(株)植松電機(北海道同友会会員)は、北海道大学との産学連携で宇宙ロケットの開発に取り組み、2006年12月23日、「カムイロケット」の打ち上げ実験に成功するなど、宇宙ビジネスに挑戦。同社の取り組みを、第37回中小企業問題全国研究集会での報告より紹介します。
宇宙ロケットに夢のせて
小さな会社の大きな挑戦、産学連携の成果を生かして
(株)植松電機 専務 植松 努氏(北海道)
当社の本業は、建設機械のアタッチメントとして使われる電磁石の製造です。建物を壊したとき、コンクリートと鉄筋に分別する作業現場などで使われています。小型で性能がよい製品を開発したところ、2002年の建設リサイクル法施行が追い風となり、油圧ショベル用のものは国内9割のシェアがあります。
当社では、本業のほか、ロケットエンジンの開発、小型人工衛星の開発、無重力実験塔、アメリカの企業と民間宇宙開発共同事業を行っています。
爆発しないロケット 2000年までは父と私の2人きりの会社でした。ロケットとかかわるようになったきっかけは2004年、北海道大学の永田晴紀教授との出会いでした。この先生が爆発しないロケットエンジンをつくっていると聞き、「全財産を注ぎ込んでもいいからやらせてほしい」と頼みました。それからは次々と話がきました。
昨年9月23日に打ち上げられた人工衛星「HIT―SAT」は、北海道工業大学・佐鳥新助教授の「北海道の技術で人工衛星をつくろう」との呼びかけにこたえたもので、今も1日15回、地球の周りを回っています。衛星画像を使って農漁業に役立てる構想もあります。 アメリカのロケットプレーン社とのお付き合いも、本当にまぐれから始まりました。神様が「お前やれ」といっているのだなと思いました。
いま、新しい建物の屋根には衛星と交信するためのアンテナを装備し、口径40センチの天文台も設置して、衛星や国際宇宙ステーションを目視で追跡できる環境も整えています。
永田先生と一緒に取り組んでいる宇宙ロケット「CAMUIハイブリットロケット」の特徴は、エンジンの燃料にポリエチレンの固まりを使っていることです。火薬や液体水素を使っていないため、燃料が飛び散る2次爆発の危険がありません。安全確保のためのコストが大幅に安くなり、機体も小型で、再使用が可能であることから、従来の10分の1以下のコストで済む、世界で最も性能が高いロケットエンジンといわれています。
爆発しないので、すぐそばで実験を見ることができます。燃焼実験の時には近所の子どもたちがやってきて、数万馬力のロケットエンジンが動く様(さま)に目を輝かせています。宇宙開発というものは、どこか遠くの話ではない。膨大なお金をかけなければできないことではないのです。
マイ無重力実験塔
当社には高さ55メートルの無重力実験塔があります。鉄塔の天辺からカプセルを落とすと、地上に落ちるまで3秒かかります。この3秒の間、カプセル内部は無重力状態になるのです。
宇宙開発になくてはならない実験施設ですが、現在世界中でも、ほかにはドイツと岐阜県にしかありません。かつては道内でも炭鉱施設を再利用した実験施設がありましたが、維持費がかかり過ぎるため閉鎖され、研究者から困っていると相談されました。
1回の実験費用は、ドイツ120万円、岐阜でも90万円かかるそうです。研究者は通常、国などから補助を受けて実験しますが、「うまくいかないかも」では補助申請は通りません。そこで国に頼らなくとも実験のできる施設を作ろうと考えたのです。
昨年1年間だけで350回の実験が行われましたが、お金は1円もいただいていません。当社の実験棟はバス停の前にあって便利で安いとあって、フランスや韓国の学生らも利用していきました。しかも隣は鉄工所ですから、壊れたといっては溶接したり、部品を探して直すことができます。
また、ビジネスジェット機にロケットエンジンを搭載して、普通の滑走路から離陸し、空気の薄いところまでいったらロケットエンジンに切り替えるという実験を、アメリカのロケットプレーン社が行っています。当社では、そのロケット機で実施する微小重力実験の装置の開発と、その予備実験を共同で行っています。
人の可能性はすごい
昨年1年間で、約1000人の子どもたちが工場見学に来ました。当社では仕事の手を止め、子どもたちと遊ぶことにしています。そんなことをやっていると、社員がにこやかに仕事するようになってきました。
当社に大卒はほとんどいません。全員が中途採用で、つなぎの作業服を着て汗にまみれています。社員を雇用して6年たってわかったことは、人にはすごい可能性があるということです。
いまロケットエンジンを担当している社員は工業高校を中退して、18歳で結婚、子どもができ、ラーメン屋さんでアルバイトをしていました。今流に言えば「負け組」に入るのかもしれません。しかし彼は、1冊1万5000円もするようなロケット工学の本を買ってきて、付箋だらけにして読んでいます。
去年ニューメキシコ州であった宇宙開発の会社が集まるイベントに、尻込みする彼を後押しして行かせました。彼は、まわりに日本人がいなければ英語はしゃべれるのだと気づき、一生懸命コミュニケーションをとってくれました。おまけに会社のつなぎを着て行ったので、「ジャパニーズ・アストロノーツ!」と、サインまで求められ、人気者になりました。学校時代の点数にしばられてはいけないものだと、つくづく思います。
無重力実験施設と人工衛星に取り組んだのは、ロケットを事業として成立させたかったからです。どんなことがあっても、宇宙開発の灯は絶やさない、という決意で取り組んでいます。
悔しさが宇宙開発と引き合わせる
宇宙開発をやるきっかけは、ボランティアで餅つきに行った児童施設での体験でした。職員の方からスキンシップを禁止されるので、理由を尋ねたら、児童虐待を受けた子どもたちだからとのこと。子どもたちはまるで銃殺されるかのように壁に張り付き、おびえた目でこちらを見ています。かけ声も手拍子もないまま餅をついていたら、次第に寄ってきてくれて、最後はジャングルジムのようによじ登られながら、みんなで餅をつきました。
この子たちは、こんなに人が好きなんだ。最愛の親に裏切られ、傷つけられたにもかかわらず、人を求めている。その時に思い出されたのが、自分の子ども時代、「将来、飛行機やロケットを作る仕事がしたい」といったところ、「お前はバカだからできるはずがない」と言い続けた大人たちの存在でした。それを何とかして引っくり返さないと、永久にこういう子どもたちが生まれてくる。自分を支えてくれた飛行機や宇宙開発のことを教えてあげたいと思いました。
子どもたちを集めて勉強会を開こうと小学校の前でチラシを配りました。子どもたちは喜んで受け取ってくれるのですが、PTAの集まりで父母にチラシを渡したら、「うちの子にこんな難しいことわかるわけがない」とポイと捨てた親がたくさんいました。悔しくて、絶対実現してやると思った時に、永田先生と出会ったのです。
Don’t think. Do!
ロケットを飛ばしたとき、「お金で買えない喜びがあることを知った」と社員が言ってくれました。そんな喜びはいっぱい落ちています。だからそれを見つけに行こうと誘うのです。
今、中小企業でも、研究開発をやめてしまうところが多くなりました。しかし、やるべきテーマはたくさんあります。当社では、昨年10人だった社員を1年で16人にしましたが、断らなければならないほど、仕事が追いつきません。
研究開発は、やったことがないことをやるものです。だから指示を出すことができません。「この人工衛星どうやってつくるんですか」と訊(き)かれても、「さあ?」としかいいようがありません。指示待ち族では何もできない。言われなくても考えて動く人間が必要です。
ロケットプレーン社のCharles J. Lauerという人が、「Don’t think. Do!」という言葉を教えてくれました。「考える暇があったらやってみろ!」という意味です。奇跡はそこからしか生まれません。
人工衛星を1年半かけてつくった社員は今、人工衛星の試験装置を使って、アスパラガスのフリーズドライに喜々として取り組んでいます。子どもたちも10年すると僕らの仲間です。人の可能性を信じ、信ずるに値する未来を描けるようにするために、まず大人がやってみせようと思います。
【会社概要】
設立 1999年
資本金 1000万円
社員数 16名
業種 車載型低電圧電磁石システム設計・製作・販売
所在地 北海道赤平市共和町
*(株)カムイスペースワークスを、永田晴紀氏と2006年12月11日設立。カムイロケット打ち上げの模様など、同ブログに詳しい。
「中小企業家しんぶん」 2007年 4月 5日号から