事業承継価額」で評価する。
    ロ)事業承継者は事業用資産を「事業承継評価額」で評価した税額を納付し、通常の評価額で評価した場合の税額との差額は猶予される。
    ハ)10年以内に事業を廃止した場合は当該差額を納付する。
    ニ)10年以上事業を承継した場合には当該差額を免除する。
     上記中期答申では、農地に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例は、農業政策の観点から、法律上、その利用・転用・譲渡が厳格に制限されていることなどから認められているとしているが、中小企業の事業承継にもこのような制度が必要である。なお、アメリカやドイツでは5年~10年の事業継続を条件とした事業承継税制を導入している。
  3. 株式評価については、自社株式は流通性がなく資金化が困難であることに加えて企業の存続を前提にすると、企業の利益水準に基づいた収益還元方式による評価が適切であるから自社株式の評価方法に収益還元方式を導入すること。
     なお、2000年度改正から類似業種比準方式の評価方法においてわれわれが提言してきたように、減額割合が大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5となったが、純資産価額方式の評価において、土地の評価は上記の「事業承継価額」とすることが、収益還元方式へ移行するまでの経過措置として残されている。
  4. 贈与税の基礎控除については、2001年度の税制改正で1975年以来の改正となり、60万円から110万円に引き上げられたが、この基礎控除の引き上げはこの25年間の物価の値上げを十分に反映していない。土地建物の高騰をはじめ、住宅資金の贈与の特例の創設や、相続税の遺産にかかる基礎控除が漸次引き上げられてきた経過を踏まえて、贈与税の基礎控除を300万円にまで引き上げること。

(5) 地方税制について

  1. 中小企業にとって自治体の政策は極めて影響が大きい。しかし、従来の税制では自治体の固有財源がほとんどないために、多くは国の補助事業等を中心とした産業政策が地方レベルでも実施されてきた。各自治体が地域にとって重要な中小企業育成政策を展開できるようにするためには、自治体の固有財源を充実させる必要がある。具体的には、税収面では国が60%、地方が40%であるが、歳出面では国が35%、地方が65%程度と割合が逆転している。この65%について地方自治体の独自財源として運用されるようにすることなどが望まれる。その意味で、地方分権推進一括法における地方税制改革を法定外目的税の創設程度から一歩前に進めて、地域の実情に沿った中小企業政策を自治体が独自に実施できるように大幅な税源委譲に着手すること。
  2. 事業税
    政府税制調査会は98年4月に「地方法人課税小委員会」の設置を決めて法人事業税の外形標準課税化の検討に入り、99年7月の同小委員会報告及び2000年7月の政府税調中間答申では、望ましい外形基準は事業活動価値(「利潤」+「給与総額」+「支払利子」+「賃借料」)であるとされている。このような外形標準課税を2001年にも導入する動きが高まっている。外形標準をこのような付加価値基準にすると、同一事業に対して消費税と事業税の二重課税になるばかりでなく、人件費比率が比較的高い中小企業ほど負担が大きく、さらに不況下で赤字経営を余儀なくされている企業にも課税されることになる。税負担能力がないところへの課税は、倒産や滞納の拡大につながるなど、社会的歪みが生じるばかりでなく、日本経済の活力削減につながるから、外形標準課税の導入は中止すること。
  3. 固定資産税・都市計画税
    固定資産税の地価公示価格に連動した評価は、多くの訴訟や自治体の反対決議にみられるように非現実的である。固定資産においても負担能力に対応した収益還元による評価方式に徹底すること。さらに、都市居住・営業が確保されるためには都市計画と結びついた適切な軽減措置をとること。また、都市計画財源のために徴収されている都市計画税の存在意義を明確にして、適切な都市計画財源として企業の経営環境確保のための都市形成に使用すること。

(6) 税務行政(国税通則法等を含む)について

  1. 税務行政の公正の確保と透明性の向上を図るために、行政手続法・情報公開法などから税の執行に関わる「適用除外」を外し、「国民の知る権利」の保障を行うこと。2000年11月10日に総務庁は税務行政監察を行った結果、大蔵省(国税庁)に対して「勧告」を行い、税務調査の仕方、課税の仕方において税務署ごとにかなり不等な扱いがなされていることを明らかにしたが、税務行政手続を公正に整備充実する規定として、先進国の例にならい納税者権利憲章の制定によって行うか、または国税通則法改正に盛り込むことによって行うかを決めて実施すること。
  2. 税務行政における法令、省令、通達の適用については、意見照会手続(パブリック・コメント制度)と、課税庁の公式見解の事前照会手続(アドバンス・ルーリング)を制度化すること。
  3. 国税庁が1996年から順次段階的に導入しているKSKシステム(国税総合管理システム)は、システム上付番された番号により納税者を管理しているので実質的に納税者番号制度と同様となっている。しかも2003年には電子申告体制に移行されようとしている。しかし、現状のままでは、イ)個人のプライバシーの保護が不明確であるから厳格な保護を行うこと、ロ)税務情報の開示が遅れているから早急に情報開示を行うこと。
  4. 納税の滞納状況からうかがわれるように、長期不況により多くの中小企業の経営収支バランスは困難な状態にある。そこで、中小法人の法人税の滞納及び地方税の徴収猶予制度と欠損金の繰戻し還付措置(当該年度に欠損金を出した場合前年度の税額の一定割合が還付される措置)を復活すること。また、利子税及び延滞税の税率を現行市中金利の水準とすること。

(7) 税の使途に関する情報公開

 われわれには納税した税がどこにどのように使われたかを正確に知る権利がある。とくに、公共工事、ODA(政府開発援助)予算と補助金行政の実態に国民の多くは関心を持っている。また、財政投融資の使途及び国・地方公共団体が取得した資産及び後年度負担を伴う資産の実態についても関心を持っている。しかし、公表されている情報があまりにも少ないため、中小企業も国民もその妥当性について検証することすらできない。まず、これらの実態について一般の中小企業経営者や納税者が理解でき、議論に参加できるような情報の公開を直ちに実施すること。さらに、このような点に十分配慮した報告書の作成・公表と、国民が疑問に思った使途について個別的に説明を求めることができる財政情報公開制度を導入すべき時期にきている。このような制度が導入されれば、財政民主主義と、将来の国民の負担である高額な国債負担を合理的に削減していくことも可能になるから、そのための制度的整備を行うこと。

(8) 低金利国債への借り換えと累増ストップ

 景気対策という名目で国の借金になる国債の増発が理念なく実施された結果、2000年度末の国債残高が約365兆円、国の長期債務残高は約484兆円、国と地方を合計した債務残高は約642兆円にも達した。これは国内総生産(GOP)の125.0%にあたり、99年度以来2年度連続してGDPを上回る債務残高になった。国債発行残高の年間金利にあたる国債費(17兆1705億円)は国の予算の20.8%となる。金利の1%削減は1兆円以上の財源になるので、財政法に基づいて既発国債の「期限内償還」を行って低金利国債に借り換え、浮いた財源を景気対策等に投入するなど有効に活用すること。また、歯止めなき国債累増にストップをかけるためにも税の応能負担原則による累進税率を導入すべきである。

5.透明で公正な市場のルールをつくり取引を適正化する公正競争の確立

 規制撤廃・緩和の本格的な進行によって競争の激化、大都市圏と地方圏の経済力格差の拡大、大企業と中小企業の経済力格差の過度な拡大など市場の歪みが発生し、中小企業の存立条件が縮小している。豊かで活力ある経済社会の創造のためには規制緩和による市場の歪みは是正されなければならない。それには規制改革の視点から透明で公正な市場のルールをつくり、その運用を厳格にする公正競争を確立することが必要である。

  1. まず、独禁法(独占禁止法)の改正及び運用強化を行うことによって、中小企業の市場参入の機会が公平に保障されなければならない。それにはなによりもまず中小企業に不当な不利益を与える不公正取引(とくに大企業と中小企業との間における)に対して市場のルールを守るべく具体的で「厳正・迅速」な政策的対応が不可欠である。
  2. そのルール遵守のために、公正取引委員会の規模と権限の強化と司法(裁判所)機能の強化および独禁法の私訴規定のさらなる充実を図って、ルール違反防止と不公正取引の是正・防止を厳正に実施すること。また、経済産業省設置法でうたっている「市場における経済取引に係る準則の整備」を取引適正化のために活用すること。
  3. 1997年12月から始まった純粋持株会社解禁は、多様な形態による大企業の経済力集中化を促進させて過度集中、大企業による市場寡占を引き起こす危険性が高い。その野放しは国民経済の歪みの増大、中小企業の大規模消滅につながるので、独禁法に過度集中に歯止めをかける明確な措置を入れること。さらに、2002年から導入される連結納税制度は上記の危惧に拍車をかけることになるので、過度集中への明白な歯止め措置を必要条件とすること。
  4. 許認可手続きの迅速化、手数料負担の軽減など中小企業の日常業務の規制撤廃・緩和を行政手続法等を活用してすみやかに改善すること。さらに、行財政情報の開示を行なって透明度を高めること。
  5. 公正な取引の視点から以下の3点について取引条件の確立を図ること。
    1. 海外展開、低価格等を理由にした中小企業への一方的な発注の停止、大幅削減、取消、買いたたき、取引条件の変更などの不公正取引の実態を自治体と共同して正確に調査すること。その上で不公正取引発生にたいする適正化措置として、データの公表(企業名公表)を含む情報公開等の緊急対応体制と相談体制の整備を図ること。
    2. 下請取引の適正化は公正な取引のもとでこそ実現されるから、公正取引委員会は、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法などの法律に沿って下請取引の実態を調査・監視し、強力に指導して健全な取引環境づくりに努めること。
    3. 独禁法の「優越的地位濫用」による「下請いじめ」規制を発動できるように整備すること。特に、下請企業から声を上げないと調査が入らないシステムを改めて、第3者と当事者を組み合わせた監視システムをつくること。また、下請企業は親企業の発注に対応した生産設備・人員を抱えているので簡単に転換することができないから継続的下請取引の一方的解除には歯止めをかけることができる措置をとること。

6.中小企業を核とした新しい地域振興による地域と産業の活性化

 大企業の事業所の撤退・閉鎖や海外移転などによって地域経済の空洞化がすすみ、地域集積・地域経済の衰退が進行している。その影響をできるだけ和らげ、新たなものづくり、新しい産業などを興して地域経済の再構築・再生をはかることが21世紀の日本経済の大きな課題になっている。地域と共に歩む中小企業をその再構築・再生の核に位置づけて、地域の中小企業を重視する政策スタンスをとること。

  1. 地域経済の多くの部分は地域の住民生活に密着しているので、現在国に過度に集中している財政の権限と行政の権限を大幅に地方・地域に委譲する地方分権化を進めること。それにより、地域の実情に応じた空洞化対策、産業興し、都市計画、住環境整備、自然環境の保護などの規制の見直し(規制緩和・規制強化)などの実行が可能になる。ただし、その具体的な政策立案作業には地域住民と中小企業の現場の声を適切に反映できるように、制度的に当事者の参加を必要条件にすること。
  2. 大企業の事業所の突然かつ一方的な撤退・移転は地域経済に甚大な影響を与える。そうした工場移転、閉鎖などにあたっては、その計画段階から地元の自治体・地域代表者と協議するというルールを制度化すること。それに加えて撤退・移転の影響をできるだけ軽微にして、その後の地域経済再振興プランを現実的に促進できるように、たとえば撤退・移転企業に一定のペナルティを負担させる措置を義務付けること。
  3. 地域開発政策等の一環として地方進出した大企業の事業所が企業側の事情で早期撤退・閉鎖する場合は、国や自治体が負担した公共経費と事業所税・固定資産税などの減免措置相当分を返還するというルールを制度化すること。
  4. 地域経済では、需要の停滞、販売価格の低価格化、取引先の分散・縮小化、製・販ルートの短縮化などが続いている。それらへの対応策として、新分野進出などの新経営資源活用や既存市場の掘り起こし等の既存経営資源活用に取り組んでいる「経営革新」企業に対して、金融、技術に限らずマーケット開拓、ネットワーク化、ソフトの面まで含む総合的な自立支援策を実施すること。
  5. 地域産業の振興と地域に密着した内需喚起策として下記の点に力を入れること。
    1. 既存下請企業の自立化支援強化策として、イ)下請中小企業の自立化支援助成金制度の整備・拡充、ロ)営業力強化セミナーの実施、企画開発、デザイン、市場開拓への支援など下請企業の弱点強化策、ハ)各地域に「地域中小企業ネットワークセンター」(仮称)などのネットワークシステムを構築して、仕事確保、仕事づくりのために企業データの情報化をすすめるとともに、中小企業が主導して取り組む川上から川下までの多様な企業間ネットワークに対する相談体制、支援体制を強化すること。
    2. 創造型企業に転換を図る既存企業への支援措置として、中小企業が行うリエンジニアリング、異業種交流、同業種交流、経営革新などによってもたらされる市場創造活動に対する支援を一層強化すること。さらに企業と技術者・研究者・各種団体が試みる多種多様なネットワーク化の動きに国・自治体も積極的に役割を果たす振興策を強力に進めること。
    3. 公共投資・官公需の拡充については、イ)公共投資は、欧米諸国と比較するときわめて遅れている生活基盤の整備、住宅、下水道、公園、福祉施設、生活道路など国民生活に密着した分野において推進すること。ロ)国の官公需の中小企業向け発注は、閣議決定の中小企業への官公需発注比率を現行水準の約4割から少なくとも5割に拡大すること。とくに、景気回復をはかるために、地域経済の実情に応じた発注を行なうとともに、一定の質をもつ公共工事価格を適正価格のナショナルミニマムとして位置づけて、モデル化すること。また、技術的に可能な限り分離・分割発注を拡充、一定金額以下の発注を中小企業に限定する制度の導入、施工準備金・前払い制度の活用、発注の平準化推進、官公需適格組合の積極活用を図ること。
  6. 農林漁業と中小企業とが連携したさまざまな地域興し事業に対して、助成と支援を積極的にすすめること。
  7. 近年中小企業の開業率の低下傾向、とくに製造業の独立型開業率の低下と中小流通業の開業率低下が続いている。日本の産業活力維持の視点から見ると開業率低下を転換させる早急な対応が求められる。開業にあたって、高い地価や立ち上がり投資の高さをクリアし、資金調達が可能になるような支援策とともに、技術支援・経営相談などを包括した総合的な創業支援(開業支援)策を利用しやすい形で整備すること。

7.市街地の再活性化と流通・物流の革新

  1. 地域経済の発展、地域コミュニティづくりに大きな役割を果たしてきた商店街の多くが存亡の危機にさらされ地域の衰退が危惧されている。そこで街の崩壊、地域の衰退状態を打開する新たなルールづくりと具体的な振興策が急がれる。そのためには、街づくりの主体者は商店街、中小企業、地域住民であることを明確にして、商店街における中小小売業の事業活動の機会を適正に確保することを基本ルールに据えることが必要である。その上で各省庁横断的な権限を地域に移管して、街全体を改造する地域性を生かしたプランを策定(地域の中小小売事業者の参画が必要条件)して、抜本的に新しい街づくり策を講じること。その街づくり策においては、中小小売事業者、商店街、共同店舗及び小売市場等を総合的に位置づけること。大店立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法の「街づくり3法」を活用して抜本的な新しい街づくり策を積極的に推し進めて、既成市街地の活性化、良好な都市生活環境の確保を図ること。とくに、中心市街地活性化法施行によってつくられたTMO(タウンマネージメント機関)については、1.推進計画をバックアップする2ケタに及ぶ省庁の窓口の一本化、2.手続きの簡素化、3.認可から実施までを短縮化させるなどの改善措置をとること。
  2. 大型店、専門店の営業時間の延長・元旦営業が広がりつつあるが、営業時間の延長・元旦営業は従業員の労働時間の延長、問屋等の年末超過対応が必要になり時間短縮という時代の流れに逆行する。元に戻す方向の措置をとること。
  3. 地域中小企業の物流環境を整備するため、縦割り行政になっている卸売業・小売業・運輸業・倉庫業等について、業種を超えて地域単位に括る地域密着型の支援策に転換すること。
  4. 物流効率化のため中小企業が共同して行なう「物流システム」事業に対しては、中小企業流通業務効率化促進法による金融、税制上の支援措置の一層の拡充を講じること。
  5. 1995年の阪神・淡路大震災は、日本の大都市の都市構造の弱点をはからずもあらわにした。この痛ましい貴重な経験を無駄にすることなく、人間を重視し、人間中心の安全で住みやすい都市づくりを行なうという視点からこれまでの各都市が策定した都市計画を見直して、防災対策を強力に推進すること。

8.国際取引と国際交流の整備推進

 国際化の進展は中小企業への新たな支援を要請している。

  1. 中小企業が国際化のなかで取り組む以下の取り組みに対してきめ細かく支援を行い、もって国際取引の不安を緩和させること。イ)中小企業が参加する国内開催の国際見本市・展示会への参加や販路拡大情報について、ロ)海外製品の並行輸入、開発輸入におけるリスク分散システム、配送システム、商社を通さないシステムづくりの取り組みについて、ハ)海外部品調達にかかわる情報提供と指導、トラブル回避、共同購入について。
  2. 中小企業の海外進出への円滑化策として、投資関連情報の提供、金融、信用補完、保険などの支援措置を拡充強化すること。
  3. 外国人研修生受入事業の充実として、外国人研修生受入れにたいする支援措置の拡充ならびに研修生の入国手続きの簡素化等環境整備を図ること。また、外国人労働者の宿泊施設、住宅の提供、住宅の斡旋、労災保険や健康保険等の制度の充実を図るとともに、外国人労働者の社会生活に対する相談センターや社会生活に必要な日本語ほかの知識を習得するための研修機関を整備すること。

9.人間らしく育つための教育・人材育成環境の重視

(1) 中小企業と教育

  1. 学校を卒業して社会にはばたく青年層のなかに、自分のやりたいことを見つけられない、生きることや働くことについてのスタンスがなかなか定まらないという状況が広がっている。青年や子どもたちが健全な労働観や地域社会観を形成していく一つの機会としての労働体験を中学校・高等学校の授業の一環に組み込み、その現場として中小企業を積極的に活用すること。さらに、労働体験の期間は1日に限るのではなく、一定期間とするように検討すること。
  2. 大学生を受け入れるインターンシップ制度の実施にあたっては、企業の採用活動とは完全に切り離し、仕事のノウハウを覚えるという狭義の職業教育にするのではなく、学生が働く意味や生き方を学ぶ機会となるような教育理念のもとで行うように指導すること。当会の経験では、中小企業で社員とともに働くことにより、働く姿そのものから学ぶことの意味が持つ比重が大きい。大学に入ることだけを目的に入学してくる新入生が、入学後目的を失う現象が多発している。大学一年生にとっても、インターンシップは学ぶ目的を明確にし、学ぶ意欲を湧き立たせる意味で有効であるから、1年次から広く活用を呼びかける措置をとること。
  3. 長期的視野に立って人材を育成するためには、教師、父母、行政、企業経営者等が協力し合い、地域内で共に努力を積み重ねることが必要である。そこで、これら4者による懇談会やシンポジウムなどの試みに対して積極的に支援すること。新しく導入される学校評議員制度の実施にあたっては、地域の企業経営者の任用を検討すること。
  4. 日本のものづくりの機能を保全するための一環として、中学校以上の教育に、技術・技能教育を積極的に取り入れること。さらに、別立てに専門職人を独自に養成していく公的システムを新たに作って日本のものづくり機能の保全に努めること。
  5. 中小企業についての正確な認識がはかられるように、学校教育等では中小企業の最新の実態に基づいた正確な姿を教えること。そのための一環として、中小企業の経営者を授業の講師とすること及び教師が中小企業の現場で研修することを積極的に計画すること。

(2) ゆとりある教育に向けて

  1. 教育基本法の改正が論議されているが、教育基本法そのものの基本精神を損なう、教育の現場から遊離した上からの一律的「改革」を拙速に行うのではなく、各学校の実情に応じたていねいな援助が可能となるような教育行政自体の改革をすすめること。
  2. 企業で働く若ものたちの間にも、なかなか自立できない、コミュニケーションがとれないなどの「歪み」が見られ、「学級崩壊」が小学校低学年で起きるなど、現代の子どもをめぐる状況が深刻であることは国民の共通認識になっている。そこで子どもの権利条約の批准国として、98年国連の「子どもの権利委員会」から日本が受けた勧告を真摯に受けとめて「子どもの最善の利益」を考慮した様々な措置をとること。何よりも子どもがゆとりをもって生活できるよう、おとなの管理から離れて自分で考え自分で判断し行動する自由な時間を保障するための手立てを急ぐこと。
  3. 子どもは子どもの中で育つという子どもの集団自身が備えている育ち合う力を信頼し、子どもたちで自主的に過ごす時間を増やすために、また教師が一人ひとりの子どもと向き合うゆとりが持てるようにするために、学習指導要領の改善と教師が30人学級で自主的に授業内容・授業時間を組み立てられるように改善すること。また、教育、文化、スポーツ施設の大幅拡充などもあわせて実施すること。
  4. 15歳までの子を持つ、働く親が授業参観、保育参観等地域における教育に積極的役割を果たせるよう、「教育休暇制度」を検討すること。また、学校長は働く親の職場の事業主に対して学校の行事計画および親の協力をとくに得たい行事等の周知徹底をはかること。

(3) 職場環境改善・人材育成への支援

 人材の確保と定着は、景気動向の如何にかかわらず、中小企業にとって重要な経営課題になっている。中小企業の労働時間等の労働条件、職場環境、福利厚生等の雇用管理面の改善が進み、魅力ある職場づくりが進展するように、相談機関・教育機関、関連施策を一段と拡充すること。さらに、既人材の能力開発につながる生涯能力開発助成事業において、中小企業への助成率の引き上げ、年齢枠の引き下げ、給付限度額の増額、適用範囲の拡大(研究会活動や海外研修へまで)等、中小企業の実情に沿うような改善策をとること。

(4) 中小企業大学校の充実、職業教育・訓練制度の拡充

 中小企業大学校の講師等専門スタッフを拡充し、カリキュラムのなかに中小企業経営に不可欠な経営指針作成講座(経営理念、経営方針、経営計画)を必ず設けること。現在未設の四国地域に中小企業大学校を設置すること。また、生産現場における技術革新の質的変化とスピードに対応できる技術者教育・訓練制度の拡充を図ること。

(5) 就職協定廃止後の行政指導

 就職協定の廃止が、本当に自分がやりたい仕事とは無関係に各種の情報に惑わされ、就職テクニックを身につけることに汲々とするような学生の就職活動の混乱状況に拍車をかけている。企業がいたずらに求人活動を早めて、学生を狭い就職活動に追い立てることのないよう、文部科学省・厚生労働省は必要な指導監督を行うこと。

10.労働環境改善のために

(1) 安心して働ける社会保障制度の構築

 高齢社会を迎え、介護保険制度の導入が行われるなど、公的年金や健康保険をはじめとして社会保障制度全般が転機を迎えている。制度の再構築にあたっては、自己責任・自助努力任せにすることなく、将来にわたって国民が安心して働けるような社会保障制度の構築を国の責務として明確にすること。また、大企業だけでなく、中小企業の勤労者や自営業者にとっても公正・公平なものとなるような措置を講じること。

 企業年金や中小企業退職金共済を、労働移動が発生した場合でも勤労者が個人単位で継続できるような制度に改めること。確定拠出年金(いわゆる日本版401k)導入では、あくまでも公的年金を補完するものと位置づけ、加入者が十分な情報を得て拠出金を運用できるよう、運用金融機関の情報開示を徹底化すること。

(2) 労働環境悪化への不安解消

 「リストラ=首切り」という風潮の広がりと人員整理や実質賃金の低下が国民の生活への不安を増幅させ、景気にも深刻な影響を及ぼしている。雇用・賃金等国民生活の基本に関わる問題については、安定した環境を社会的に保障するシステムを早急に確立することが求められる。まず雇用問題を市場原理にだけ委ねることなく、企業が雇用に果たす社会的責任の啓蒙につとめること。雇用の流動化は、熟練労働力の育成を阻害し、良質の生産活動の低下を招くおそれがある。さらに、規制緩和による労働条件等の低下を懸念する声も出ており、実態や影響を調査し、労働環境悪化により経済の活力を低下させることのない政策的措置をとること。

(3) 労働時間短縮に向かって

 労働時間短縮については、中小企業の経営実態に配慮しつつ、時間短縮のための環境整備を推進すること。中小企業の時間短縮については、自企業の企業努力だけではなく関連企業・関連業界の理解と協力、取引慣行等の転換が必要要件となっている。そこで、1.省力化投資等に積極的な支援策を講じること、2.これまでの取引慣行を見直して業種ごとに労働時間短縮を促進する施策を行うこと、3.発注方式等取引改善指導事業、下請代金支払遅延等防止法、下請中小企業振興法の運用強化等、労働時間短縮のために下請取引適正化施策の一層の強化を図ること。

(4) 育児・介護休業制度と保育所の拡充等による女性の社会進出支援

 育児・介護休業制度を実効性あるものとするためには一定の所得保障が不可欠であるから、雇用保険法による休業給付金の拡充を行うこと。さらに、利用者のニーズに対応した保育施設・学童保育所の増設・充実、在宅介護支援制度の充実を図り、女性の社会的進出を支援すること。とくに、産休あけ、育児休業あけの保育所の拡充に力を入れること及び出産育児により長期に就労から離れる女性に対して社会復帰をはかるための施策を充実させること。育児・介護については、従業員の実情にあわせて育児・介護と仕事の両立が柔軟にはかれるような環境整備に着手すること、育児においては範囲を「未就学者」に限定することなく対応できる環境整備を行うこと。

 介護休業制度では、休業の認められる期間が一家族当たり最長3カ月となっているが、介護の実態とは離れており、短時間勤務との組み合わせや期間の上乗せなど、それぞれの介護の実情に合わせた実効性のある介護休業制度とすること。休業給付金の支給も、その実情に合わせ、支給日数の延長や給付額の引き上げなど一層の拡充を図ること。

 また、女性に関連する労働法の「規制緩和」では、男性・女性を問わず、健康破壊、生活破壊をおこさず家庭の責任も果たせるような制度的裏付けを伴いながら、人間尊重の視点で慎重に対応すること。

(5) 高齢者の雇用環境

  1. わが国の総人口に占める65歳以上の高齢者人口は、21世紀前半には4人に1人の割合になる見込みであるから、公的機関が高齢者の多様な就労ニーズを高齢社会のテンポにあわせて実現させるための環境整備を図ること。たとえば「シルバー人材センター」の拡充など、高齢者の就業を総合的に推進・援助する拠点機関を全国各地域に設置する一方、民間ボランティア組織を制度化して税制優遇措置を設けるなど。
  2. 高齢者の日常生活を支援するために、住宅、設備の修理や改修、掃除などを公的に援助することにより安価に利用できる制度を行政と中小企業とがタイアップする方式で設けること。その際、能力や技能のある高齢者を優先的に積極的に活用すること。

(6) 障害者の就労・雇用の促進

 「国連・障害者の10年」のなかで国連が呼びかけた「完全参加と平等」の実現をめざし、より一層の充実を図ること。とくに、中小企業における障害者雇用を促進させるような支援策の拡充と利用手続きを簡素化すること。障害者作業施設設置等助成金などの適用にあたっては、障害者雇用を前提として施設の設置や整備を行った場合、雇用前であっても助成金の支給を実施すること。障害者雇用の現状は、大企業より中小企業の方が進んでいる。障害者の雇用状況を発表する際は、実情が正確にとらえられるように、法定雇用率適用外の従業員規模55人以下の企業における障害者雇用の状況も必ず発表すること。また、近年障害者及び父母、養護学校教諭等から企業における就業訓練(実習)の機会拡充の声が大きくあがっているので、企業に対してそれを促進させることになる国の「職場適応訓練」、「短期職場適応訓練」、障害者雇用促進協会の「職場準備訓練」、「職域開発援助事業」についての周知徹底措置を強めること。さらに、バリアフリー住宅・福祉機器開発を行なっている中小企業への支援(開発促進、市場の開発)に力を入れること。

11.環境保全型の維持可能な社会システム構築

 地球温暖化などの進行に加え、自然の浄化力を超えた大量の廃棄物や、世代を超えて生態系に悪影響を与える有害化学物質が排出され、このままでは地球の正常な存続すら疑問視されるようになってきた。そこで、大量生産・大量消費・大量廃棄をもたらす経済構造から、環境負荷の少ない環境保全型の経済社会システムへの移行をはかる総合的政策の推進を急がなければならない。それらの政策形成・決定・実施にあたっては、情報公開を徹底し、環境保全型地域社会形成のため、行政・市民、そして地域経済を担っている中小企業が連携しながらそれぞれの役割を発揮できるような仕組みにしていくこと。

(1) 地球温暖化・エネルギー問題

  1. 1997年12月に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、同会議で決めた地球温暖化ガスの削減目標を率先して履行すること。
  2. エネルギー消費の削減にあたっては、省エネ効率の高い製品の使用や、生産設備への移行を促す誘導政策を行なうと同時に、流通システムや、都市づくり、ライフスタイルなどエネルギー大量消費型社会となっている現状を見直す政策を強めること。
  3. 太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電事業促進のための技術開発や助成制度の拡充と、それによって発電された電力が、電力メーカーによって安定的に買い取られるような仕組みを創設して、自然エネルギー発電事業に長期的視点で安心して取り組めるような誘発施策を行うこと。なお、2000年から消費者が通常料金より多少割高であっても自然エネルギーによる電力を選択し購入できる「グリーン電力」制度が一部大手電力会社に導入されたが、その実施にあたっては、当該電力会社が、どのような自然エネルギー導入目標を定め、実際に自然エネルギー発電推進のためにどのような投資を行ったか、など消費者が判断可能になるように情報公開を行うこと。また、原子力発電所については、原子力が人類や生態系に与える影響が大きいこと、安全性や放射性廃棄物処理において未解決の問題が大きいことを考慮して、可能な限り原子力発電に頼らない措置をとること。
  4. オゾン層を破壊するフロンや、温暖化を促進する代替フロンについて、大気中への放出を法律によって規制するとともに、その回収・保管・最終処分コストの適正負担をはかるシステムの構築を急ぐこと。

(2) リサイクル・廃棄物処理問題

 大量生産・大量廃棄社会からリサイクルを基本とした循環型社会形成を目指す循環型社会基本法をはじめとした「リサイクル6法」が2000年に成立した。循環型社会基本法には「拡大生産者責任」が明記されている。一連のリサイクル法の実施にあたっては、一部中小企業に過度の負担とならないよう、生産から流通、消費、リサイクルの各段階でそれぞれにふさわしい適正コストを負担するシステムづくりと、消費・廃棄から生産現場へと戻すリサイクルシステムづくりに、メーカーの責任において直ちにとりかかること。また、このようなシステムづくりにあたっては、リサイクルしやすい製品作りや製品の長寿命化、廃棄物の発生抑制に働くようにすること。なお、循環型社会基本法に先立って実施されている容器包装リサイクル法では、必ずしも容器廃棄物の発生抑制に役立っているとはいいがたい。また、2001年4月から実施される家電リサイクル法は、最終消費者が負担するリサイクル料金の設定如何では、不法投棄の増加や、消費者と家電メーカーの間に立つ中小小売店にしわ寄せされる懸念があるので、懸念を払拭する設定にすること。

(3) 環境ビジネスの育成と環境共生型企業への支援

 環境保全型の製品開発や、ISO9000、ISO14000の取得、環境保全対策の推進など環境共生型企業づくりを積極的に進めている中小企業に対しては、技術開発や設備投資資金などで積極的に支援すること。リサイクル品の育成・需要喚起のために、イ)リサイクル品の品質保証を行なう規格の整備、ロ)リサイクル品を事実上閉め出している既存の規格・慣行の見直し、ハ)資源大量消費型製品へのペナルティ(制裁金)、などの措置を講じること。そのペナルティは、一般財源調達のためではなく、あくまで環境負荷を減らす経済活動推奨のためであることを明示すること。

(4) 地球環境保全と地域づくり

 資源小国でありながら、天然資源活用の恩恵に浴してきた日本は、地球環境保全のための国際的取り組みに大きな責任を負っている。1997年に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、二酸化炭素削減に向け率先して取り組むこと。また、公害防止のための技術支援や、砂漠緑化や森林の回復などの環境修復を積極的に支援すること。日本企業による「公害輸出」や環境破壊型「開発」を行なわないような国際社会に通用するルールづくりを強力に推進すること。

 国内の地域開発にあたっては、計画段階からその地域の中小企業や住民に十分な情報開示のうえで参加をもとめ、生態系や自然環境の保全、地域の生活環境、歴史、文化との調和をはかりながら、長期的視点で進めること。また、食糧自給率を高めるため、安全で健康な食べ物を供給する日本農業の健全な発展を図ること。地域づくりでは、農業が、治水や地域環境保全にも役立っていることを考慮した計画にすること。

(5) 国と関係府県とが協力して琵琶湖の水質保全、湿地・干潟の保護を

 世界湖沼会議が2001年11月に琵琶湖で開かれるが、琵琶湖の水質保全の問題は、滋賀県一県を超えた課題になっている。汚れた琵琶湖の再生にあたっては、自然生態系に基づく浄化力に依拠した水質保全のための高度処理システムをつくっていくとともに、琵琶湖の自然を根本から再生させるための対策と実行が必要である。国は関係府県と協力して抜本的な対策を進めること。とりあえず、現時点での琵琶湖周辺の開発計画、湖岸道路等と自然の浄化力とのバランスを勘案して、排出規制基準値の見直しを早急に行うこと。また、地域の意見に基づいて全国的視野に立って湿地や干潟を保護する施策をとること。

12.国民を災害から守る防災対策の充実

  1. 国は、地方自治体と一体となって緊急度に応じた総合的・計画的な防災対策を講じることにより被害を最小限に抑えるとともに、万一災害が発生したときには機敏に対応できるように、所管を超えて都道府県に権限と財源を集中させた知事直轄の「綜合防災本部」(仮称)を直ちに常設するよう自治体に働きかけること。さらに、北海道有珠山噴火、東京三宅島噴火にみられるように、被害が長期にわたる場合、国の支援による「長期自然災害における支援システム」を該当する都道府県に確立すること。
  2. 国は、「東京大震災」に備えた防災対策事業を、東京都及び特別区と協力しながら、中小企業の参加を条件にして、以下の措置を強力に推し進めること。1.既存建築物の耐震診断を大規模に実施すること。関連して、耐震診断費と防災改修工事の助成措置及びセーフティローン斡旋制度の金利助成の拡充措置をはかること。2.防災向けの耐震防災住宅の建設、簡易地下室「地震シェルター」建設の研究と普及・支援を図ること。3.都市防災不燃化事業の対象地域の拡大と個別住宅の防災不燃化を推進すること。4.地域住民と地域企業の防災活動への組織化とともに地域防災のあり方・行動について検討する場の設置を図ること。さらに、地域住民・中小企業から地震対策のアイデアや意見を募集したり、防災対策のコンテストなどを企画すること。

 以上の措置はすべての都市に共通するものであるから国の強力な指導が望まれる。

13.高齢社会・少子化社会への対応策整備

  1. 公的介護保険の導入によって、導入以前の介護水準より切り下げられる、あるいは介護から切り捨てられる、負担だけが増大する、といった事態が生まれている。こうした不安を抜本的に解決させて、高齢者が安心して生活できるような政策へ転換すること。
  2. これからの街づくりにあたっては、高齢者や障害者に優しいという基本視点を入れた構想の実施に対して政策的に支援を強めること。さらに、高齢者や障害者が生きがいを感じられるような社会参加の仕組みづくりと若者や健常者とのふれあい・交流の仕組みづくりに力を入れて整備すること。
  3. 移動入浴車やデイサービスの充実を図るとともに、在宅型介助機器の公的リース、さまざまな老人施設・障害者施設のマンパワーの充実に努めること。
  4. 高齢化に対応して福祉政策と連携したバリアフリー住宅化の推進と高齢者が安心して暮らせる環境づくりを図ること。また高齢社会を迎えるにあたって、セキュリティ(地域ボランティアもふくめた巡回サービス)や福祉サービスの水準を緊急に向上させること。
  5. 安心して子どもを生むことができるような環境づくり(住宅問題、労働保障などを含む)と児童手当、教育への援助措置を拡充すること。

14.住生活のレベルアップと生活重視型土地対策

  1. ゆとりと豊かさのある国民生活にとっては、なによりもまず最も重要な基盤である住生活のレベルを上げていくことが肝要である。このため、良質な住宅そのものの蓄積と安全で快適な住環境の整備を強力に推進することにより、居住水準の向上を図ること。さらに、良質な賃貸住宅が大量に供給されるよう制度の見直しや助成措置を講じてライフサイクルに応じて住宅選択の幅が拡大するよう整備すること。
  2. 住生活の充実を図るためには、地価を適正な水準に戻す対応策が求められる。権限を大幅に地方自治体に委譲して、都市計画法等により生活用地を確保し、地域に多様なライフステージの市民が住み続けることができる街づくりをすすめるなど、国民生活重視型の姿勢を鮮明にした土地対策を講じること。

15.政官財の癒着・腐敗をなくし清潔な政治・行政の確立と武力によらない国際貢献

  1. 政府の役人・政治家と民間業者との贈収賄事件や高級官僚による不祥事は、あとを絶っていない。KSD事件はその典型である。このような事態が続くと国民の政治家や行政への不信は強まり、ひいては日本の将来を危うくするもとになる。政治腐敗を招く根元である政党への企業献金・団体献金は禁止すること。政治・行政に対する国民の信頼を回復させるために、公務員倫理の確立と厳正な実行、高級官僚の関連業界への天下り禁止、国民への情報公開などについて、さらに真剣な努力を行うこと。
  2. 戦後日本の経済的繁栄は、日本国憲法のもとで平和裏に経済活動に専心できたことによってもたらされてきた。中小企業は平和な社会でのみ繁栄を続けることができる。これは世界共通の流れである。日本国憲法の平和理念は世界的な輝きを持っているから日本は武力によらない国際社会への貢献の道をもっと真剣に探求すること。

16.中小企業に関する統計・調査資料の整備と公開推進

 中小企業が果たすべき大きな役割に比較して中小企業の実態の諸側面を定量的に調査した各種統計の整備及び調査の公表が遅れているから速やかに改善すること。とくに労働経済、金融問題など中小企業の基礎的な指標の整備は緊急性を要している。また、中小企業白書に掲げられている調査資料には公表されないものが多い。これらの調査資料は、原則公表・公開へと改めること。