59号特別調査「経営環境の変化と対応」

「取引先の倒産・廃業経験あり」66%

概要

 8月から9月にかけて行われた、中同協企業環境研究センターの特別調査「経営環境の変化と対応」の結果をまとめた「DOR59号」が発行されました。回答企業数は4029社。

 回答企業の65・8%が過去1年間に取引先の倒産・廃業を経験、そのうち54・6%の企業が債権回収ができなかったことが分かりました。この長期不況の中で、不良債権処理政策を強行することが、多くの健全な中小企業を市場から排除していく可能性を示しています。また、中小企業の海外展開の状況などを明らかにしています。

 「DOR59号」は頒価200円。お問い合わせは中同協まで。

グローバル化、空洞化の中で地域密着志向

 最近急速に進んでいる、中小企業を取り巻く環境変化と空洞化の現状を把握するため、中同協では8月末から9月初旬にかけ、「経営環境の変化と対応」特別調査を同友会の会員企業を対象に実施しました。この特別調査には、全国から4000を超える回答がよせられました。その集計結果がまとまりましたので、概略を紹介します。詳細は「DOR59号」をご覧下さい。

取引先企業の倒産・廃業は66%の企業が経験

 「過去1年間で取引先企業の倒産・廃業の有無」を聞いたところ、回答企業の65・8%が過去1年間に取引先の倒産・廃業を経験しています。

 この質問はこれまでDOR(四半期ごとに実施している同友会景況調査)では2001年10~12月期(「経験あり」61・8%)、2002年1~3月期(「経験あり」60・8%)と2回にわたり調査しています。しかも2002年1~3月期の調査では、「経験あり」と答えた企業のうちの65%が債権回収が不能となっています。こうしたことを踏まえ、同友会会員企業全体ではどのような状況にあるかを聞いてみました。

 結果は、「経験あり」が65・8%と、DOR対象企業の調査より深刻さが増しています(図1)。

DOR59号特別調査図1

さらにその相手先を聞くと、取引先企業規模は「中小企業」(94・4%)が圧倒的に多く、その影響については「債権回収不能」(54・6%)、「影響なし」(30・6%)、「新規取引先探索」(23・6%)のポイントが高くなっています。全体の35%強の企業が取引先の倒産・廃業によって、債権回収ができず不良債権化したというのです(図2)。

DOR59号特別調査図2

経営環境変化への対応は 進む事業の再構築

 「経営環境変化に対する対応」について聞いたところ、経営戦略の立て方では、その重点の置き方がそれぞれ異なっています。

 すなわち「財務体質の強化」(37・0%)、「得意分野の絞り込み」(35・2%)、「情報力の強化」(30・8%)、「企業組織のスリム化」(27・9%)、「新規事業部門を新設」(27・6%)が重点対応策となっています(図3)。

DOR59号特別調査図3

 「財務体質の強化」「情報力の強化」は、基礎的対応とみられますが、「企業のスリム化」をはかり「得意分野に特化」させるというコアコンピタンス(得意分野)を深耕させる方向に戦略を立てるか、今こそチャンスととらえ、あるいは既存事業分野からの脱皮を考え、「新規事業分野の開拓」という戦略を立てるのか。いずれにせよ、中小企業のリストラクチュアリング(事業の再構築)が進みつつあることがうかがえます。

雇用・採用面での対応は 広がるパート・アルバイトの活用

 雇用や採用面では、2000年の秋以降、どのように対応したのかを聞きました。
一番目の対応は「パート・アルバイトの活用」(36・1%)、以下「特になし」(22・6%)、「人員削減(リストラ)」(14・0%)、「大企業以外からの中途採用」(13・5%)、「新規採用の拡大」(13・3%)、「新規採用の縮小」(11・0%)と続きます(図4)。

DOR59号特別調査図4

 人件費の変動費化などもいわれる中、社員の自然減や人為的削減による人手不足を臨時の労働力で補う姿勢もうかがえます。

 なかでも北陸・中部圏では「パート・アルバイトの活用」が39・2%ともっとも高くなっています。もっとも北陸・中部圏は「退職後の再雇用制の導入」(12・8%)、「新規採用の拡大」(16・3%)と、6地域ではもっとも高く、雇用については正規従業員、臨時従業員を問わず、もっとも積極的な地域となっています。

6割超が地域空洞化を危ぐ

 地域産業の空洞化の進行具合についての質問では、所在地域での空洞化について「空洞化の可能性はない」という楽観的な回答は8・6%にすぎません。「進んでいる」(36・9%)、「今後進みそう」(25・0%)をあわせれば6割を超え、地域の空洞化を危惧する姿が浮き彫りにされます(図5)。

DOR59号特別調査図5

 6地域別では、相対的には北海道・東北(56・6%)、九州・沖縄(48・7%)が低く、北陸・中部が72・4%と最も高くなっています。80%を超える県は岩手県(84・8%)、栃木県(80・6%)、群馬県(81・7%)、長野県(82・4%)などとなっています。

 これら地域では、これまで大企業を中心に工場誘致などを積極的に行ってきており、生産の海外移転による空洞化の危機感は極めて高いものがあります。

空洞化の3大問題「倒産・廃業の増加」「雇用悪化」「商店街の衰退」

 空洞化によって今もっとも地域の問題となっているのは、「倒産・廃業の増加」(46・0%)、「雇用悪化」(40・5%)、「消費低迷による商店街の衰退」(37・3%)があげられています(図6)。

DOR59号特別調査図6

 ここでは業種による差が大きく、建設業では「倒産・廃業の増加」(43・7%)、「雇用悪化」(42・3%)があい並ぶ位置を示し、製造業では「倒産・廃業の増加」(54・5%)が群を抜いています。流通・商業では「倒産・廃業の増加」(43・9%)、「消費低迷による商店街の衰退」(42・7%)がほぼ拮抗しています。

 一方サービス業では「雇用悪化」(45・6%)、「消費低迷による商店街の衰退」(44・8%)が高率で並び立っています。

 業種別による差が地域別にみる差より大きいのは、回答企業が自社の属する業界から地域の問題点を探る視点が強く働いていることを示すものと考えられます。

海外展開先は中国が最大

 過去5年間に海外移転、生産委託した主要取引先があったかどうか、という質問には「ある」が29・7%、「ない」が70・3%となりました。

 業種による差も大きく「あり」は、製造業では44・9%、流通・商業が32・4%と他の業種に比べ多くの企業がこの問題に直面しています。6地域別でみると近畿での「あり」(34・7%)が高くなっています。

 海外展開した取引先の移転先では、中国が最も多く79・7%とトップとなり、中国以外のアジアが36・5%、北米NAFTA(4・4%)、EU(3・0%)はきわめて少ない結果となりました。

回答企業の6割は海外進出「予定なし」だが

 「海外へは進出の予定がない」とする企業割合は59・6%、「海外へ生産委託する予定はない」(32・4%)とする企業が太宗を占めます。

 しかし「すでに進出」(3・7%)、「生産委託」(5・1%)、さらには「近く進出予定」(1・0%)、「近く生産委託予定」(0・7%)、「現在検討中」(7・8%)をあわせれば、それは1つの勢力であり、1つの方向性を持つといってよいでしょう。

 この海外展開組の展開先を尋ねると、中国が76・3%、中国以外のアジアが39・2%となっています(図7)。また北米等NAFTAが8・0%、EUが4・9%となっていて、先に見た取引先の展開先と比べると、回答企業の海外展開は北米NAFTA、EU指向が強いといえます。

DOR59号特別調査図7

海外展開「する」「しない」は積極的な事業戦略に基づく

 また海外展開する理由について、「国内より安価な調達が可能」(53・3%)、「安価な労働力」(32・9%)とする回答企業割合は多いものの、他機関の同テーマの調査に比べれば少なく、「事業機会の拡大」(24・9%)、「進出先の市場の魅力」(21・4%)と回答する企業割合も次なる集団を形成しているように考えられます(図8)。

DOR59号特別調査図8

 コスト面などがまだ主要な理由となりつつも、積極的な事業戦略と計画的な展開による海外進出組が層をなしていることは、中小企業にとって海外進出が必ずしも「空洞化」に結びつくだけのものではないことを物語っています。

 また、海外展開しない理由についてみると、「国内立地でなければ成立しない」(42・6%)「国内立地にこだわりたい」(21・0%)、「進出しなくても十分競争力がある」(10・4%)とした地域密着オンリーワン企業志向型グループが太宗を占め、「リスクが大きい」(23・1%)、「資金がない」(16・1%)、「人材がいない」(12・8%)という消極的海外未展開グループは相対的には少数派といえるかもしれません(図9)。

DOR59号特別調査図9

戦略的思考で挑戦しつづける会員企業

 今回の調査を通じて見えることは、長期不況の中で取引先の倒産・廃業により債権回収もできないという現実が周辺に起こりつつも、なお堅実に生き残り、成長を遂げようとする同友会会員企業の姿です。さらに地域の空洞化が声高に騒がれるなかでも、「地域があってこそ」と地域や国内立地にこだわる中小企業群でもあります。

 海外への展開をするにしても、そこに見え隠れするのは、低価格競争による「コスト低減」にかたよった短期的な収益を追いかけるものではなく、積極的、長期的な事業戦略に基づいた海外展開をする企業像です。

 同友会会員企業がきわめて戦略的思考に基づいた行動を示すことを物語る調査結果といえるでしょう。

【調査要領】

調査時:2002年8月20日~9月10日
対象企業:中小企業家同友会会員企業
調査方法:FAX送信により自計記入を求めた。一部聞き取り調査もあった。
回答企業数:19,618社より4,029社の回答を得た(回答率20.5%)
(建設業733社、製造業1,109社、流通・商業1,223社、サービス業941社、その他18社)
平均従業員数:正規従業員数:27.9人、臨時・パート・アルバイトの数:25.8人 総従業員数:45.8人
平均資本金:2,792万円

【回答企業のフェイスシートの概要】

 4半期ごとに行うDORの業種別構成と大きくは変わらないものの、流通・商業が30%を超えたこと、その他(農林水産業、鉱業など)がわずかですが回答しています。

 正規従業員規模でみると、平均では27.9人となっています。DORの対象企業の平均は40人前後ですから、平均像として描かれる企業規模は小企業が多かったといえます。このことは平均資本金規模でも伺えます。平均資本金2,792万円、とくに1,000万円以下の割合は58.6%となっています。うち、資本金1,000万円ちょうどの企業割合は回答企業の37.8%にのぼります。

「中小企業家しんぶん」2002年12月5日号より