2005年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

2004年5月吉日
中小企業家同友会全国協議会 会長 赤石義博

はじめに

 私たち中小企業家同友会全国協議会[略称・中同協]は、1969年(昭和44年)設立以来、自助努力による経営の安定・発展と、中小企業をとりまく経営環境を是正することに努め、1973年(昭和48年)以降毎年、国の政策に対する要望・提言を、政府各機関とすべての政党および国会議員にお伝えし、懇談を積み重ねて参りました。

 日本経済は、昨年10月~12月のGDPが実質の年率換算6.4%成長を記録しました。しかし、名目では年率1.7%の成長であり、デフレータのマイナス値が大きくなっているためと考えられます。業況がよいのは輸出関連のデジタル関連大企業であり、2004年3月期に連結経常利益で最高益を見込む2割の上場企業が、全産業の経常利益の約6割を稼ぐといういびつな改善であって、一部の好調企業が牽引するものの、多くの企業は収益回復の足取りは鈍く、むしろ、二極分化が鮮明になってきたという構図です。大企業の輸出を中心とした景況の改善ぶりに比べると、中小企業の景況は遅れをとっています。

 この10数年間にアメリカやヨーロッパの先進諸国は経済社会における中小企業の果たす役割を的確に評価して中小企業重視へと政策転換を行っています。2000年にはEUが「欧州小企業憲章」(リスボン憲章)を採択し、「小企業は、ヨーロッパ経済のバックボーンである。主要な雇用の源であり、ビジネスの発想を育てる大地である」と宣言しています。また、OECDも同年に日本も参加して採択した「中小企業政策に関するボローニャ憲章」で、中小企業が普遍的な存在として重要であることを認識した政策を行うことを強調しています。

 私たちは、中小企業経営を支援する政策対応を強く要望するとともに、日本経済において地域に根ざした中小企業が果たしている役割を正当に評価し、従来型の補完的役割という政策比重の置き方を抜本的に転換させ、中小企業政策を産業政策の柱とする姿勢に転換する「中小企業憲章」の制定を提言するものです。その政策構想と行政への要望は、以下の「【1】、中小企業が求める経済社会の構想と中小企業家同友会の基本姿勢」で述べている通りです。

 これまで同友会は、産学官連携の実践など地域振興への寄与にも微力ながら一定の役割を果たして参りました。私たちは、自らの基本姿勢の確立に努め、中小企業家としての社会的責務を果たし、日本経済と中小企業が発展できる環境をつくるために日本での「中小企業憲章」制定をめざし、下記のような経営環境・金融環境を求め、行動するものです。関係各位のご協力、ご支援を要望します。

【1】中小企業が求める経済社会の構想と中小企業家同友会の基本姿勢

1.中小企業憲章の政策構想の柱―中小企業が求める経済社会の構想

  1. 日本経済が地球環境に配慮した持続可能な成長をめざす中で、景気回復と食糧自給率の向上等バランスのとれた経済を実現し、人間らしく豊かに暮らせる国民経済を充実させ、中小企業が国民とともに繁栄できる日本経済をめざすことです。
  2. 大企業中心の産業政策ではなく、中小企業重視を産業政策の中軸に据え、国民経済を積極的に支えていく存在として中小企業を位置づけることです。また、中小企業の取引・競争上の不利是正と不当な取引慣行の是正、健全な競争ルールが確立されることです。
  3. 企業の社会的責任を自覚し、健全な企業家精神を発揮して経営をしている中小企業の自助努力が生かされ、中小企業の自立的発展を促進するような経営環境を整備することを望みます。
  4. 国の権限や財源を自治体に委譲し、地方分権によって地域経済の活力を地域の中から築いていくことが出来るようにすることです。
  5. 産業空洞化をくい止めながらアジア各国と共存するためにも、日本の特性を生かした魅力ある地域づくりと地域産業起こし・仕事づくりを推進することです。
  6. 自然エネルギー関連産業など中小企業が参入可能な環境保全・自然再生型の産業システムの形成をめざすとともに、中小企業の知恵と人材を生かせる生活基盤整備・環境保全・自然再生・防災型の公共事業を拡大することです。
  7. 新しい時代の人づくりを積極的に行うこと。政府の唱える「人材大国」を実現するために、人間らしく育つための教育・人材育成環境の重視と生涯関わることのできる職業能力開発の基盤整備を進めることです。

2.「憲章」構想を実現するために行政へ望む事項と私たち中小企業家の決意

  1. 国・自治体は、産業と地域のバランスのとれた持続可能な新しい経済成長をめざし、その実現のための中心政策に中小企業政策・地域産業政策を位置づけること。
    ○私たち中小企業は、食・住・環境・福祉や潜在ニーズの大きい次世代マーケットを需要開拓する市場創造型企業づくりに挑戦し、「地域循環完結型経済」の拡大をめざします。
  2. 国・自治体は、中小企業の知恵と人材を生かせる環境保全・自然再生型の公共事業を拡大すること。
    ○私たち中小企業は、環境保全型企業づくり、地域づくりに挑戦し、市民・中小企業参加型の公共事業を促します。
  3. 国・自治体は、日本の富の源泉であるものづくり機能と製造業の再生を進めるとともに、有為の新しい企業が数多く生れてくる創業環境を整備すること。
    ○私たち中小企業は、産・官・学・市民・金融等の地域ネットワークづくりなど「新しい仕事づくり」や地域産業おこしに取り組み、自社の「第二創業」にも挑戦します。
  4. 国・自治体は、雇用維持・安定化に努める中小企業の教育活動や職業訓練、新卒採用への支援や中高年齢者の技能・スキルの活用など新時代の人づくりを強力に推進すること。
    ○私たち中小企業は、雇用維持・拡大に努めるとともに、共学・共育・共生の理念に基づき地域ぐるみの人材育成にも取り組み、学習型企業づくりに挑戦します。
  5. 国・自治体は、金融アセスメント法制定など中小企業が金融から排除されない円滑な資金供給と地域・中小企業にやさしい21世紀型金融システムの構築をめざすこと。
    ○私たち中小企業は、経営指針の確立など金融機関にあてにされる企業づくりに挑戦します。
  6. 国・自治体は、中小企業を納税者として尊重し、消費税増税でなく法人税の応能負担原則に基づく累進的多段階制の導入などで財源の確保をはかること。
    ○私たち中小企業は、納税者としての社会的責任を果し、税金の適正な使い方にも関心を持ち、発言・行動します。

3.中小企業家同友会の5つの基本姿勢・行動指針

  1. 私たちは、厳しい経営環境の中でも企業の継続発展に全力を尽くし、雇用確保と魅力ある企業づくりに取り組みます。今後の景気後退の嵐を乗り切る経営指針・戦略と社内体制の構築に総力を傾けつつ、大学や金融機関等との連携、行政施策活用などを積極的に進め、企業を守り、新しい市場創造に挑戦します。
  2. 私たちは、経営指針の確立と全社的実践に努力し、21世紀型企業((1)お客様や地域社会の期待に応えられる存在価値のある企業、(2)労使の信頼関係が確立され、士気の高い企業)づくりをめざします。特に、企業活動の「血液」である金融を確保するためにも、経営指針を通じて金融機関の理解を深めながら、地域での金融機関との連携を強化します。
  3. 私たちは、企業活動を通じて納税者としての社会的責任を果たすとともに、税金の適正な使い方や行政のあり方にも関心を持ち、提言・行動します。とりわけ、公共投資を従来型公共事業から、生活基盤整備・社会福祉・環境保全・防災重視の生活整備型・自然再生型の公共投資へ抜本的に転換させることを求めます。
  4. 私たちは、企業の社会的責任を自覚し、環境保全型社会づくりに取り組みます。環境負荷の少ない企業活動を実践するとともに、エコロジーとエコノミーの統一による仕事づくりや地域づくりを行政・市民団体等と協力しながら挑戦します。
  5. 私たちは、経営者自らの教育を含めた21世紀の最も貴重な資源である人づくりと次世代を担う若者が働くことに誇りを持てる職場と社会の環境づくりに努めます。

 以上の認識に基づいてここに政策要望・提言を提出する次第です。

【2】2005年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

1.新しい内需を喚起し、中小企業を活性化させる景気回復策を

  1. 従来型の公共事業から、生活基盤整備・社会福祉・環境保全・防災重視・自然再生型の公共投資へ抜本的に転換させること。特に、大震災に備えた防災対策事業を自治体と協力して以下の措置を強力に推し進めながら、防災を重視した住民参加のまちづくりを進め、中小企業の参加、仕事づくりにつながる事業とすること。(1)既存建築物の耐震診断を大規模に実施すること。関連して、耐震診断費と防災改修工事の助成措置及びセーフティローン斡旋制度の金利助成の拡充措置をはかること。(2)防災向けの耐震防災住宅の建設の研究と普及・支援を図ること。(3)都市防災不燃化事業の対象地域の拡大と個別住宅の防災不燃化を推進すること。(4)災害時の避難場所となっている学校施設などの耐震補強工事を緊急に全国一斉に実施すること。(5)防災対策と都市美観の向上、内需喚起のための電柱の地下埋設工事を推進すること。
  2. 公共発注機関の中小建設業への発注率を大幅に高めるとともに、公共事業を地域建設業者に重点的に発注すること。大型公共工事はできるだけ工種ごとに分離し、中小建設業の施工可能なものは地域中小建設業者に発注する措置をとること。地方公共団体等が地元企業に優先的に発注することは、地域経済の発展のためにも必要なことであり、納税者である地域住民の支持も得られ、自治体を経営する観点からも必要なことである。また、経済の一極集中の緩和にもつながる。
  3. 観光・余暇、教育、医療、安全性など人間の活動能力の発展をはかる社会的ニーズや防災対策、環境保全、高齢化・福祉、芸術・文化・スポーツ、地域づくりなど社会生活の中から新しい内需を誘発しようとする中小企業を戦略的に支援する地域産業政策を展開されたい。
  4. 中小企業が地域で取り組んでいる新規事業、事業転換、グループ化、ネットワーク化などのさまざまな「新しい仕事づくり」を有効な景気回復策として位置づけて、積極的に支援すること。国の産業クラスター政策は、これまでのような「上から」の産業政策の発想を転換し、文字通り「地域経済の実態を踏まえ、地に足がついた経済産業政策」としなければ、成果を期待できない。ハイテク産業のみに傾斜せず、地域に根ざした産業クラスター形成とするため、地域でよりオープンな計画への参加を促すものにすること。特に焦点となる人的能力開発とクラスター政策が連動することなど産業政策や地域政策、科学政策、教育政策などが連携する総合的理念と連携体制が求められている。
  5. 安心と活力のある少子高齢化社会をめざし、(1)移動入浴車やデイサービスの充実、在宅型介助機器の公的リース、老人施設・障害者施設のマンパワーの充実に努めること。(2)バリアフリー住宅化の推進や民間グループホーム建設への支援など高齢者が安心して暮らせる環境づくりを図ること。また、巡回サービスなどセキュリティや福祉サービスの水準を緊急に向上させること。バリアフリー住宅・福祉機器開発を行なっている中小企業への支援(開発促進、市場の開発)を行うこと。(3)中古住宅市場の整備など実物資産を有効活用した豊かな消費生活を実現すること。(4)良質な賃貸住宅が大量に供給されるよう制度の見直しや助成措置を講じてライフサイクルに応じて住宅選択の幅が拡大するよう整備すること。
  6. 高速道路料金別納制度の廃止は、中小運送業の経営を直撃する。現行の高速道路料金別納制度に代わる新制度の創設に当たっては、大企業など大口利用者だけに恩典を残して中小企業や中小企業組合が除外される制度でなく、中小企業も安価で容易に利用できる制度とすること。新制度の創設に当たっては、中小企業向けETC機器購入費用の公的購入助成措置を創設すること。
  7. 厚生年金保険料の引き上げは、中小企業の収益をさらに圧迫するので、保険料率の引き上げに反対する。正規安定雇用の推進など雇用政策の拡充とともに、巨額の積立金を計画的に取り崩して財源を確保するなど国民的な論議のもとに年金改革を進めること。
  8. 高病原性鳥インフルエンザにより打撃、影響を受ける関連中小企業に対し以下の機敏な対応をとること。(1)移動制限区域を問わず、発症した県内の生産業者と卸・小売業者等の影響について国の責任において実態調査を早急に実施すること。(2)養鶏・採卵業者等生産業者への補償と、養鶏・鶏卵等の卸・小売業者等に対する補償・低利融資を国の責任において行うこと。(3)セーフティネット保証が発動された場合、適用条件に「取引規模」の制限を設けないこと。例えば、米国産牛肉等の輸入停止措置に関するセーフティネット保証の場合、卸売・小売業者等では20%制限があって活用しにくい事例が多くあった。(4)「風評被害」の拡大防止のための正しい情報の伝達、周知徹底の広報活動を行うこと。京都では移動制限区域以外でも「京都産」というだけで取引を拒否されるなど、直接関係のない業種にまで少なからず影響が及んでいる。(5)鳥インフルエンザやBSEなどは日本だけでは解決できない問題であり、国際的連携による解決策を強めること。

2.市場創造と経済再活性化を支える税制

(1)最近の税制「改正」の動向と私たちの望む税制改正の方向

 長期の景気低迷から回復の兆しが見え始めた日本経済にとって、望まれる税制改正は、市場を創造し、経済を活性化することを目的とすべきである。しかし、近時の政府・与党による税制「改正」の方向は、景気回復の目的に全く逆行するものである。日本経済全体の景気回復のためには、回復の遅れが目立つ中小企業の負担軽減を図るべきところ、逆に、2004年度からは、消費税の免税水準の引き下げや簡易課税制度の縮小など中小事業者に対する消費税特例を縮小し、中小企業に対する課税を強化している。また、消費者販売の消費税内税化は、暗に将来の安易な消費税の税率引き上げを示唆して、事業者の将来予測を不安なものとし、経済活性化に水を差すものといえる。

 課税強化は、個人課税においても顕著で、所得税・個人住民税では配偶者特別控除廃止が実施され、加えて、2004年度の政府・与党の「次年度改正案」では、老年者控除の廃止、公的年金控除の引き下げ、個人住民税の均等割の増税などが打ち出されている。さらに2007年度には、年金財源の確保や国債発行残高を減らすために消費税の税率を引き上げが検討されている。また、住宅ローン控除の縮小・廃止、配偶者控除・扶養控除・特定扶養控除などにおける各種割増控除・生損保控除の廃止・縮小、給与所得控除の縮小、最低税率適用所得の引き下げ、定率減税の縮小・廃止等々、多くの国民に影響する増税が用意されている。

 景気を回復させるための最も重要な政策は、内需拡大のための施策、すなわち国民の懐を豊かにし、将来に不安がない国づくりをすることである。このような庶民増税は直ちに内需・消費経済の縮小をもたらし、景気を一層後退させる。税制改革は、政府税調の中期答申が示す庶民増税ではあってはならず、憲法の要請する応能負担原則に適う税制、すなわち、赤字法人や低所得者層に税負担を求めず、所得の規模に応じて超過累進的に負担を求める税制でなければならない。具体的には、所得(利益)の大きさと無関係に課税する消費税や、外形標準課税による事業税を基幹税としないこと、所得税・個人住民税の課税最低限を引き上げるとともに、所得税の税率を10%から50%の超過累進税率構造とすること、また法人税についても15%から40%の超過累進税率を採用すること等が必要である。

 なお、それでも税収が不足するときは、現存する不公平税制・各種優遇措置を廃止するとともに、社会保障費や国民経済に必要な経費以外の歳出を可能な限り圧縮すべきである。そして、国民が安心して老後を迎えることができる福祉国家を建設することが肝要であると考える。

(2)法人税のあり方について

  1. 留保金課税の停止・・・厳しい金融環境の中で内部留保の積み増しを行わなければ資金繰りが困難になる状況では中小企業への適用を全面的に停止すべきだと要求していた留保金課税は、2003年度から3年間、資本金が1億円以下で自己資本比率が50%以下の中小法人に適用が停止された。このことは、私たちの要望を満たしたことになるが、昨年の留保税額の5%削減という緩和措置が1年で廃止されるというような朝令暮改の税制では安心して経営を進められない。とりわけ内部留保の積み増しに関する経営の根本に関わる問題であるので、時限措置でなく恒久的な法人税法として明確にすべきである。
  2. 政策減税=租税特別措置法の整理縮小・・・2003年度の景気刺激策として試験研究費を中心に減税策が作られた。中小企業への配慮はされているが、需要を作り消費を喚起する本質的な景気刺激に程遠いだけでなく一層税制を歪めるものになっている。将来の景気回復時に税収の大幅な改善を図るためにも、政策的税制を整理縮小(租税特別措置法の整理縮小)し、税収確保の筋道をつけるべきである。今議論されている「負担軽減措置法」は、内容をよく吟味する必要はあるが、所得税の定率減税廃止論議と同様な拙速の議論で中小企業への軽減税率の廃止はすべきではない。
  3. 累進税率の導入・・・深刻な歳入欠陥、税収不足の中で国際競争力を理由に法人税率の一層の引き下げが叫ばれている。しかし、現在の税収不足は、不況のみを原因とするのではなく、法人の規模、所得による担税力を考慮せず、一律に法人税率を引き下げてきたことが大きく影響している。累進税率を提案する理由は、財源確保ということだけでなく負担すべき能力のある企業が財政上の負担をするという社会的な要請として考えなければならない。応能負担原則は法人税においても実現すべき原則であり、次のような累進税率の導入を提言する。すなわち、所得1500万円まで15%(資本金1億円未満)、所得5000万円まで25%、所得5億円まで34.5%、所得5億円以上40%。ただし、個人にたいして法人が相対的に有利になることを是正するために、現行の法人税を個人事業も対象に含めた企業税(仮称)に改めることも税率と合わせて検討すること。なお、このような累進税率を導入した場合でも、財政にたいしては中立すなわち増減税ゼロになる。
  4. 連結付加税の廃止について・・・2003年3月期の決算で連結納税によって採用企業134グループの個別所得9,287億円が325億円になり2700億円も減税になっている。現今の歳入欠陥に鑑み連結付加税の廃止をやめるべきである。
  5. 交際費課税の全額損金算入・・・交際費課税については、2003年度改正から中小企業(資本金5000万円超1億円以下の法人)の損金不算入制度の定額控除額が0円から400万円に引き上げられた。さらに、定額控除までの金額に対し、20%が損金不算入だったものが10%に負担軽減された。この措置は、私たちの要望にも一定応えたものであり、中小企業の実態に合わせて一定の改善として評価できるが、中小企業の交際費損金算入枠は、本来の「全額損金算入」に戻すべきである。さらに、交際費の範囲を明確にして、中小企業の経営の実態に即した交際費課税になるように改善を図るべきである。

(3)消費税について

  1. 消費税の税率引き上げに反対する
    消費税は法的に価格への転嫁の保証がなく、転嫁関係が極めて不透明な間接税であるので仮に完全転嫁ができなくても事業者に納税義務が生じる。そのため、国税滞納額中に占める消費税の割合は最も高くなっている。消費税は法人税と異なり、赤字企業であっても納税義務が生じるため、5%の税率でも経済取引上で不利な中小事業者にとって最も負担感の大きい税制である。これが10%になり、やがて18%になれば、その納税に耐えられず倒産する中小企業が多発し、景気を一層後退させる。
  2. 中小事業者特例の縮小を撤回すること
    2004年度から事業者免税水準を3,000万円から1,000万円に、簡易課税の適用上限を2億円から5,000万円に引き下げられた。免税水準の引き下げにより、売上高1,000万円から3,000万円以下の零細事業者、約140万事業者が新たに強制的課税事業者に取り込まれる。これらの零細事業者は価格への転嫁能力が弱いため、一層、消費税の滞納が増加する。また、簡易課税制度の縮小により、これまで簡易課税制度の選択をしていた約56万事業者が強制的に原則課税に取り込まれる。これらの事業者は帳簿・書類の記載・保存義務が強化されるばかりか、消費税の納税額が急増することとなる。
    政府税調は、中小事業者特例の縮小により消費税の信頼性・透明性が向上したというが、新たに課税事業者となる零細事業者が簡易課税を選択するため、簡易課税制度の選択適用者数と納税義務者数に占める割合が増加するため、かえって透明性は低くなる。
    一方、中小事業者特例の縮小により、完全転嫁ができない中小事業者が課税事業者に取り込まれたり、簡易課税の選択適用ができないため納税額が急増する中小事業者が生れる。これは、ストレートに景気後退につながるので2004年度から実施予定の中小事業者特例の縮小を撤回すべきである。
  3. 消費税の内税化を撤回すること
    2004年4月から、消費者に対する商品販売・役務の提供を行う事業者は「総額表示方式(内税)」で表示することが義務付けられる。内税化は事業者に価格付け替え作業等の経済的・物理的負担をもたらすとともに、消費税を一層見えにくく不透明なものとする。内税化の狙いは、消費税を見えにくくし、容易に税率の引き上げが行える環境をつくることにある。消費税の内税化は撤回すべきである。

(4)所得課税について

  1. 老年者控除・公的年金控除の廃止・縮小に反対する。
    2004年度の税制改正案で、老年者控除の廃止、公的年金控除の引き下げを行うとしているが、現行の老年者控除は所得1,000万円以下の者に対し50万円の所得控除が認められるものである。したがって、増税となるのは所得1,000万円以下の者に限られ、所得1,000万円超の高齢者はもともと適用がないため増税とならない。また、65歳以上の者に対する公的年金控除については、現行定額控除140万円を120万円に引き下げるという。そのため、65歳以上で公的年金を120万円以上受給している者は全て増税の対象となる。老年者控除の廃止および公的年金控除の縮小の対象となる高齢者は、およそ数百万人にのぼる。そのため、これらの者の可処分所得が減少し、内需はますます冷え込むので老年者控除・公的年金控除の廃止・縮小に反対する。
  2. 個人住民税の増税に反対する。
    2004年度の税制改正案では個人住民税の均等割を一律4,000円にするとともに、妻の均等割免除制度を廃止しようとしている。現行の個人住民税の均等割額は、都道付県民税分が一律1,000円のほか、人口規模により、2,000円、2,500円、3,000円となっている。これを一律3,000円(合計4,000円)にするという。また現在、妻は所得の有無に限らず均等割りは免除されているが、これを一定の所得以上の妻に対し均等割を課税するとしている。注意しなければならないのは、2004年度における個人住民税の増税案は、ほんの入口であり、均等割を2倍程度に引き上げる案や、税率を10%の比例税率にする案が控えている。政府・与党は、いわゆる「三位一体論」により、地方税の充実をいうが、増税のターゲットになるのは中・低所得者層であり、これらの人々の可処分所得が減少すれば、消費が冷え込み、景気が一段と低迷することとなるので個人住民税の増税に反対する。
  3. 給与所得者を中心とする所得税・個人住民税の課税最低限引き下げに反対する。
    すでに2004年度から配偶者特別控除(専業主婦控除)が廃止となっている。政府税調はこのあと、配偶者控除、扶養控除、特定扶養控除などの各種割増人的控除、生損保控除、社会保険料控除、給与所得控除、定率減税等の廃止・縮小を行い、課税最低限の大幅引き下げを狙っている。他に、最低税率適用所得の範囲を引き下げる等、主として中・低所得者層に所得税の負担増を求めようとしている。所得税における諸控除等の廃止・縮小による課税最低限の引き下げは、そのまま個人住民税の増税につながり、国内消費を冷やし景気を一層低後退させることとなるので、所得税・個人住民税の課税最低限引き下げに反対する。

(5)中小企業の事業承継について

 2003年度の税制改正において、生前贈与の円滑化に資するため相続税・贈与税の一体化の措置を導入、あわせて、相続税の最高税率の引き下げを含む税率構造の見直しがなされた。この相続税・贈与税の一体化の措置は中小企業の事業承継を円滑に行う上で有効なものと考える。しかし、税率構造の見直しについては最高税率(70%)で課税されている相続は10件ほどに過ぎず、ごく少数の資産家に限られていた。個人所得税を補完し、富の再分配を図り社会の公正化・活性化を促進するという相続税の役割からすれば、改正前の累進税率を維持すべきである。

 また、2003年6月の政府税調答申「少子高齢社会における税制のあり方」では、今後の検討課題として「高齢者を取り巻く状況を見ると、近年、現役世代の負担を伴う社会保障給付が充実し、個々人が主に家族で老後扶養の負担を担う形態から、より社会全体で老後扶養の負担を支えるようになってきている」とし、「従来より広い範囲に適切な税負担を求めるねらいから、課税ベースの拡大に引き続き取り組む必要がある」としている。富の再分配機能のためにはこれ以上課税ベースを拡大すべきではなく、累進税率を引き下げることによる税収減は、課税最低限を下げ課税ベースを拡大することによる増収でカバーすることはとてもできない。社会保障給付の削減など社会保障制度が後退している現状のもと、むしろ現行の基礎控除を大幅に引き上げ、一定水準の資産家に限定して課税すべきである。さらにアメリカの1997年度税制改正に習い、わが国においても中小企業の事業承継が円滑に行われ日本経済の健全な発展に寄与出来るよう抜本的な相続税の改革が必要である。

  1. 相続税の基礎控除を1億円程度に引き上げること。
    政府税調は中期答申で「平成10年では死亡者100人当たり約5人(5.3%)」が対象になっているといっているが、高度成長によって地価が騰貴する前の昭和30年代は100件の相続事例のうち相続税の対象になるのはわずか1件(課税対象割合1%)。その後、地価高騰により相続税の対象となる割合が著しく増大した。富の再分配を必要とする一部の資産家に対する税である相続税を本来の姿に戻すためにも基礎控除を1億円程度に大幅に引き上げること。
  2. 事業用資産については、事業を承継するという条件の下で事業承継猶予制度を設けて10年以上事業を承継した場合一定額を免除すること。
    事業承継は、事業自体の存続を前提にするから取引価額で資産を評価すること自体が問題である。事業用資産については、事業を継承するという条件の下で以下のような事業承継猶予制度を設けること。
    イ)事業用資産については通常の評価額とは別に「事業承継価額」で評価する。
    ロ)事業承継者は事業用資産を「事業承継評価額」で評価した税額を納付し、通常の評価額で評価した場合の税額との差額は猶予される。
    ハ)10年以内に事業を廃止した場合は当該差額を納付する。
    ニ)10年以上事業を承継した場合には当該差額を免除する。
    上記中期答申では、農地に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例は、農業政策の視点から、法律上、その利用・転用・譲渡が厳格に制限されていることなどから認められているとしているが、中小企業の事業承継にもこのような制度が必要である。なお、アメリカやドイツでは5年~10年の事業継続を条件とした事業承継制度を導入している。
  3. 自社株式評価には企業の利益水準をベースにした収益還元方式による評価方法を導入すること。
    株式評価については、自社株式は流通性がなく資金化が困難であることに加えて企業の存続を前提にすると、企業の利益水準に基づいた収益還元方式による評価が適切である。純資産価額方式の評価において、土地の評価は上記の「事業承継価額」とすることが、収益還元方式へ移行するまでの経過措置として残されている。

(6)地方税制について

  1. 外形標準課税の導入中止・・・商工団体の反対運動の中で、課税標準を付加価値だけでなく所得割や資本割りとしたり、資本金1億円超の法人に限定し一定の緩和措置をとっているが、イ)担税力のない赤字法人にも大きな負担を強い、中小企業の7割に達する欠損法人に深刻な問題をもたらす、ロ)報酬給与額などを課税標準とする「賃金課税」であり、企業の人的投資を妨げて雇用抑制する、ハ)規模が小さい法人ほど税負担倍率が大きくなり黒字法人でもほとんどが大増税になる。従って、不況をさらに深刻にし、日本経済の活力削減につながるなど、重大な欠陥がある税制であるので導入を中止すること。まして、対象企業を資本金1億円以下に拡大することは絶対あってはならない。
  2. 固定資産税・都市計画税は担税能力に応じた方式に・・・固定資産税の地価公示価格に連動した評価は、多くの訴訟や自治体の反対決議に見られるように連年の地価下落の状況にもかかわらず税額が増額するなど非現実的である。長期不況のなかで産業界からも税負担の重さに軽減の要望が出ている。固定資産税の担税力はその固定資産の活用によってもたらされるものであるから、売買時価を基準とするのではなく収益還元による評価方式に徹底すること。さらに、都市居住・営業が確保されるためには都市計画と結びついた適切な軽減措置をとること。また、都市計画財源のために徴収されている都市計画税の存在意義を明確にして適切な都市計画財源として企業の経営環境確保のための都市形成に使用すること。

(7)税務行政手続規定の設備充実について

  1. 税務行政の公正の確保と透明性の向上を図るために、税務行政手続の設備充実に向けて、全面的な見直しが必要であり速やかな実現を要望する。すでに先進諸外国では「納税者権利憲章」が制定されており国際化に対応した法制化が必要である。
  2. パブリック・コメント制度について・・・規制緩和の一環として総務省は国民にあてて各省庁が行う規制の制定又は改廃にかかる意見照会手続(パブリック・コメント制度)について意見照会を行い実施している。したがって、税務行政における政令、省令、通達はパブリック・コメント制度の対象に入れるべきである。
  3. 租税法規の解釈に関する事前表明手続(アドバンス・ルーリング、クロージング・アグリーメント)を制度化すること。
  4. 文章による調査の事前通知、理由開示及び終了通知を徹底すること。
  5. 電子申告・納税制度(e-Tax)が2004年には全国で実施されるが、多くの国民が始めて体験する制度であり、仕組みの理解と手続きにかかる納税者の負担は大きい。納税申告は納税者のプライバシーそのものであり、高度なセキュリティー対策が必要である。そのためには、第三者機関を設置するなどの法的拘束力をもった高度なセキュリティー対策を講ずる必要がある。また、利用者意識番号(ID)は全国どこに納税地が異動しても変わらないため、新たな番号制の導入ともいえる。

(8)納税者番号制度について

 現在、導入に向け俎上にある納税者番号制度は、個人情報に関連する大がかりな制度であることから、個人のプライバシーの保護と厳格な各種の制度が必要であるが、これらの問題が十分検討されていない上、周辺法整備も不充分であり、納税者の理解も得られていないので採用すべきでない。「住基ネット」の住民票コードの利用は行わないこと。

(9)税の使途に関する情報公開

 納税者としての社会的責任がある立場から、租税収入の中身と租税の使途、予算、決算の対比を正確に知る権利がある。単年度会計制度の弊害として、公共事業費、防衛関係費等の後年度負担と消化主義がある。企業会計と同じく発生主義による複式簿記会計方式及び財産目録の明示、または後年度負担項目については脚注に詳述すべきである。財政公開は憲法91条に定められていることからも、国の財政情報を制度的に整備すること。

(10)低金利国債への借り換えと累増にストップを

 税収、国債発行額ともに戦後最悪の水準で推移し、国債依存度は44.6%、国と地方の長期債務残高は789兆円で国内総生産(GDP)の1.6倍にもなり、欧米諸国に例のない水準となっている。利率の最高は3.3%、加重平均で2.68%だが、公定歩合が0.1%という超低金利の時期にあっては、「国債規則」に基づき、低利借り換えで利払いを圧縮すること。また、不要・不急の大型公共工事を凍結し、抜本的に見直すこと。

3.円滑な資金供給と中小企業・地域に優しい金融システムの構築を

  1. 円滑な資金需給や利用者利便などの視点から金融機関の活動を評価・公開する金融アセスメント制度、「地域と中小企業の金融環境を活性化させる法律案」(仮称)を法制化すること。2004年度から金融庁の中小・地域金融機関の監督指針に「地域貢献」等が新たな評価項目として盛り込まれたことが注目されるが、地域貢献を「利用者の立場から適切に評価できる」ためには、利用者が金融機関を比較対照できるように情報公開がされる必要があり、共通して公開される項目が設定されて客観的な評価が可能にならなければならない。当面、金融庁は金融機関から集めた情報を比較可能な一覧性のある形でわかりやすくホームページで公開すること。
  2. 参加型金融行政をより推進するため、円滑な資金供給など地域貢献で努力する金融機関の寄与の程度を評価し、その適切な情報を利用者の立場から公開するNPO等の第三者評価機関を認定し登録する制度を設けること。
  3. ペイオフ解禁は、中小企業にかかわりの深い地域金融機関の預金の流失を促進させ、中小企業への資金パイプを狭め、地域金融機関の存立を危うくする懸念がある。2005年からペイオフ完全解禁が予定されているが、預金保険法によるペイオフ発動の実効猶予措置を直ちに宣言すること。
  4. 貸し渋り・貸し剥がしが横行する金融環境の中で、制度融資・信用保証制度は中小企業にとって大きなよりどころとなっており、その充実のため次の措置をとること。
    1. 2001年3月まで実施された「特別信用保証制度」の一部を変更し、これまでに返済した金額の範囲内で当該企業への再融資を認める制度を創設すること。
    2. 保証料率が引き上げられたが、保証料免除措置の導入を検討すること。また、連帯保証人の要らない制度融資の拡充を進めること。
    3. 不動産担保に代わる担保制度(在庫等を担保に設定)や知的財産を活用した資金調達のため、評価手法の確立など早期の制度実現や活用の促進を図ること。
  5. 不良債権早期処理の中小企業への影響を最小限に抑えるため、次の措置をとること。
    1. 不良債権問題への金融機関の対応では、借り手企業の経営健全化への支援、債務者区分のランクアップ支援を第一義とすること。中小企業支援のための金利減免や返済猶予をする場合、貸出債権の債務者区分の格下げをしないこと。事務ガイドラインの一部改正により、貸出条件変更と貸出条件緩和債権の区別が示されたが、さらに条件を緩和すること。
    2. 倒産防止共済制度は、共済金の貸付の償還期間を5年から10年に延長すること。また、共済の口座を設けている当該金融機関に延滞がある場合、共済金貸付と他の貸付が強制的に相殺されている。国として差押禁止条項を設けるなど制度の機能の確保につとめること。
    3. 中小企業が倒産した場合、個人の最低限の財産保障と再起できる条件を整備するため、破産法の改正など個人保証の有限責任化を進めること。当面、小規模企業共済制度を加入資格要件(従業員二十名以下等)の緩和などの拡充をはかること。
  6. 「金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編」改訂は融資と検査の現場の裁量を拡充するものとして評価するが当面、画一的に財務内容のみで判断するのでなく、中小企業に適した別途の金融検査マニュアルを作成すること。また、自己資本比率算出での中小企業貸出リスクウェイトを引き下げること。例えば、中小企業の不動産担保部分を住宅ローン同様に50%に下げるなど。
  7. 激甚災害指定地域で主に営業する地域金融機関に対して、災害の影響から地域経済が立ち直るまでの一定期間は金融検査マニュアル等の適用・検査を行わない特例措置を設けること。災害時に地域金融機関が公共性を発揮することは社会的要請であるが、当該地域の債務者の経営再建・支援などに取り組む場合、被災企業の担保価値が目減りする中で元本返済猶予などの対応が機械的に貸出条件緩和債権とみなされて引当金を積み増しすることは、社会貢献に努力する金融機関のリスクを高めるという本末転倒の事態をまねく。当該金融機関の特例を認めるとともに、むしろ支援すべきである。
  8. 画一的規制の弊害の著しい国際決済銀行(BIS)の自己資本比率規制の撤廃を日本は主導すること。日本国内では二~三年の計画で自己資本比率規制を廃止し、同時に金融検査マニュアル及び同マニュアル別冊も廃止すること。金融機関の自主的な自己査定を尊重する行政に転換すること。
  9. 中小企業金融におけるデット・デット・スワップ(DDS)やコベナンツ(財務制限条項)の活用では、経営支援・事業再生のテコとして中小企業経営の実態にそくしたものとなるよう指導すること。特にコベナンツ融資は、貸出契約書の中に純資産額維持条項や格付け維持条項、利益維持条項などコベナンツ(遵守条項)と呼ばれるさまざまな指標を設定し、それに抵触したとき、企業が何らかのペナルティを課されるという貸出方法であるが、中小企業経営ではコベナンツの設定や運用を誤ると経営の自由度を失い、保守的な経営に埋没してしまう危険がある。これを逆転して、何らかの経営目標・指標を設定し、それを達成したら、貸出金利を下げるなど経営支援の誘導となるような手法を開発することが求められる。
  10. 中小企業金融公庫法の一部を改正し、中小企業に対する無担保・第三者保証なし等の貸出を促進するため、金融機関やファイナンス会社等の中小企業向けの貸出債権等の証券化を支援する業務を追加するが、民間金融機関の不良債権のオフバランス化が優先され、中小企業金融公庫の経営弱体化を招かないようにすること。また、中小企業総合事業団の中小企業信用保険等業務を中小公庫に移管するにあたっては、信用保証制度と信用保証理念が後退しないように努めること。

4.透明で公正な市場のルールをつくり取引を適正化する公正競争の確立

  1. いわゆる「談合問題」を契機に公共工事の入札制度が改革され、電子競争入札が導入されつつあるが、予定価格よりも大幅なダンピングで、最低制限価格を割る業者に落札しているケースが生れており、下請業者にしわ寄せされて品質や安全管理でも不安が生じている。すべて公共発注機関の入札制度の改善のため、下記の提案事項に沿って国の指導を徹底すること。
    1. 「ゾンビゼネコン」といわれる金融機関から債務免除を受け、体力を回復して建築市場で安値受注競争を引き起こしている企業に、一定のペナルティを与え、債務免除を受けてから一定期間の入札への参加を認めないよう指導すること。
    2. 予定価格から大幅にダンピングした最低制限価格を割る業者の工事については、その業者の経営、工事に関する審査を厳正に行うこと。その審査基準を公開するとともに、契約不履行や品質・安全管理、下請管理、賃金の支払状況など工事後の評価も公表するよう指導すること。
    3. 最低制限価格を堅持し、予定価格の90%程度に引き上げるよう努力すること。公共工事の品質を確保し、雇用の確保と技術の向上、中小建設業の倒産を防ぐための「適正価格発注」の閣議決定を遵守するよう徹底すること。
  2. 2003年12月に答申された総合規制改革会議の「規制改革の推進に関する第3次答申」(以下、「答申」)、及び2004年3月に閣議決定された「規制改革・民間開放推進3ヵ年計画」(以下、「計画」)は、ダンピングを防止し受注機会を促す要素もあるが、官公需の分野での行き過ぎた競争政策により、官公需法や官公需施策を後退させ、骨抜きにする可能性がある。次の諸点をふまえた計画とすること。
    1. 「答申」は、官公需法に基づく「中小企業者向け契約目標が中小企業者の受注の『機会』のみならず『結果』の確保になっているおそれがある」とし、「計画」でも「官公需施策・中小企業者向け契約目標の数値設定の在り方の見直し」を指摘している。しかし、結果の伴わない単なる機会の確保であるならば、官公需法が有名無実の法律になってしまい、官公需法の目的を達し得ないものとなる。官公需法制定時の衆議院の付帯決議でも「官公需契約の総発注量に占める中小企業者の割合等を明示すること」としており、当然結果をもとめるものと解釈される。
    2. 「答申」及び「計画」は、分割発注の基準作成と理由の公表などを求め抑制的であり、経済合理性のない分割発注の禁止などを答申している。しかし、中小企業の受注機会を確保するためには、分離・分割発注を推進していくことが重要である。大企業は、受注してもその多くは中小企業へ下請発注しているのが実態である。大企業への一括発注は、発注者にとっては便利であるものの税金によって賄われる官公需が効率的に、しかも地域経済、雇用の拡大など生きた発注として行われるためには、今後とも分離・分割発注を推進し、やる気のある中小企業を育成する方向を堅持・推進することが必要である。
    3. 多数の地方公共団体は官公需発注に当たって地域要件を設定している。「答申」及び「計画」は、地域要件を「過度に競争性を低下させる」としているが、これは地方自治の尊重に反するものととられかねない。地方自治体が地元業者に対して発注することは、県・市町村民税を徴収して地元・納税者に還元するため、また地域産業の振興育成のために、ごく当り前のことである。納税者である地域住民の支持も得られ、自治体を経営する観点からも必要なことである。地域要件の設定では、国は介入せず、地方に方針を任せるべきである。
    4. 「答申」及び「計画」では、ランク制は競争制限的な効果を生ずる原因となり、その運用改善に取り組むべきとしている。ランク制は、同ランクの企業の公正な競争を促す制度であり、官公需施策の重要な柱である。工事については、現行の5ランク(A~E)を厳格に守るべきと考える。物品・役務については、現在よりもきめ細かいランクを設定することが有効である。ランク制の運用では、経営革新法の認定やISOを取得した中小企業の新規参入が容易となるよう、実績重視の入札要件の緩和をすることも重要である。
    5. 一般競争入札は、ダンピング受注の増大や公共工事の品質の低下をもたらす恐れがあり反対である。価格競争のみに重点をおいた一般競争入札の拡大は、大企業など価格競争力のある企業に受注が集中したり、不良・不適格業者が参入するなどダンピングの弊害をもたらす。しかも、このような案件では、大企業から下請法を無視した押し付け的な超低価格で下請に出されるケースが多く、地域振興や中小企業の健全な育成支援を阻害する要因となりかねない。公正取引委員会は、採算を度外視したいわゆるダンピングについては、独禁法上の「不当廉売」として捉え、厳正に対処するべきである。
  3. 市場の歪みを「市場原理の尊重」下で是正するには中小企業の市場参入の機会が公平に保証されなければならない。それには中小企業に不当な不利益を与える不公正取引に対して市場のルールを守るべく厳正・迅速な政策的対応が不可欠である。そのために、(1)独占禁止法の「厳格な運用」と新たな強化をはかり、遵守させること。(2)公正取引委員会の権限の強化と司法機能の強化および独禁法の私訴規定のさらなる充実を図って、ルール違反防止と不公正取引の是正・防止を厳正に実施すること。(3)経済産業省設置法でうたっている「市場における経済取引に係る準則の整備」を取引適正化のために行うこと。
  4. 急成長する中国経済にあおられ、世界的に原材料需給がひっ迫し、価格が高騰している。鉄鋼材など世界的な原材料価格上昇は中長期にわたると見られ、大手資源会社の寡占化による価格交渉圧力の上昇などもあり、中小企業にとって原材料確保の困難や購入価格の上昇など重大な問題を及ぼしつつある。政府として、緊急に調達のための対応策をとること。また、売り惜しみ、買い占め及び便乗値上げを防ぐための原材料価格の価格需給動向について調査・監視を強めること。
  5. 公正な取引の視点から以下の3点について取引条件の確立を図ること。当面、2003年に改正された下請二法の適正な運用に努めること。
    1. 海外展開、低価格等を理由にした中小企業への一方的な発注の停止、大幅削減、取消、買いたたき、取引条件の変更などの不公正取引の実態を自治体と共同して正確に調査すること。その上で不公正取引発生にたいする適正化措置として、データの公表(企業名公表)を含む情報公開等の緊急対応体制と相談体制の整備を図ること。
    2. 公正取引委員会は、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法などの法律に沿って下請取引の実態を調査・監視し、強力に指導して健全な取引環境づくりに努めること。
    3. 独禁法の「優越的地位濫用」による「下請いじめ」規制を発動できるように整備すること。特に、下請企業から声を上げないと調査が入らないシステムを改めて、第三者と当事者を組み合わせた監視システムをつくること。また、下請企業は親企業の発注に対応した生産設備・人員を抱え、簡単に転換することができないので継続的下請取引の一方的解除に歯止めをかけることができる措置をとること。
  6. 金型取引の図面・データ流出問題は、経済産業省より「金型図面や金型加工データの意図せざる流出の防止に関する指針」が出され、下請ニ法の一部改正などにより改善が期待されるところであるが、経済産業省の調査によっても、「金型図面やノウハウの流出はかなり改善されたが、契約による知的財産の保護は進展はあるが不十分という結果となった」と報告されている。金型取引に対しては、不正競争防止法上の「不正競争」や独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に該当する可能性のある案件に対しては厳正な適用を行うこと。
  7. 公正取引委員会は、2001年に『金融機関と企業の取引慣行に関する調査報告書』を公表しているが、その中では調査結果をふまえて「独占禁止法上の考え方」を整理し、金融機関のいかなる行為が独占禁止法の問題になるかを示している。これをふまえ、金融庁から「与信取引に関する顧客への説明態勢及び相談苦情処理機能に関する新しい監督指針」が出され、「優越的地位の濫用等不公正取引と誤認されかねない説明を防止する態勢が整備されているか」などの指針が盛り込まれた。公正取引委員会は、これをさらに補強するため、金融機関と融資先中小企業との歪んだ取引慣行を是正する「ガイドライン」の作成、行動指針的なルールづくりを行うこと。
  8. 金融機関が自らの「資金回収」のため、民事再生手続きにある会社に優先的に仕事をまわすことを融資条件とすることは優越的地位の濫用であり、やめさせること。また最近、金融機関はさまざまな手数料を数倍に一方的に値上げしているが、その根拠が不明確であり、貸し手の優越的地位の濫用である。公正取引委員会及び金融庁は、ただちに調査し、必要な措置をとること。
  9. 2003年10月、法務省民事局参事官室より「会社法制の現代化に関する要綱試案」が公表されているが、中小企業経営の立場から以下の点を提言する。
    1. 会社法制の総論部分に中小企業の位置づけに関する基本理念を明示すること。中小企業を日本経済の基盤と位置づけ、国民生活を支え雇用を担う存在として中小企業を支援・育成していくという基本理念を会社法制に据えるべきである。
    2. 株式会社の最低資本金制度は300万円とすること。社会の公器たるべき会社の道義的責任、企業存続の責任を表すものとして、一定の水準の資本金を用意すべきと考える。したがって、会社設立時における払込価額は株式会社についても、現行の有限会社と同額の300万円を支持する。
    3. 譲渡制限会社における取締役の任期及び人数については、会社運営の健全性を確保する必要な人数、取締役会という会議体を構成するのに必要な人数として現行どおり3名でよいが、名義的なものでなく、実質的に責任を負う体制が求められる。取締役の任期は、適格、不適格を見極めて随時交替できるようにし、任期の制限は設けない。取締役の任務懈怠責任は現行どおりでよい。
    4. 決算公示は会社の自主的判断すべきであり、義務づけを廃止すること。また、公示する場合の計算書類の範囲は、貸借対照表もしくはその要旨のみでよい。
    5. 税理士法の改正で、書面添付制度が導入されたが、書面添付に係る税理士の行為は、申告書作成目的に基づく適正性であり、計算書類そのものの適正性を担保するものではない。したがって、公開される計算書類の適正担保制度は、公認会計士の監査対象となる会社に限定すべきである。

5.中小企業が活躍できる環境保全型・自然再生型の持続可能な社会システム構築

(1)環境保全・自然再生型公共事業の拡大と小規模分散型産業の推進

  1. 中小企業の知恵と人材が活かせる環境保全・自然再生型の公共事業を拡大すること。イ)コンクリートによる河川護岸工事を中止し、自然再生型の川づくりを進め、自然を復活させること。ロ)太陽光や風力、バイオマス等の自然エネルギービジネスに挑戦する中小企業を新しいタイプの公共事業に活用すること。ハ)地域の防災や雇用に貢献する地域分散型エネルギーシステムづくりやリサイクルの推進に努めること。
  2. 自然エネルギーや文化的資源など地域の固有資源の産業化・事業化に取り組む中小企業を産官学民(市民)・金融の連携で支援すること。このような新しい時代の市場創造は、環境保全、地域づくり、人づくりなど多角的な経済的波及効果を期待できる。

(2)地球温暖化・エネルギー問題

  1. エネルギー消費の削減では、省エネ効率の高い製品の使用や、生産設備への移行を促す誘導政策とともに、流通システムや都市づくり、ライフスタイルなどエネルギー大量消費型社会となっている現状を見直し、地域分散型エネルギー政策への転換を強めること。
  2. 太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電事業促進のための技術開発や助成制度の拡充と、電力メーカーによって自然エネルギーによる電力が安定的に買い取られるような仕組みを創設して、自然エネルギー発電事業に長期的視点で安心して取り組めるような誘発施策を行うこと。なお、「グリーン電力」制度の実施にあたっては、当該電力会社が、どのような自然エネルギー導入目標を定め、実際に自然エネルギー発電推進のためにどのような投資を行ったか、など消費者が判断可能になるように情報公開を行うこと。また、原子力発電所については、安全性や放射性廃棄物処理等において未解決の問題が大きいことを考慮して、可能な限り原子力発電に頼らない方向をめざすこと。
  3. 自動車NOx・PM法改正に伴う中小企業の環境対策に係る取り組みを支援するための資金供給を円滑化するため、中小公庫の自動車の買い替え資金に対応した融資制度において、50%(8千万円を限度とする)まで担保を免除する制度を本年4月より創設し、本融資の利用に当たり自動車を担保として積極的に活用するよう運用を見直した。中小運送業者への周知と利用者の意見を聴取してより利用しやすい制度とすること。

(3)リサイクル・廃棄物処理問題

 循環型社会形成を目指す一連のリサイクル法の実施にあたっては、一部中小企業に過度の負担とならないよう、生産から流通、消費、リサイクルの各段階でそれぞれにふさわしい適正コストを負担するシステムづくりへの見直しを行うこと。また、このようなシステムづくりにあたっては、リサイクルしやすい製品作りや製品の長寿命化、廃棄物の発生抑制に働くようにすること。なお、中古家電のリユース(再利用)を促進するシステムを整えること。

(4)小規模分散・地域密着型環境ビジネスの育成と環境共生型企業への支援

 環境保全型の製品開発や、ISO9000、ISO14000の取得、環境保全対策の推進など環境共生型企業づくりを進めている中小企業に対しては、技術開発や設備投資資金、さらには既存技術を組み合わせたシステムづくりについても積極的に支援すること。環境に配慮した製品の育成・需要喚起のために、イ)リサイクル品の品質保証を行なう規格の整備、ロ)リサイクル品を事実上閉め出している既存の規格・慣行の見直し、ハ)環境に配慮した製品の競争力を高めるための資源大量消費型製品へのペナルティ(制裁金)などの措置を講じること。また、地域内資源循環や、究極的に廃棄物をなくすゼロエミッション型環境ビジネスを推進する地域ネットワークづくりを支援すること。

(5)地球環境保全と農業の保全

 日本は、1997年に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、京都議定書を批准し、二酸化炭素削減に向け率先して取り組むこと。また、各国で行われている公害防止のための技術支援や、砂漠緑化や森林の回復などの環境修復の支援を行うとともに、その支援を積極的に行っているNGOなど民間団体への支援にも力を入れること。日本企業による「公害輸出」や環境破壊型「開発」を行なわないような国際社会に通用するルールづくりを強力に推進すること。国内の地域開発にあたっては、計画段階からその地域の中小企業や住民に対する十分な情報開示のうえで参加をもとめ、生態系や自然環境の保全、地域の生活環境、歴史、文化との調和をはかりながら、長期的視点で進めること。また、食糧自給率を高めるため、安全で健康な食べ物を供給する日本農業の健全な発展を図ること。地域づくりでは、農業が、治水や地域環境保全にも役立っていることを考慮し中小企業が主役になる計画にすること。

6.中小企業を核とした地域振興による地域産業と商店街の活性化、地方分権の推進

 大企業の事業所の撤退・閉鎖や海外移転などによって地域経済の空洞化がすすみ、地域集積・地域経済の衰退が進行している。その影響をできるだけ和らげ、新たなものづくり、新しい産業などを興して地域経済の再構築・再生をはかることが21世紀の日本経済の大きな課題になっている。地域と共に歩む中小企業をその再構築・再生の核に位置づけて、地域の中小企業を重視する政策スタンスが求められている。

(1)大企業の事業所の突然かつ一方的な撤退・移転は地域経済に甚大な影響を与える。そうした工場移転、閉鎖などにあたっては、その計画段階から地元の自治体・地域代表者と協議するというルールを制度化すること。また、地域開発政策等の一環として地方進出した大企業の事業所が企業側の事情で早期撤退・閉鎖する場合は、国や自治体が負担した公共経費と事業所税・固定資産税などの減免措置相当分を返還するというルールを制度化すること。

(2)地域経済の発展、地域コミュニティづくりに大きな役割を果たしてきた商店街の多くが存亡の危機にさらされ地域の衰退が危惧されている。そこで街の崩壊、地域の衰退状態を打開する新たなルールづくりと具体的な振興策が急がれる。次の施策を講じられたい。

  1. 街づくりの主体者は商店街、中小企業、地域住民であることを明確にして、商店街における中小小売業の事業活動の機会を適正に確保することを基本ルールに据えること。「街づくり政策・商店街振興政策の公募事業」を積極的な自治体を支援して進めること。
  2. 大店立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法の「街づくり3法」を活用して抜本的な新しい街づくり策を積極的に推し進めて、既成市街地の活性化、良好な都市生活環境の確保を図ること。中心市街地活性化法施行によってつくられたTMO(タウンマネージメント機関)については、イ)推進計画をバックアップする2ケタに及ぶ省庁の窓口の一本化、ロ)手続きの簡素化、ハ)認可から実施までを短縮化させるなどの改善措置をとること。
  3. 地域住民が街づくりに積極的に関わる仕組みとして「街づくり会社の株主公募制度」などを検討すること。

(3)地域コミュニティの主体となる商店街と個店の活性化を進めること。

  1. 零細店舗など商売上の工夫を考える自由な時間をつくりたくとも従業員雇用のできない層に対し、商店街ごとに販売のサポーターを派遣する制度を検討されたい。
  2. 空き店舗対策として、「商店主公募」やチャレンジショップ制度など店舗の家賃補助の支援策を拡充すること。空き店舗を借り上げ、リサイクル施設等の公共スペースを設置するなどの対策を講じること。特に、家屋の広い諸外国では女性が自宅で起業する場合が多いが、日本の住宅事情で女性起業家を多く輩出するためには、空き店舗や遊休施設の活用が決定的に重要であり、そのための施策を拡充されたい。
  3. 地域の社会的な問題解決のためのコミュニティビジネスの創業支援を進めること。「中小商業者が行う新たなビジネスモデル策定に対する支援」策をより拡充すること。各店舗の事業継承を支援する「後継者育成塾」の開催。
  4. 地方分権によって地域経済の活力を地域の中から築いていくことが出来るように、権限委譲に比べて遅れている財源委譲を速やかに実施すること。国税の一部を地方税に回す財源委譲措置が適切である。現在の「三位一体改革」方針には、補助金削減は一定の前進であるが、地方への十分な財源なしに一律で補助金カットになれば、義務教育や社会福祉など国民にとってのナショナル・ミニマムの行政水準が低下し、また自治体財政への一方的な負担転嫁になりかねないことや地方交付税の財源保障機能の縮小が具体的に提起されており、行政サービスがますます弱体化することなどの懸念がある。(5) 市町村合併は自主的に行うべきものであり、強制しないこと。人口が一定規模に満たない市町村を、「小規模市町村」に位置づけ、その権限を制限・縮小することは絶対に行わないこと。財政ばらまき政策による誘導策と地方交付税の削減という鞭を使い、小規模自治体の強制合併という強権政策をちらつかせながら進められている現状は将来に大きな禍根を残すものとなるのでやめること。

7.豊かな人間として育つための教育環境の重視

(1)中小企業と教育

  1. 青年や子どもたちが健全な労働観や地域社会観を形成していく一つの機会としての労働体験を中学校・高等学校の授業の一環に組み込み、その現場として中小企業を積極的に活用すること。また、日本のものづくりの機能を保全するため、中学校以上の教育に、技術・技能教育を積極的に取り入れること。
  2. 大学生のインターンシップ制度の実施にあたっては、企業の採用活動とは完全に切り離し、仕事のノウハウを覚えるという狭義の職業教育にするのではなく、学生が働く意味や生き方を学ぶ機会となるような教育理念のもとで行うように指導すること。
  3. 長期的視野に立って人材を育成するためには、教師、父母、行政、企業経営者等が協力し合い、地域内で共に努力を積み重ねることが必要である。そこで、これら4者による懇談会やシンポジウムなどの試みに対して積極的に支援すること。学校評議員制度の実施にあたっては、地域の企業経営者の任用を検討すること。
  4. 中小企業についての正確な認識がはかられるように、学校教育等では中小企業の最新の実態に基づいた正確な姿を教えること。その一環として、中小企業の経営者を授業の講師とすること及び教師が中小企業の現場で研修することを積極的に計画すること。

(2)ゆとりある教育に向けて

  1. 教育基本法の改正が論議されているが、教育基本法そのものの基本精神を損なう、教育の現場から遊離した上からの一律的「改革」を拙速に行うのではなく、各学校の実情に応じたていねいな援助が可能となるような教育行政自体の改革をすすめること。
  2. 子どもは子どもの中で育つという子どもの集団自身が備えている育ち合う力を信頼し、子どもたちで自主的に過ごす時間を増やすために、また教師が一人ひとりの子どもと向き合うゆとりが持てるようにするために、学習指導要領の改善と教師が30人学級で自主的に授業内容・授業時間を組み立てられるように改善すること。

8.労働環境改善と人材育成、雇用対策の拡充のために

(1)安心して働ける社会保障制度の構築と労働環境の整備

  1. 少子高齢社会を迎え、これまでの年金制度の見直しが迫られているが、現在のシステムを前提にして、保険料の値上げと給付の引き下げによって制度の延命をはかることは、企業や個人にとってこれ以上の保険料の負担は過大になるばかりか、確固とした将来展望が示されないことから、年金制度、ひいては国の社会保障制度への不信を呼び起こし、保険料の滞納など、年金空洞化を一層引き起こすことになっている。保険料率のさらなる値上げと、給与手取額の少ない短時間労働者への厚生年金の加入拡大は、企業と労働者双方にとって過大な負担となるだけで、現在の年金制度の矛盾をさらに拡大するだけといえる。また、老後への不安から、個人消費が伸び悩み、内需回復への足をひっぱるものとなっている。
    イ)国民が安心して老後を迎えられるような最低限の基礎的年金については、これ以上の社会保険料の引き上げではなく、国庫負担率2分の1への引き上げを直ちに実施し、年金水準の拡充を図ること。その場合の財源は、逆累進課税となる消費税に頼るのではなく、膨大な積立金の運用実績の情報公開を徹底して行うなど、現在の年金制度の問題点を具体的に国民に明らかにしながら、その積立金の取り崩しも含め、年金、医療、介護保険など安心して働ける社会保障制度全体をどう構築していくか、早急に国民に提言し、国民的論議を起こしていくこと。
    ロ)中小企業退職金共済は、予定利回りを引き上げるなど退職金額を引き上げ、魅力あるものとすること。また、共済加入企業以外で労働移動が発生した場合でも勤労者が個人単位で継続できるような制度を検討すること。
    ハ)中小企業が集まって設立しているいわゆる「総合型厚生年金基金」では長引く不況下で、基金の将来設計の見通しが立たないばかりか、経営状況の悪化に苦しむ加入事業者も多く、基金からの脱退や、基金そのものの解散を考えるところが増えている。しかし、解散時や脱退時に加入事業者が補填しなければならない積み立て不足額の大きさから、解散もできないジレンマに陥っている。社員が安心して働けるようにと、本来国が行ってきた代行部分の資金運用も含め企業が引き受けてきた厚生年金基金が機能不全状態にあるのは、制度設計時には国自身が予測できなかった経済環境の激変によるものであり、代行部分の積み立て不足に対する国の支援措置を検討すること。
  2. 企業が新分野に進出したり、急激な技術革新等に対応するため、企業内での労働能力向上のための教育訓練が不可欠となっている。現在行われているキャリア形成助成金など教育訓練への助成制度を、教育訓練を就業時間外で行わざるを得ないなどといった中小企業の実態にあわせて柔軟に活用できるものとするとともに、申請手続きの簡素化をはかること。また、新たな制度創設にあたっては、中小企業の実態にあった活用しやすいものとするため、立法過程から中小企業の意見を反映させるものとすること。
  3. 中小企業の経営実態に配慮し、労働時間短縮のための環境整備を推進すること。中小企業の時間短縮については、自企業の企業努力だけではなく関連企業・業界の協力、取引慣行等の転換が必要要件となっている。そこで、イ)省力化投資等に積極的な支援策を講じること、ロ)取引慣行を見直して業種ごとに労働時間短縮を促進する施策を行うこと、ハ)発注方式等取引改善指導事業、下請代金支払遅延等防止法、下請中小企業振興法の運用強化等、労働時間短縮のために下請取引適正化施策の一層の強化を図ること。
  4. 労災保険の民営化の動きがあるが、労災保険は労働災害にあった労働者に対する企業の補償を国の制度とすることで確実なものとするための制度であり、民営化は、労働者が安心して働ける労働環境を阻害するものとなる。現在の制度を維持拡充すること。

(2)育児・介護休業制度と保育所の拡充等による女性の社会進出支援

 少子・高齢化社会において、育児・介護休業制度を実効性あるものとするために、雇用保険法による休業給付金の拡充を行うこと。さらに、利用者のニーズに対応した保育施設・学童保育所の増設・充実、在宅介護支援制度の充実を図り、女性の社会的進出を支援すること。特に、産休あけ、育児休業あけの保育所の拡充や出産育児により長期に就労から離れる女性に対して社会復帰をはかるための教育訓練など施策を充実させること。
 介護休業制度では、要介護事由発生ごとに同一家族について複数回の取得を認めるとともに、短時間勤務との組み合わせや期間の上乗せなど、それぞれの介護の実情に合わせた柔軟な介護休業制度とすること。休業給付金の支給も、その実情に合わせ、支給日数の延長や給付額の引き上げなど一層の拡充を図ること。また、介護者が昼間安心して働けるよう、介護保険などを活用した在宅介護サービスの充実を図ること。

(3)高齢者と障害者の就労環境の整備と雇用の促進

  1. 公的機関が高齢者の多様な就労ニーズを高齢化社会のテンポにあわせて実現させるための環境整備を図ること。リタイヤした中高年齢者の技能・スキルを中小企業経営や地域づくりに活かす施策を検討すること。
  2. 高齢者の日常生活を支援するために、住宅、設備の修理や改修、掃除などを公的に援助することにより安価に利用できる制度を行政と中小企業とがタイアップする方式で設けること。その際、能力や技能のある高齢者を優先的に活用すること。
  3. 中小企業における障害者雇用を促進させるような支援策の拡充と利用手続きを簡素化すること。障害者雇用を実際に職場で支援する「ジョブコーチ派遣制度」は、職場実習の場合も利用できるようにするなど、一層の充実を図ること。特に、イ)ジョブコーチの養成と増員を急ぐこと、ロ)障害者とジョブコーチのペア雇用を進めること、ハ)社員にジョブコーチの資格を取らせる場合に援助すること。また、働く障害者の自立を支援するため、グループホームなど、地域における生活を支援する制度の拡充を図ること。
  4. 障害者作業施設設置等助成金などの適用にあたっては、障害者雇用を前提として施設の設置や整備を行った場合、雇用前であっても助成金の支給を実施すること。障害者雇用の現状は、大企業より中小企業の方が進んでいる。障害者の雇用状況を発表する際は、実情が正確にとらえられるように、法定雇用率適用外の従業員規模55人以下の企業における障害者雇用の状況も必ず発表すること。

(4)雇用対策の拡充について

 失業率の上昇は続き、今後も不良債権の早期処理等により失業者の急速な増加が予測されており、セーフティネットと教育訓練機能の強化が急務となっている。雇用のミスマッチをなくし、再就職を支援するため、職業訓練を前提に失業保険の支給額と支給期間を拡充すること。また、若年者安定雇用促進奨励金(トライアル雇用制度)の対象年齢の拡大や支給額などの拡充を図ること。

9.清潔な政治・行政の確立と武力によらない国際貢献、国際交流の推進

  1. 政府の役人・政治家と民間業者との贈収賄事件や高級官僚による不祥事は、あとを絶っていない。政治腐敗を招く根元である政党への企業献金・団体献金は禁止すること。政治・行政に対する国民の信頼を回復させるために、公務員倫理の確立と厳正な実行、高級官僚の関連業界への天下り禁止、国民への情報公開などについて、さらに真剣な努力を行うこと。
  2. 米国での同時テロやイラク戦争では、沖縄の観光業界など日本の観光業界に多大な被害を与えたが、平和裏に経済活動に専心できる環境づくりが国の内外で切望される。日本国憲法の平和理念にのっとり、国際社会の平和のために日本の役割をいっそう強化すべきである。国際紛争は国連を通じて平和裏に解決する努力が求められている。
  3. 外国人研修生受入事業の充実として、外国人研修生受入れにたいする支援措置の拡充ならびに研修生の入国手続きの簡素化等環境整備を図ること。また、外国人労働者の宿泊施設、住宅の提供、住宅の斡旋、労災保険や健康保険等の制度の充実を図るとともに、社会生活に対する相談センターや日本語ほかの知識を習得するための研修機関を整備すること。

10.中小企業を経済発展と雇用の主役に位置づける「中小企業憲章」の制定を

  1. 日本政府は、中小企業を国民経済の豊かで健全な発展を質的に担っていく中核的存在として位置づけ、日本経済に果たす中小企業の重要な役割を正確かつ正当に評価することを通して、中小企業政策を産業政策への補完的役割から脱皮して中小企業重視へと抜本的に転換することを「宣言」し、日本独自の「中小企業憲章」を制定すること。国家行政組織法などを改正し、中小企業庁を経済産業省の外局から内閣府の外局に移して担当大臣を置くこと。また、「憲章」の主旨を地方公共団体にも徹底するため、「中小企業振興基本条例」を未制定の自治体には制定を促すこと。また、条例が制定されても要請される地域産業政策水準からみて不充分な自治体には条例の見直しを促すこと。
  2. 「中小企業憲章」で検討する理念や課題を実現するためには、中小企業に関連する予算を急速に拡充することが求められている。国の総予算に占める中小企業対策費の割合は現在、0.23%と極めて低いレベルが継続しているが、この比率を1%に引き上げること。

以上